自分との約束 ①
カーテンの隙間から漏れる朝日が、やけに温かい。
その優しさが、否応なしに現実を突きつけてくる。
今日から私たちは、魔王討伐――
いや、魔王救出の旅に出る。
スカーレットも、
そして魔王すらも、仲間にする。
そう決めた。
「おはようございます、アキナ様」
「おはよう、ティア……ついに、だね」
「……怖いですか?」
「怖いよ。めちゃくちゃに」
正直な言葉が、自然と口をついた。
「でも、大丈夫。みんながいるから」
「ええ。では、支度をいたしましょう」
鎧を整え、装備を確認していると、ノックもなしにミナとティントが入ってくる。
「おはよう。もう行けそう?」
「あと5分! 先に下で待ってて」
「了解。男子たちはもう揃ってるわ。なるべく急いでね」
「はーい」
今いるのは王宮の横にある宮殿。
ここから先は、ずっと徒歩の旅になる。
目的地は、荒野を越えた先にある魔王遺跡城。
噂では、古びて崩れかけた、まるでお化け屋敷のような城らしい。
……ホラー、苦手なんだよなぁ。
でも。
(行くしかない)
階段を駆け下り、仲間が待つ玄関へ向かう。
そこには噂を聞きつけた学園生徒、家族、教師、魔術師団、そしてローレンツ宮廷魔術師の姿があった。
前回とは比べものにならないほど、大きな門出だ。
「勇者様!行ってらっしゃいませ! どうかご無事で!」
歓声に混じる応援。
その一方で、家族たちの表情は重い。
――生きて帰れる保証なんて、どこにもない。
私には、別れを告げる家族がいない。
その分、少しだけ楽だった。
皆の顔を真正面から見たら、足がすくんでしまいそうだったから。
「……行ってきます!」
背を向け、王都の門をくぐる。
荒野が広がる。
初陣課外の時とは違い、胸の奥はずっとざわついたままだ。
それでも、不思議と空気は悪くない。
全員の覚悟だけが、ひりつくほど伝わってくる。
「ここからは後戻りできないよ。覚悟はいい?」
「もちろん!俺ら最強!やってやろうぜ!」
「無論だ!ひよっこどもは先輩がたを頼って後ろに隠れててもいいだよ?」
「ルーカス、うるさい」
「どこまでもお供しますわ、アキナ様」
「……うん。行こう」
王都を出て、一週間。
ここが、かつて六将軍と初めて遭遇した場所。
あの頃より、確実に私たちは強くなった。
なのに――
(不安が、消えない)
「ここが中間地点です。どうしますか、アキナ様」
「もう暗いし、ここで野営しよう」
「了解。各自、準備を」
ティントの一声で、全員が手際よく動き出す。
もう、野営にも慣れた。
「アキナ、今日の成果。荒野ウサギが4匹、あとアユが4匹」
「大漁だね。遠くの川まで行った?」
「うん。保存できるものがいいと思って」
「ありがとう、助かる」
太陽が昇っているうちに距離を稼ぎ、
夜は魔物の気配を警戒しながら休む。
団長の地獄のような訓練のおかげで、進行速度は想定以上だった。
そして――4日後。
ついに、魔王遺跡城・第1階層へ到達する。
「思ったより早いですね」
聞き覚えのある、嫌な声。
「歓迎の挨拶といきましょう。疑惑光――ディセプションフォックス、出番ですよ」
地形が歪み、迷宮が姿を変える。
藍銀の狐たちが散会する。
「……ほんと、予想しやすい人」
ティントが即座に指示を出す。
「全員、プラン通り!」
「了解! 精神浄化!」
「光盾展開! ルーカス、最大火力いけるよ!」
「おう!心炎!」
ディセプションフォックスが藍銀色に輝く。
「集団幻惑、来るよ!」
「了解ですわ!生命の蔦!」
「ありがとう、強化紐帯!」
連携は完璧だった。
狐たちは、次々と消滅していく。
「……これは、予想外ですね。では、絆分断――」
「無駄だよ」
ティントの叫びと同時に、ダークがスレインへ斬りかかる。
「っ!?」
「風鎖」
拘束。
動きを完全に封じられたスレインは、なすすべもない。
「な、なんですか……これ……」
「そのまま、眠っていてください」
オーディンが剣の柄で首元を打ち、失神させる。
「行くよ!2階層へ!」
スカーレットの情報が、寸分違わず役に立った。
「ようこそ、この俺様の階層へ」
嫌な笑い声。
「挨拶代わりだ。命令の言葉」
世界律が発動する。
「弱い者から発言権を失う」。
最も弱いのは――正義魔法。
オーディンが動けなくなる。
でも。(想定内)
手話。
声が出なくても、意思は伝えられる。
右。左。左。右。後ろ。前。
オーディンの正確な指示で、プリド・ライオンを次々となぎ倒す。
「……少しはやるじゃねぇか」
「残ってるのはお前だけ」
「どうやって捕まってたい?」
「……は?」
「選択肢はありませんけどね。大地の庇護」
「ふえっ!?」
拘束。
魔王を除き、残りは四人。
(ここからが、本番)
「やっほー! 僕とビオゴーレムと遊んでいかない?」
第3階層。
枯れた庭園と、咲き続ける死花。
息が詰まるほど、不気味だ。
「光槍!」
全方向への眩い一撃で視界を奪った、その一瞬。
「瞬間移動!」
オーディンがティントを、モルタの背後へ飛ばす。
「……え?」
「ごめんね、遊んでる時間はないんだ。動物召喚」
「いったぁ!?」
「嘘つけ。噛んでねぇだろ」
「……でも、動けない」
「しばらく、そのままでお願いしますね」
――戦いは、想定通りに進んでいる。
それなのに。
胸の奥で、
何かが、ずっと引っかかったまま。




