30.
「くそ……くそぉ……体が痛む……! 治癒師を呼べ!」
場所は王城だ。魔王討伐を成し遂げたナハトは、その後このゲータ・ニィガ王国の国王となっていた。「魔王を倒した英雄王」という肩書きのもと、やりたい放題を続けてきた。気に入らないことがあれば、人にもものにも即座に当たり散らした。
「し、しかしナハト王……治癒師をお呼びしても、意味はございません……」
大臣がなだめようとする。しかしナハトには言葉が届かないらしかった。
「うるさい! 命令だ! さっさと治癒師を呼べ……!」
大臣は深くため息をついた。先ほど告げた通り、意味がないからだ。しかしナハトの癇癪は、自分の意見が通らない限り収まらない。大臣にできることは、国王の言葉に従うことだけだった。意味がないとわかっていながら、治癒師を呼びに行く。
宮廷には今、高い報酬で雇われた多数の治癒師がいた。すべてナハトが用意させたものだ。無論、宮廷内の福利厚生のためではない。
「おい、治癒師! 体が痛む……! なんとかしろ、今すぐ!」
年配の治癒師がやってきて、ナハトの状態を確かめた。そして、告げた。
「今すぐ治すことは、不可能でございます」
「どういうことだ!?」
「王はご病気ではございますが、一朝一夕で治るものではないのです」
「意味がわからん……!」
治癒師が説明する。
「王はケガも負っておらず、また通常の病を患ってもいないのです」
「ふ、ふざけるな……! 体が常に痛むのだぞ! 息苦しいし! どう考えても病気ではないか!」
治癒師は静かに首を横に振った。
「ご存知の通り、治癒魔法は天の神に祈りを捧げ、ケガや病を癒していただく術でございます。しかしいくら祈りを捧げても、神はあなた様の体に何もお施しになりません。これが何を意味するか、おわかりになりますか?」
「知るか……! 神がさぼっているのだろう!?」
「いいえ、違います。神はおっしゃっているのです。それはケガでも病でもない、と」
この異世界の文化水準は決して高くない。医学や薬学の知識も、現代と比べればお粗末なものだ。
治癒師は具合の悪い者に術を施すことができる。しかしそのしくみは解明されていない。実際のところ治癒術とは細胞の自己修復能力を促進する魔法だが、この世界ではそうした仕組みは理解されていない。祈れば治る——それ以上のことを誰も知らず、理解しようともしない。どれほど優れた治癒師が前にいようと、医学の知識を持たない以上、ナハトの問題を解決できるはずがなかった。
「このやぶめ……!」
ナハトが怒り、枕を治癒師へ投げつけた。
「高い金を払っておいて病を治せないとは、ふざけるな……! 処刑してやろうか!?」
治癒師は最大限の努力を尽くしている。しかし治せないものは治せない。どれほど優れた治癒の力を持とうと、知識がなければ意味をなさないのだ。
ナハトが患っているのは、高血圧、糖尿病、そして脂質異常症——つまるところ、生活習慣病だった。毎日の食事や運動、睡眠の乱れが積み重なった末の病だ。細胞の修復を促す治癒術で治せるはずがなかった。




