29.
さて——セシリアが神獣から財宝を受け取り、順調にホテル業を営んでいる、一方その頃。
彼女を裏切った勇者ナハトは、今どうなっているのか。
◇
セシリアを裏切り、魔王を討伐したナハトは、その手柄をすべて独り占めにするべく、セシリアが行ったことをすべて自分の功績として報告した。
魔王軍との戦い、過酷な旅程、すべて自分がいたおかげで乗り越えられた——と。
ナハトは周囲に大嘘をつき続けた。どれほど話を盛ろうと咎める者はいない。同行者はみなナハトの言うことに従うだけの者たちだったからだ。
唯一口を挟みかねない人物であるセシリアは、完全に始末した。この手で心臓を貫き、部下に魔法でとどめを刺させた。
もっとも、頭を砕くといった形で彼女の死を直接確認したわけではない。しかし心臓を潰し、強力な魔法を浴びせたのだ、生きているはずがないと思っていた。
セシリアを葬った後、ナハトは高笑いをした。
「くく、これで邪魔者たちは死んだ。これからは英雄としての人生を謳歌するのだ!」
大切な仲間を手にかけたというのに、ナハトの中には罪悪感のかけらもなかった。人を、それも仲間を殺したというのに。
「そもそもあの女は聖女としての技能をひとつも使えなかった。やれることは掃除、洗濯、料理といった雑事ばかり。パーティには不要な人材だったのだ」
ナハトはセシリアをただの雑用係と見なしていた。だからといって人を殺してよい理由にはならない。しかし誰もナハトを咎めなかった。強大な力を持つ彼に逆らえる者がいなかったのだ。
同時に、一人の命が奪われたというのに、誰も声を上げなかった。それもまた事実だった。つまり彼らもまた、セシリアを見殺しにした共犯者といえた。
魔王を討伐した勇者は、その栄誉をすべて独り占めにして帰国し、意気揚々と報告した。その結果、ナハトは世界を救った救国の英雄として、この世界に名を刻むことになった。
しかし話はそこで終わらない。むしろこれが始まりだった。
崩壊の、序曲。
◇
魔王を討伐したとき、ナハトは十六歳だった。それから三十年が経ち、今は四十六歳になっていた。まだ働き盛りの年齢だ。
しかし——。
「ぜは……ぜは……く、苦しい……」
ナハトは今や、王城から一歩も外に出られずにいた。かつては痩せた体躯に整った顔立ち、流れる金髪にサファイアのような瞳を持ち、物語の王子のような美しさを誇っていた。
しかし今の彼は、髪は禿げ上がり、体重は百キロを超えている。体のあちこちに無駄な肉がつき、肌はひどく荒れていた。
裏でナハトを「禿げた肥えた元勇者」と罵る者がいるらしいが、まさにその通りの有様だった。
セシリアを失い、栄養の偏った不摂生な生活を送り続けた結果、かつての外見的な美しさはすべて失われてしまっていたのである。




