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29.

 さて——セシリアが神獣から財宝を受け取り、順調にホテル業を営んでいる、一方その頃。


 彼女を裏切った勇者ナハトは、今どうなっているのか。



 セシリアを裏切り、魔王を討伐したナハトは、その手柄をすべて独り占めにするべく、セシリアが行ったことをすべて自分の功績として報告した。


 魔王軍との戦い、過酷な旅程、すべて自分がいたおかげで乗り越えられた——と。


 ナハトは周囲に大嘘をつき続けた。どれほど話を盛ろうと咎める者はいない。同行者はみなナハトの言うことに従うだけの者たちだったからだ。


 唯一口を挟みかねない人物であるセシリアは、完全に始末した。この手で心臓を貫き、部下に魔法でとどめを刺させた。


 もっとも、頭を砕くといった形で彼女の死を直接確認したわけではない。しかし心臓を潰し、強力な魔法を浴びせたのだ、生きているはずがないと思っていた。


 セシリアを葬った後、ナハトは高笑いをした。


「くく、これで邪魔者たちは死んだ。これからは英雄としての人生を謳歌するのだ!」


 大切な仲間を手にかけたというのに、ナハトの中には罪悪感のかけらもなかった。人を、それも仲間を殺したというのに。


「そもそもあの女は聖女としての技能をひとつも使えなかった。やれることは掃除、洗濯、料理といった雑事ばかり。パーティには不要な人材だったのだ」


 ナハトはセシリアをただの雑用係と見なしていた。だからといって人を殺してよい理由にはならない。しかし誰もナハトを咎めなかった。強大な力を持つ彼に逆らえる者がいなかったのだ。


 同時に、一人の命が奪われたというのに、誰も声を上げなかった。それもまた事実だった。つまり彼らもまた、セシリアを見殺しにした共犯者といえた。


 魔王を討伐した勇者は、その栄誉をすべて独り占めにして帰国し、意気揚々と報告した。その結果、ナハトは世界を救った救国の英雄として、この世界に名を刻むことになった。


 しかし話はそこで終わらない。むしろこれが始まりだった。


 崩壊の、序曲。



 魔王を討伐したとき、ナハトは十六歳だった。それから三十年が経ち、今は四十六歳になっていた。まだ働き盛りの年齢だ。


 しかし——。


「ぜは……ぜは……く、苦しい……」


 ナハトは今や、王城から一歩も外に出られずにいた。かつては痩せた体躯に整った顔立ち、流れる金髪にサファイアのような瞳を持ち、物語の王子のような美しさを誇っていた。


 しかし今の彼は、髪は禿げ上がり、体重は百キロを超えている。体のあちこちに無駄な肉がつき、肌はひどく荒れていた。


 裏でナハトを「禿げた肥えた元勇者」と罵る者がいるらしいが、まさにその通りの有様だった。


 セシリアを失い、栄養の偏った不摂生な生活を送り続けた結果、かつての外見的な美しさはすべて失われてしまっていたのである。

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