20.
セシリアの料理に大満足の【黄昏の竜】一行。食後のお茶も「うまい……すごい……」としみじみとした顔でつぶやきながら、ゆっくりと飲み干した。
ただの古い茶葉だったが、セシリアの魔力によって温度が完璧に保たれていた。また、美味しく淹れるための知識(現代の心得)をセシリアは心得ていた。茶葉をきちんと蒸す手順一つをとっても、丁寧に施された工夫が味に滲み出ていた。そのため、安価な茶葉であっても、十分に満足のいくものを提供できたという次第だ。
とはいえセシリアとしては、今回の食事で課題がいくつか浮かび上がっていた。
(やはりメニューはもう少しバリエーションを増やさないと。お茶の葉も、もう少し質の良いものを用意した方がよかったな……)
しかしそれ以上、セシリアはくよくよと考え込まなかった。彼女の胸の中にあるのは、前へと向かう気持ちだけだった。
(今回の宿賃を手にしたら、街へ買い出しに行くぞ!)
むんっとセシリアは気合いを入れた。
「そろそろ休むとするよ」
ケンがセシリアにそう言った。
「では、お風呂の準備をいたしますね」
「「「は……?」」」
(あれ……? 何か変なことを言ったかしら……?)
「ふ、風呂……? こんな辺鄙な場所に、風呂があるのか……?」
「ええ。もっとも、大浴場の修復まで手が回らなかったので、小さなお風呂になってしまいますが」
「い、いや十分だ……しかし、魔導水道があるのか……?」
「ございますよ」
どうぞ、とセシリアはケンたちを連れて食堂を後にした。城の隅へと移動し、扉を開けると、脱衣所が現れた。
「申し訳ありません、大浴場はまだ手が回っておらず、男女兼用の小さなお風呂しか用意できていないのですが……」
脱衣所の奥には、きちんとした浴場があった。湯船も、魔導水道(水を生み出す魔道具)も設置されている。
「本当だ……ちゃんとした風呂がある……」
ケンが呆然とつぶやいた。魔導水道は生活の根幹に関わる魔道具であり、本来は国などが制作・管理するものだ。周囲の住民はそこから水を汲んだり、分けてもらったりして暮らしている。
この周囲に大きな街はない。つまり、この魔導水道は自前ということになる。
(さっきのゴーレムといい、魔導水道といい……ここにはよほど腕の立つ魔道具師がいると見て間違いない……!)
マコは確信を得たが、その正体はつかめていない。まさか、目の前にいる女将セシリアが当人だとは、想像もしていなかった。
「お風呂は何時から何時まで利用できるんですか?」
「いつでも、お好きなときにどうぞ!」
「!? それはつまり……二十四時間いつでも入れるということですか……?」
「そうなりますね!」
セシリアの答えを聞いて、マコは耳を疑った。
(二十四時間お風呂を使ってよい宿など、聞いたことがない……!)
魔導水道はあくまで安全な水を生成・放出する魔道具に過ぎない。お湯を沸かすにはそれだけでは足りず、別途の術式や設備が必要となる。それを管理・運営し続けるとなれば、相当な維持コストがかかるのは言うまでもない。
(魔道具は使い続けると魔力回路が熱を帯び、壊れてしまう。使用頻度を制限し、定期的なメンテナンスも欠かせないはず……やはり腕の立つ魔道具師がいるのね。でも、二十四時間対応できる凄腕職人が、なぜこんな辺鄙な場所に……!)
腕の立つ魔道具師は、それだけで財をなせる。だからこそ、多くの凄腕職人は人の集まる場所に店を構えるものだ。宿と森以外に何もないこの場所に腰を据える意味など、普通は見当たらない。
(金儲けを考えていないということなのかしら……?)
マコの推測は半分当たっていた。凄腕の制作者であるセシリアは、魔道具を売って稼ごうとは考えていない。客にここへ足を運んでもらい、ここでお金を落としてもらえれば、それで十分だと思っているのだ。
マコの中では、女将と魔道具師がどうしても結びつかなかった。なぜなら、目の前の女将セシリアはすでに、驚くほどの料理の腕を見せていた。それに加えて魔道具制作の才まであるとなれば、自らの自尊心が耐えられなくなってしまう。天は二物を与えるのだと、世の不条理に嘆くことになるだろう。それゆえマコは無意識のうちに、両者を結びつけることを避けていたのだ。精神の平静を保つための、本能的な防衛だった。
「あはは……まさか、まさかね……女将さんが……いや、まさか……ね……」
マコは必死にその図式を打ち消そうとしていた。しかしこの城に来てから登場した人物は、怪力の美男子とこの女将しかいない。
「まさか……ね……」




