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ラスカから衣類や食材を手に入れた。フィーネとラスカ、そして魔族の騎士たちは、部屋で休みたいという。
案内する前に、片付けておきたい作業があった。彼らを応接間で待たせ、セシリアはいったん事務室へ戻った。
「セシリア~」
真理がふよふよと近づいてきた。
「ラスカっていう商人さん、ちょっとまずいかもしれないよ」
「まずい? どういうこと?」
「セシリアがあまりに規格外すぎるから、裏に大貴族との繋がりがあるんじゃないかって疑っているようだよ」
そんなものは一切ない。しかし——。
「もしかして、聖女セシリアだってバレそう……?」
あまり自覚はなかったが、レオニダスや周囲の反応があまりに大きすぎる。自分の力のせいで、三十年前に死んだはずの聖女だと、気づかれかけているのかもしれない。
「ラスカはまだ確信を得ていないようだね」
「そっか……」
安堵したのも束の間、真理がさらなる爆弾を投げ込んできた。
「あのフィーネっていう王女様は、君を疑っているよ。三十年前に亡くなったはずの聖女じゃないかって」
「え!? な、なんで……?」
「さあ。直感らしいよ」
「なにそれ……」
まったく論理的ではなかった。
「どうやらあの王女様は、後天的に直感を磨いたみたいだよ。スキルとは別に、自ら鍛え上げて得た特殊な能力を持つ人って、いるんだよ」
どちらかといえば、セシリアの魔力制御力や魔道具作成能力に近いらしい。
「あまり目立たない方がいいと、真理は思うな」
「…………」
友人として真剣なアドバイスをしてくれているのだろうと思う。今は目立たずに行動するのがベストだろうか。
しかし——。
「セシリアは、思った通りに行動した方がいい」
「レオニダス……」
客の相手をしていたレオニダスが、いつの間にかセシリアのもとへ来ていた。
「大丈夫さ。ラスカはともかく、あの王女様は魔族を側近に起用し、ラスカの正体を知りながら親しくしている。それだけ器の大きい人物だ。正体が知れたところで、悪いようにはしてこないよ」
レオニダスはセシリアの決め事を知っていた。思うまま、行動する——自分が後悔しながら二度死んだ経験を経て、大切にしようと決めたこと。レオニダスはそれをきちんと理解し、尊重してくれていたのだ。
「…………」
いつもならただ「ありがとう」と言って終わりだった。しかしこのときはなぜか、別の言葉が口をついて出た。
「ねえ、どうしてレオニダスは、私をそんなに大切に扱ってくれるの?」
純粋な疑問だった。まだ出会って間もないというのに、どうして——と。
「君が初めて、俺に人という種の奥深さを教えてくれたからさ」
「…………」
少し抽象的な言い方だったが、なんとなく言いたいことは伝わった。
「人はどうしようもなく愚かで残酷な種だと思っていた。叔父を殺した勇者が、その代表格だとね。でも君は違ったじゃないか」
弱ったレオニダスを、窮地の冒険者たちを、瀕死の神獣を——いつでも躊躇なく助けてきた。
「俺は君の、前向きで優しいところが良いと思った。そばで支えてあげたいと、そう思ったんだ」
なんだか、顔が熱い。不思議な気持ちになっていた。嬉しいのは確かだ。しかしそれだけではない気がした。胸が締め付けられる。レオニダスの顔を直視できなかった。
「ちょっとさー。そういうのはさー、保護者がいる前でやらないでくださらなーい?」
真理がちかちかと明滅しながら言う。
「保護者って、誰よ……」
「そりゃ真理さんですよ。セシリアをずっと見守ってきた、保護者的サムシング」
友人だったり保護者だったりと、忙しい精霊だ。
「まあね、真理は別に、セシリアが誰を好きになっても構わないよ。幸せにしてくれるのなら、誰と付き合ったっていい」
「な……!? は、はぁ!? つ、付き合う!? 誰と誰がよっ」
声を荒らげるセシリアに、真理はそれ以上何も言わなかった。つい大きな声を出してしまった。……どうして、という疑問の答えが、頭の片隅にほんのわずか引っかかる。
しかしその答えをつかもうとは思わなかった。まだ早すぎる。出会ったばかりだし、彼がそんな目で自分を見ているかどうかさえ定かではないのだ。
(一旦冷静になろう……今はそういうの、考えなくていい)
深呼吸をひとつ。レオニダスを見ると——やはりどこか照れくさくて、少し目線をずらしながら言った。
「私、宿に来てくれた方が満足してくれるような宿にしたい。だから今日手に入れたもので、宿をアップデートするわ」
たとえそれが王女に正体を知られるきっかけになったとしても、大丈夫だ。レオニダスがいる。彼が大丈夫だと言ってくれた言葉を、信じたい。
「俺もそれがいいと思う。君は思う通りに進んでくれ」
セシリアはうなずいて、手に入れたものを使って、宿の利用者がもっと喜んでくれるものの作成に取りかかった。
まず取りかかったのはラスカからもらった布だ。調和の魔力は、繊維の配列を思い通りに整えることができる。その性質を使って、布を裁断することなく形を変えていく。その過程で、セシリアはある【仕込み】を施しておいた。
繊維がセシリアの思う通りに形を変え、力のある配列へと整い——【特別な部屋着】が完成した。それを人数分作ることなど、セシリアにとって朝飯前だった。
彼女にはこの世界の人間に平等に与えられるスキルがない。だからこそ、フィーネのように、後天的に努力を重ねていくつもの特殊な能力を身につけてきた。自分に与えられた手札を、いかに応用できるか——それをセシリアはこの世界に生まれてからずっと考え、練習し続けてきたのだ。その結果、奇跡のような技を習得するに至った。
「部屋着完成。次はアメニティ!」
一度やると決めたときのセシリアの集中力は凄まじい。手に入れたものを、次々と別のものへと作り変えていった。




