15.
ホテルを前にして、ケンたちは呆然と立ち尽くしていた。無理もない、目の前にあるのはどう見ても宿の外観を逸脱した城なのだから。
「宿です!」
セシリアが笑顔で押し通そうとする。ケンたちが疑うのは当然だし、これで引き返すというなら、止めるつもりもなかった。
マコとアーチャーがケンに目をやった。リーダーの判断を最優先にするようだ。
ケンは二人を見て、静かにうなずいた。
「女将さん。俺たちを泊めてもらえませんか?」
女将さんとはすなわち、セシリアのことだ。ケンはこの宿に泊まると決めたようだった。
「ありがとうございます! 精いっぱいおもてなしします!」
「それはよかった」
するとレオニダスが、ケンに恐る恐る尋ねた。
「本当によかったのか? 言いにくいが……少々怪しくはないか……?」
「とんでもない! 立派なホテルではないか。それに……俺たちはもう疲労困憊でな。宿をえり好みする余力が残っていないんだよ」
なるほど、とレオニダスは感心したようにうなずいた。
(外観の怪しさよりも、仲間の回復を優先したのか……仲間思いの人間だ。セシリアといい、人間が皆このように清らかな心を持っていればよいのだがな)
目の前にいる人たちがたまたま心の美しい者たちなのだと、レオニダスは理解していた。
「さあ、どうぞっ!」
「しかしこれほど森が近いと、魔物がやってきてしまうのではないでしょうか……?」
マコが怯えながら背後——奈落の森を振り返った。
「大丈夫ですよ! 魔物対策はきちんとしておりますので……あ、ちょうどいいですね!」
「ちょうどいいって……何が……ええ!?」
二足歩行する巨大な亜人型の魔物——大鬼がこちらへ向かってきたのだ。餌と見定めたのか、ゆっくりと歩み寄ってくる。
アーチャーが素早く弓を引き、急所である目玉を射貫こうとした。しかし大鬼は飛んできた矢を手でつかみ、ぐしゃりと折ってしまった。
「アーチャーの矢を受け止めるとは……相当な手練れだな」
ケンが額に汗をにじませながら剣を構えた。しかし体力的に限界が近いのか、肩で息をしている。
レオニダスも助け船を出そうとしたが、セシリアが静かに首を横に振った。
「大丈夫です。見ていてください……」
そのときだった。ずもも……とホテルの前の土塊が盛り上がっていくではないか。粘土細工のように形を整えながら、やがて人の姿を取っていく。
「ご、ゴーレム!? うそ……まさか、敵の接近を感知して術式が展開されるタイプ!?」
驚くマコをよそに、大鬼の倍はあろうかという体躯のゴーレムが歩み寄っていく。呆然とする大鬼に向かって、ゴーレムが巨腕を振り下ろした。
ぶちっ、と。まさに巨像が蟻を踏み潰すがごとく、大鬼がその場で沈んだ。
ケンとマコたちが唖然とした。
「こ、これは一体どういうことですか!?」
マコがいち早く我に返り、セシリアへと詰め寄った。
「どういうことと申しますと……?」
「感知タイプのゴーレムだけでもおかしいのに、Bランクの大鬼を一撃で仕留めるほどのゴーレムがいるなんておかしいです!」
(おかしい……ああ)
「大丈夫です、あれはうちの従業員ですよ! 不審者ではありません!」
どうやらセシリアは、ゴーレムの出自を尋ねられていると勘違いしたらしい。マコがぶんぶんと首を横に振った。
「そういうことを聞いているんじゃないです! あれほど強いゴーレムが、なぜこんな辺境の宿にいるんですかということです!」




