19.
セシリアの料理に舌鼓を打つケン一行。
出てきた料理の品数は、正直なところかなり少なかった。パンとシチュー、そしてサラダ。それだけだ。しかし彼らは満足げに腹をさすっていた。どれもクオリティの高い一品だったからだろう。
セシリアは良い仕事ができたという達成感半分、バリエーションの少なさへの悔しさ半分、といった心持ちだった。
「いや、本当にありがとう。とても美味しかったよ」
ケンが笑顔でそう言った。マコもアーチャーも満足げにうなずいている。
「あまりおもてなしできなくて、ごめんなさい」
「とんでもない! 正直、こんな辺鄙な場所でこれほどの料理に出会えるとは思っていなかった。こちらこそ、礼を言うよ」
セシリアは相手の心が読めるわけではないが、彼らの屈託のない笑顔を見ていると、本当に満足してもらえたことが伝わってきた。セシリアもまた、自然と笑顔になった。
(バリエーションの少なさは今後の課題! 過ぎてしまったことはしょうがない。前を向かなくては)
セシリアはもう決めていた。心のままに行動すると。今回の失敗は次に生かせばいい。そもそも、ケンたちは満足してくれているのだから。
「では、食後のお茶とデザートをご用意しますね!」
「「「で、デザート……」」」
ごくりと、ケンたちが生唾を飲んだ。パンとシチューだけでも十分だったというのに、その上にデザートまで。期待値が否応なく跳ね上がってしまう。
一方、レオニダスは小声で真理に尋ねた。
「無理ではないか。砂糖の備蓄はなかったぞ」
「ふはは、刮目せよ」
真理が自信満々に答える。ゴーレムたちがティーポット、そしてお皿に乗ったものをケンたちの前に置いた。
「これは……クッキーかい……?」
小麦色のクッキーが何枚も皿の上に並んでいた。パンとシチューで期待値を上げすぎてしまったせいか、ケンたちの顔にわずかに拍子抜けの色が浮かんだ。
しかしセシリアは落ち込まなかった。自分の作ったものに、自信があるからだ。
「さあ、どうぞ」
「ああ、いただきます……」
ケンがクッキーを手に取って一口食べた。
さくっ……。
「!? な、なんだこのクッキーは……!」
目を見開いて、もう一口。二口、三口……と、気づいたら食べ終わっていた。
「これは……なんなんだ……一体……」
「言葉が足りなさすぎて伝わりません。どういうことですか?」
「い、いいから食べてみてくれ! とんでもないぞこれは!」
マコが不思議そうにクッキーを手に取った。
「どう見てもただのクッキー……いや、これ、二枚重なっている……?」
クッキーの生地が二枚重なっており、その間には白いクリーム、そして何かの粒が挟まっていた。マコが不思議そうに一口かじる。口の中に濃厚なバタークリームが広がり、続いてロ中一杯に不思議な爽やかさが広がった。
「あ……え……? なにこれ……甘い……でも砂糖のべたっとした甘さじゃない。これは……お酒……?」
「はいっ。ラム酒に漬けたレーズンです!」
セシリアが言うと、全員がクッキーの間に挟まったものをじっくりと見つめた。黒い粒々は、確かによく見るとレーズンだ。
「保存用のレーズンをラム酒に漬けたものです。それをバタークリームに混ぜて、クッキーで挟みました。名付けてレーズンサンドです!」
「「「れ、レーズンサンド……!」」」
作り方はシンプルだ。城に備蓄してあったラム酒とレーズンを合わせただけのことだった。
「バターなんて足の速いものを、保存していたのかい?」
「いえ、これは……もにょもにょ……から採った牛乳で作ったバターです!」
(大黒猪のお乳なのだけれど……さすがに言えないわ……)
「バターは作るのが大変だと聞いたが……?」
「ええ、混ぜるのが大変ですよね。でも私、そういうのは得意なので!」
調和の魔力を使えば、乳脂肪と水分を分離するのも容易だ。脂肪は脂肪と、水は水と、まとまるよう調和させるだけでいい。
(砂糖だけはどうしても作れないから、代わりに何か美味しいデザートをと考えて、昔食べたバターサンドを思い出したんだ)
無論、ただ再現しただけではない。聖女の魔力をたっぷりと駆使して、最高のクオリティに仕上げていた。温度と熱を調和によって満遍なくクッキー生地に届けた結果、驚くほどサクサクとした食感が生まれた。バターやレーズンといった鮮度の落ちやすいものも、調和の力で細胞を修復しているため、どれも鮮やかな風味を保っていた。
その結果として供されたお菓子は、まさに極上の一品だった。
「ラム酒とレーズンって……こんなに合うのね!」
「……うまい……うまい……」
「くう、うますぎる!」
全員が食後のデザートに舌鼓を打っている。セシリアは満足げにうなずいた。
離れたところから眺めていたレオニダスが、感じ入ったようにつぶやく。
「彼女は魔法使いだな。あれほど乏しい材料から、客を大満足させるものを作り上げてしまうとは」
すると真理が「はは、何を言っているんだか」と鼻を鳴らした。




