22.
マコが特製石けんで体を洗うと、次々と傷が癒えていく。調和の魔力によって、肌がみるみる滑らかになっていった。
体を洗い流したマコが湯船に浸かると——。
「ふぁあ……なにこれ……」
うっとりとした表情でつぶやいた。湯に浸かった瞬間、体に溜まっていた疲れが一気に抜け出ていくのを感じる。体が深く沈んでいくような、とろけるような感覚だ。
「あ、あのぉ……大丈夫ですか、マコさん?」
はっ、とマコが我に返った。
「あ、あれ……? 今、ぼーっとしてた……?」
「ただお湯に浸かってぼんやりなさっていましたよ」
「そ、そうなの……」
(なにこれ! すごく気持ちいいんだけど!)
湯船に浸かった瞬間の多幸感は、言葉では言い尽くせないほどだった。そして——気がついた。
「あ、あれ……?」
「どうしましたか?」
「体が……すごく調子良い。私、ずっと体の調子が優れなかったんだけど……」
定期的に訪れる体のだるさが、一瞬で消えていた。それだけではない。
「肩のこりもないし……足のむくみも取れてる!?」
長時間森を歩いたせいで、マコの足には乳酸が蓄積し、かなりむくんでいたのだ。靴擦れも消え、虫刺されの跡もなくなっている。
変化はそれだけにとどまらなかった。
「なんか……肌もおかしいわ! つるつるのすべすべ!」
石けんで洗ったときは傷が消えていただけだったが、湯に浸かることで肌がさらに潤い、まるで赤ん坊のような肌つやになっていた。
「なにこれ!? なにこれ!?」
「えーっとえーっと……」
セシリアにも状況がよく把握できなかったため、叡智の精霊の知恵を借りることにした。真理がやれやれとため息をつきながら、耳元で説明してくれる。
「えーっと……温泉に含まれる成分が、お肌の状態を整えてくれたようですよ」
生きていれば細胞にはダメージが蓄積される。調和の魔力はそれを修復し、整え直す。その結果として、肌が驚くほど美しくなったのだ。
「な……!? 髪の毛まで輝いてるんだけど!?」
肌と同じ理屈で、マコの髪を構成するキューティクルまで新しいものへと変化したらしい。肌はすべすべ、髪はつやつやと、二重の効果が現れていた。
「いや、待って待って! おかしいわ! これ絶対おかしいって!」
ただお湯に浸かっただけで、見た目に変化が起きるとは。
「この温泉……何か特別なものを混ぜているんじゃない!?」
(う……鋭い……)
聖女の魔力が混入しているのだ。しかしそれを正直に明かすわけにはいかなかった。自分が聖女であると告白することに他ならないからだ。だから——。
「い、いえ。温泉の……効能です!」
(効能で押し通そう! そうしよう)
かなり苦しい言い訳だとは自覚していた。現にマコも「なんじゃそりゃ!」とすかさず突っ込んできた。
しかしありのままを説明するわけにはいかない。
(嘘は言っていないからね……!)
温泉そのものの効能ではないが、聖女の魔力を帯びた温泉に浸かれば効果が出る。まあ、一応「効能」と言えないこともない……ような……。
「えー……えー……絶対おかしいって……おかしすぎるよね……」
(ですよねー……)
自分でも、これが他人事だったら矢継ぎ早に突っ込んでいたことだろう。それほど不可思議な現象だった。
「ほ、ほら……怪我に効く温泉ってあるじゃないですか。打ち身に効くとか」
「まあ……」
「それです」
「いや……うーん……その範囲を超えていない……?」
(超えてるよねー……)
「お風呂に入れば肌がつやつやになるのは自然なことですよ。それがちょっと顕著に出ているだけですって」
「………………そ、そうね」
疑いの目を向けていたマコだったが、大きくため息をついた。
「確かに。デメリットがあるわけじゃないし」
(お、うまくいきそう)
「そうですよ! 綺麗になって困る人はいないでしょう?」
「それもそうか……しかしこの温泉、本当に入れば美しくなる効能があるとしたら……相当なものよね」
(ほんとにそうだよ……。こんな温泉、誰だって入りたがるに決まってる。特に、綺麗になりたいと思っている方には)
人を集めることには大いに役立つだろう。しかし今回は何とかごまかせたが、来客が増えたり、権力のある人物の耳に入ったりすれば、今以上の追及は避けられない。
(なんとか良い言い訳を考えておかないと……)
とはいえ、マコは温泉に浸かって美しくなった自分に大いに満足している様子だった。湯面に映る自分を眺めながら「わあ……やば……綺麗……」と、しみじみと自画自賛していた。




