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 ナハトにとってセシリアは生きてはいけない存在だ。なにせ彼の悪事を知る唯一の存在なのだから。

 それだけではない。彼に毎回小言を言って、魔王討伐を【邪魔した】罪人。


 別に彼女が居ずとも魔王は討伐できたのだ。セシリアがその歩みを遅らせなければ、もっと早く世界は平和になっていたはずなのである。


 さて。

 そんなナハトは魔王とセシリアを倒したあと、人間の国へと帰り、王位を継いだ。

 なかなか子宝に恵まれず、やっとできたフィーネを生んだ王妃は死んでしまった。


 ゆえに、ナハトにとってフィーネは大切な一人娘なのである。失うわけにはいかない。


 ……そんなフィーネが今回、奈落の森へと出かけたという。森に騎士たちを遠征に向かわせようとしたのだが、これを止めろと彼女は言ってきたのだ。


 あのあたりには豊富な資源が眠ってはいる。だが、瘴気と呼ばれる毒ガスが満ちていて手が出せない。先代たちは何度も資源を確保しようとして失敗を続けたらしい。


 だからこそ、ナハトは王となった後、あの森への遠征に固執した。前の王たちが失敗し続けたことを、やり遂げれば、自分の名声も上がる。


 否、元通りになるだろうと。

 ナハトは王位を継いだあと、失敗が続いた。元々彼に政は向いていなかったのだ。目先の利益だけで動く。思慮も浅い。

 何度も政治に失敗して、その度に笑われた。


 失敗して、その責任を大臣に押し付け、腹いせに殴る蹴る。そんなことをするものだから、ナハトの王としての評判はガタ落ち。


 どうしても、彼は王としての威厳を保ちたかった。奈落の森に眠る資源を手に入れたかったのだ。


 ……そんな思いがあったなかで、愛娘フィーネが森へと向かった。森に入ろうとしたら止めるつもりだったのである。

 ところが、森へ向かう前に、妙な一団と接触した。


 レオニダスと名乗る魔族。そして、死んだはずのセシリアの名を騙る女。

 フィーネに設置したのは盗聴器と発信機だけ。つまり、その場の映像を見たわけではない。


 盗聴器越し、さらに三〇年ぶりということもあり、フィーネの目の前にいるのが、あの時始末した聖女と同じかはわからない。


 だから、ナハトは、セシリアを、確かめに向かったのだ。


    ◇


「フィーネ!」

「……お父様」


 ナハトが到着したのは、かつて魔王城があった場所である。

 奈落の森に程近い場所にあるのだが、この城はかつての威容を保っていた。


 いや、あの時以上に、輝いて見えていた。

 城の前にはフィーネと、商人、騎士たち、そして……


「そこのお前、魔族だな」

「……ああ。レオニダスという。初めましてだ、ナハト王よ」


 レオニダスと名乗った青年は、自らが魔族であることを隠さなかった。

 魔族。かつて手を焼いた、敵。今彼には武器がない。どうするべきかと、内心で焦る。


 だが、どうしたことか、レオニダスは自分に対して跪いていた。害意も敵意も不思議と感じられない。


「おまえ、何が目的だ? うちの娘を城に監禁して」


「監禁ではない。姫は【俺の】城を改装したホテルに宿泊していただけだ」


 レオニダスは俺の、という単語を強調した。


「ホテルだとぉ? 何をふざけたことを」


「ふざけてはいない。ここは、この地を訪れるものなら誰でも利用できる、憩いの宿へと生まれ変わったのだ」


「ふん! 何を勝手に……。第一、この土地は我ら、ゲータ・ニイガのものだ!」


 魔王国は滅ぼされて、その後、人間の国ゲータ・ニイガへの飲み込まれた。

 だから、この地は自分たちのものだと、ナハトは主張しているのである。


「貴様は他国の土地で勝手に商売をしたことになる」


「……それは、認めよう」


 ふんっ、とナハトは鼻を鳴らす。


(こいつどういうわけか下手にでてきているぞ……)


 魔族は武力では叶わない相手だ。だがこの場において、主導権を握っているのは、ナハト。

 ナハトは気が大きくなったのか、にやりと笑って主張を続ける。


「即刻、この城から立ちのきを命じる。この城で働くものも、不法滞在の罪で裁いてやるつもりだから、覚悟するんだな!」


 ナハトが声高に宣言すると、控えていた騎士たちがレオニダスに近づく。


「お父様! あんまりでございます!」


 フィーネが止めようとするも、ナハトは話に耳を貸さない。


「おい、他にも従業員がいるはずだろ? 女はどうした?」


「女は逃げた。俺の正体……魔族であることを知ってな」


(逃げた? まあ、そうか。セシリアのアホも人の子だ。魔族を怖がって逃げ出したのか)


 ナハトは、二人が積み重ねてきた時間を知らない。セシリアの価値観の変化に気づいていない。

 魔族とは理解不能の化け物。人間はみな魔族を毛嫌いしてる。


 皆、という中にセシリアもふくまれてる。そう、勝手に断定した。だから、レオニダスの言葉を鵜呑みにしたのである。


「ならばよい。貴様を連行する。ああ、それとそこの商人と騎士たちも連れて行け。魔族は全て敵だ」


「な!? ひ、ひどいですお父様!」


 フィーネの子がいである商人と騎士たち。

 フィーネが拾ってきたのは知っていたが、まさか魔族だとは思わなかった。


 彼らと、レオニダスとの会話を聞いていた。だから、この場にいる隠れ魔族について気づいたのである。


「ああ、フィーネ。おまえは魔族に洗脳されているのだ。かわいそうに。これも、全部セシリアのせいだ」

「どうしてそこでセシリア様の名前が出てくるのですかっ!」


「おまえはあの悪魔によって毒されてしまったのだ。フィーネ。でなければ、魔族と共に行動しようなどとはしない」


(それに逃げたセシリアと同調していたしな)


 逃げたセシリアは後で捕まえればいい。どこへ行ったかは検討ついていない。だが、小娘一人で逃げられる場所など限られている。あとからどうとでも捕まえることができる。


 今は娘の保護を最優先。次に魔族たちの捕縛。


「さぁ、帰るぞフィーネ」

「いやです! お父様、ちゃんと話し合ってください!」


 ナハトは娘の言葉を無視して、騎士たちに魔族を連行させる。


(そういえば、フィーネが雇っていた冒険者らの姿が見えないな……)


 黄昏の竜のメンツがこの場にいないことに、ナハトは気づいていた。


(黄昏の竜のやつらがセシリア逃亡に一役買った……かもしれんが、なにぶん証拠もない。また、あいつらは魔族でもなかったし、捕まえるだけの理由もない)


 冒険者たちは一旦放置することにした。

 暴れるフィーネだったが、魔法で眠らされ、馬車の中へと運び込まれる。

 レオニダスをはじめとした魔族たちは、驚くほどおとなしく、こちらの言うことを聞いたのだった。

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