16.
(この魔道具って……そんなに凄かったのか……)
純粋に、セシリアは驚いていた。彼女の作った魔道具を、魔法使いのマコが大絶賛している。
「どの辺りが凄いんだ?」
ケンが、制作者であるセシリア自身が思っていたことを口にした。
「魔道具というのは、基本的に道具と動力の組み合わせなんです! ごく簡単に言えば、道具に魔石を組み込めば出来上がるもの。裏を返すと、元になる道具がまず必要だということです」
「「はあ……」」
思わず、セシリアとケンが同時にため息をついた。
「ところがこのゴーレム、ただの土塊が敵の接近を感知して、一瞬でゴーレムの形に整形し、動き出しました」
「つまり……道具でないものが魔道具になったのが凄い、と?」
「まあ、簡単に言えばそうなります。通常ゴーレムを作るなら、人形を成形してそこに術式を刻み込み、動力源をつけて完成させるもので……」
(いや、まあその作り方はしているのだけれど)
ただ、制作の過程で、復元や敵感知など複数の術式を込めていた、というだけのことだ。
「まさか複数の術式を込めてあったわけでもあるまいし……」
「? それの何がおかしいんだ?」
ケンが何気なく疑問を口にしてしまった。信じられないとばかりに、マコが目を見開く。
「いいですか! 魔道具に刻み込める術式は基本一つです! 術式というのは要するに魔法陣です! 一つの魔法陣で、三つの魔法を同時に発動できるなんて、そんなこと誰にできると言うんですか!」
(まあ……できるものはできるのだけれど……)
マコの動揺ぶりに、逆に戸惑ってしまうセシリアだった。
「ま、まあその……こんなところで立ち話もなんですし、お部屋にご案内しましょうか」
「そうだぞマコ。俺たちは疲れているんだし、部屋でゆっくりしながら話せばいい」
(ケンさん、助かります!)
セシリアは安堵の息をついた。あのまま質問攻めにあっていたら、粗が出るところだった。
(魔道具の販売につなげられればよいのだけれど、逆にそれが怪しまれる結果になるのは避けたい……)
ただでさえ、自分はひどい悪女として悪い意味で知れ渡っているのだから、悪目立ちは避けなければならない。
ケンに説得されて、マコは渋々とうなずいた。
「必ず、この魔道具の秘密を暴いてみせます……!」
静かに決意を固めたマコを横目に、セシリアは「こちらへどうぞー」と城の中へと案内した。
中はさすが元魔王の城、豪奢な造りだった。ケンたちが目を輝かせる。
「まるでどこぞの偉人の城のようだ」
(まあ、魔王の城なのだけれど)
アーチャーがぼそりとつぶやく。
「……金」
「え? 何でしょうか?」
セシリアが尋ねたが、アーチャーはそれ以上口を開かなかった。ケンが頭をかく。
「女将さん……あまり高いと代金が払えないよ。こんな立派なホテルだから、さぞかしお高いんだろう?」
(なるほど、宿代を心配していたのか……)
いくらにするか、まったく考えていなかった。
(でも正直、最初はお金よりも、まずこのホテルの良さを知ってもらうことの方が大事だ)
「大丈夫ですよ。えーっと……一泊五十ゴールドほどでしょうか」
(一ゴールドが百円なら、ひとり五千円。少し高いかしら……?)
「「「五十ゴールド!?」」」
あり得ないとばかりに、三人が声を揃えた。
「あ、やはり高いですか? でしたら……」
「違うよ、女将さん。安すぎるということだ。こんな立派なホテルで五十ゴールドとは……」
(そうか、安いのか……。安すぎても逆に怪しまれてしまうし……うーん)
するとレオニダスが助け船を出してくれた。
「実はリライトは新装開店したばかりで、開店記念として特別価格でご提供しているのですよ。それゆえ、お安くなっております」
「「「ああ、なるほど……」」」
(助かりました、レオニダス!)
行き当たりばったりなところの多いセシリアを、レオニダスがさりげなく支えてくれる。
(一人で始めなくてよかった……。レオニダスは本当に頼りになる。まあ、こういうことを口にするとすねる子がいるから、黙っておくけれど)
叡智の精霊は我関せずとばかりに、何も言ってこなかった。セシリアはその性格をよく把握しているので、さほど気にしていない。
程なくして、セシリアは一番上等の客室へと三人を案内した。
「どうぞ! こちらをお使いください」
またしてもケンたちは呆然としていた。五十ゴールドでこれほどの部屋に泊まれるのか、やはり不審に思っているのだろう。
(あまり誤魔化してもよくないかもしれない)
「リライトは始まったばかりで、とにかくお客様に来ていただきたいのです。だから、特別にサービスさせていただいているんですよ」
セシリアの正直な言葉を聞いて、ケンたちはほっとしたように肩の力を抜いた。
「女将さん。こんな素敵なお部屋を用意していただいてありがとう。この部屋に五十ゴールドで泊まれるなんて、夢のようだ」




