03.
玉座を破壊して作ったゴーレムたちは、セシリアの命令通りに動いていた。
まずいは散乱していた瓦礫を回収し、一カ所にまとめていく。
続いて汚れた床を拭き、丁寧に掃いていく。
ゴーレムは土さえあれば作れるため、材料には事欠かない。
しかも彼女の桁外れの魔力を持つセシリアであれば、いくらでも生み出すことができた。
穴だらけの魔王城を清掃しながら、セシリアは次なる一手を考えていた。
「穴ぼこをどうやって埋めるかだね」
真理と並んで立つのは、廊下の壁付近だ。
ゴーレム達が集めた瓦礫が足下に詰まれている。
穴はかなりの大きさで口を開いていた。
「大丈夫。聖女の魔力を使うから」
「ああ、なるほどね! 確かに君の……聖女の魔力なら、どんなモノも治せるもんね!」
そのときだった。
「セシリア! 大変だ、侵入者だよ」
「……侵入者?」
外から見れば、この建物はどこからどう見ても廃墟だ。
わざわざ踏み込んでくる理由が思い当たらない。
「ナハトの刺客……とか?」
「それはないよ。セシリアが生きてることを、相手は知らないんだし」
つまり無関係の第三者が、何らかの事情でこの廃墟に迷い込んできたということだ。
「とりあえず、様子を見に行きましょう」
(真理に先に行ってもらいたいけど、パシリにされるの嫌がるからなぁ)
真理なんて大層な名前を持ちながら、威厳とはおよそ縁遠い精霊なのだった。
セシリアと真理は足音を忍ばせながら一階へと向かう。
建物の入り口には、血まみれの子犬が倒れていた
「! 大変っ! 大丈夫……?」
「待った、セシリア! 魔物が追いかけてくるよ!」
子犬から少し離れた場所には、灰色の毛皮をまとった獰猛な狼の魔物が立っていた。
大灰狼。
凶暴な気性をしており、鋭い爪は鉄をも切り裂くという。
子犬の体には鋭いひっかき傷があった。
どうやら大灰狼に襲われて逃げてきたのだと思われる。
(子犬が死にかけてる! 助けないと!)
……前世、日本に居たとき、セシリアは車にはねられた犬を見たことがあった。
あのとき、周りの人たち同様に、自分もその犬を見捨ててしまった。
仕事があるからと、職場にいかねばと。
……異世界に転生してからも同じだった。
目の前の何かに追わながら、『しなければならない』で物事を考えるようになっていた。
しかしもうその生き方は辞めた。
自分の心の声に従う。
「グルル……」
「大灰狼が襲ってくるよ!」
セシリアには、技能が存在しない。
技能とは、魔物の脅威から人々を守るために、天が授けた対抗手段だとする学者もいる。
剣術スキルがあれば、剣の達人となり、その刃で敵を一刀両断できる。
魔法スキルがあれば、魔物を一瞬で消し炭にできる。
そういった力が彼女には一切ない。
普通なら、ここでセシリアは何もできずに、死を待つだけだったろう。
だが、セシリアには二つの大きな武器がある。
一つは、魔道具作りのノウハウ。
そして……もう一つは莫大な量の魔力。
「ギャウ!」
大灰狼がこちらに襲いかかってくる。
セシリアは手を伸ばし、そこからまばゆい光が発動した。
セシリアの体の中から湧き上がる、黄金の輝きが、魔物を照らす。
先ほどセシリアが、魔鉱石に込めたのと同じ、黄金の色をした魔力だ。
光に包まれた大灰狼の肌が、ボロボロと崩れて、やがて体が木っ端微塵になった。
崩れ落ちた魔物の体は、まるで土くれのようだった。
『くぅ……きゅう……』
「どうやらその子犬、セシリアが何をしたのか疑問に思って、おびえてるようだね」
真理が子犬の代弁をする。
セシリアは微笑むと、安心させるように言う。
「あれは、聖女の魔力を相手に流して、相手を『調和』させたのよ」
『きゅう……?』
よくわかっていないだろう子犬に、真理が得意げに答える。
「あまり知られていないことだけれど、体内を流れる魔力にはそれぞれ固有の性質があるんだ。火の魔力、水の魔力……魔力の性質と魔法の相性が存在するのは、そのためだよ」
そして、と続ける。
「聖女の魔力の特性は『調和』。魔力を当てた対象を、周囲の環境や物質と同化させることができる。石化のような芸当も可能にする力だ」
聖女の力の代名詞といえば、治癒、結界、そして浄化だ。
それらは聖女の技能によってもたらされるように思われているが、本来の源はすべて聖女の魔力にある。
治癒も浄化も、あるべき自然な状態へと「調和」させる力があればこそ成り立つものだ。
技能があるから治癒できるのではなく、調和の魔力があるからこそ、治癒が可能となるのだった。
「つまりセシリアが聖女の魔力を浴びせたことで、大灰狼は周囲の土と同化して、体が崩れ落ちた……ということか」
子犬は目を丸くして、ぺたんとその場に横たわった。
この説明から、目の前の人物が聖女であり、悪意のある人間ではないと察したのだろう。




