表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/53

20.

 セシリアの料理に大満足の【黄昏の竜】一行。食後のお茶も「うまい……すごい……」としみじみとした顔でつぶやきながら、ゆっくりと飲み干した。


 ただの古い茶葉だったが、セシリアの魔力によって温度が完璧に保たれていた。また、美味しく淹れるための知識(現代の心得)をセシリアは心得ていた。茶葉をきちんと蒸す手順一つをとっても、丁寧に施された工夫が味に滲み出ていた。そのため、安価な茶葉であっても、十分に満足のいくものを提供できたという次第だ。


 とはいえセシリアとしては、今回の食事で課題がいくつか浮かび上がっていた。


(やはりメニューはもう少しバリエーションを増やさないと。お茶の葉も、もう少し質の良いものを用意した方がよかったな……)


 しかしそれ以上、セシリアはくよくよと考え込まなかった。彼女の胸の中にあるのは、前へと向かう気持ちだけだった。


(今回の宿賃を手にしたら、街へ買い出しに行くぞ!)


 むんっとセシリアは気合いを入れた。


「そろそろ休むとするよ」


 ケンがセシリアにそう言った。


「では、お風呂の準備をいたしますね」


「「「は……?」」」


(あれ……? 何か変なことを言ったかしら……?)


「ふ、風呂……? こんな辺鄙な場所に、風呂があるのか……?」


「ええ。もっとも、大浴場の修復まで手が回らなかったので、小さなお風呂になってしまいますが」


「い、いや十分だ……しかし、魔導水道があるのか……?」


「ございますよ」


 どうぞ、とセシリアはケンたちを連れて食堂を後にした。城の隅へと移動し、扉を開けると、脱衣所が現れた。


「申し訳ありません、大浴場はまだ手が回っておらず、男女兼用の小さなお風呂しか用意できていないのですが……」


 脱衣所の奥には、きちんとした浴場があった。湯船も、魔導水道(水を生み出す魔道具)も設置されている。


「本当だ……ちゃんとした風呂がある……」


 ケンが呆然とつぶやいた。魔導水道は生活の根幹に関わる魔道具であり、本来は国などが制作・管理するものだ。周囲の住民はそこから水を汲んだり、分けてもらったりして暮らしている。


 この周囲に大きな街はない。つまり、この魔導水道は自前ということになる。


(さっきのゴーレムといい、魔導水道といい……ここにはよほど腕の立つ魔道具師がいると見て間違いない……!)


 マコは確信を得たが、その正体はつかめていない。まさか、目の前にいる女将セシリアが当人だとは、想像もしていなかった。


「お風呂は何時から何時まで利用できるんですか?」


「いつでも、お好きなときにどうぞ!」


「!? それはつまり……二十四時間いつでも入れるということですか……?」


「そうなりますね!」


 セシリアの答えを聞いて、マコは耳を疑った。


(二十四時間お風呂を使ってよい宿など、聞いたことがない……!)


 魔導水道はあくまで安全な水を生成・放出する魔道具に過ぎない。お湯を沸かすにはそれだけでは足りず、別途の術式や設備が必要となる。それを管理・運営し続けるとなれば、相当な維持コストがかかるのは言うまでもない。


(魔道具は使い続けると魔力回路が熱を帯び、壊れてしまう。使用頻度を制限し、定期的なメンテナンスも欠かせないはず……やはり腕の立つ魔道具師がいるのね。でも、二十四時間対応できる凄腕職人が、なぜこんな辺鄙な場所に……!)


 腕の立つ魔道具師は、それだけで財をなせる。だからこそ、多くの凄腕職人は人の集まる場所に店を構えるものだ。宿と森以外に何もないこの場所に腰を据える意味など、普通は見当たらない。


(金儲けを考えていないということなのかしら……?)


 マコの推測は半分当たっていた。凄腕の制作者であるセシリアは、魔道具を売って稼ごうとは考えていない。客にここへ足を運んでもらい、ここでお金を落としてもらえれば、それで十分だと思っているのだ。


 マコの中では、女将と魔道具師がどうしても結びつかなかった。なぜなら、目の前の女将セシリアはすでに、驚くほどの料理の腕を見せていた。それに加えて魔道具制作の才まであるとなれば、自らの自尊心が耐えられなくなってしまう。天は二物を与えるのだと、世の不条理に嘆くことになるだろう。それゆえマコは無意識のうちに、両者を結びつけることを避けていたのだ。精神の平静を保つための、本能的な防衛だった。


「あはは……まさか、まさかね……女将さんが……いや、まさか……ね……」


 マコは必死にその図式を打ち消そうとしていた。しかしこの城に来てから登場した人物は、怪力の美男子とこの女将しかいない。


「まさか……ね……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ