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「恋をしないなんて可哀想」と言われ続けた私が、感情が全ての力になる異世界で、恋愛感情ゼロゆえになぜか無限魔力を得て魔王と戦うことになった話  作者: きりりんが
第7章: 無色の継承者、再び立ち上がる

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時間が足りない作戦会議

そこからは、瞬く間に時間が過ぎていった。


授業には一切出席せず、私たちは全員でローレンツ宮廷魔術師の執務室に籠もり続けた。

目的はひとつ――これからの作戦立案。

盗聴などを警戒し、この場所を拠点にする判断は正しいはずだった。


けれど、静かな部屋の空気は張り詰めている。

誰も口にしないが、全員が理解している。


――時間が、足りない。


まず私はスカーレットに手紙の返事を書き、情報面からの攪乱を依頼した。

敵に悟られず、こちらの意図を錯覚させるための、細い糸のような策。

それが終わると、ヴァイス教官から渡された資料、ラークが命がけで集めた国家機密指定の情報、禁書庫から引き抜いた魔導理論書を机いっぱいに広げ、ひたすら読み込んだ。


読む。

理解する。

噛み砕く。

叩き込む。


頭が熱を持つのがわかる。

それでも、止まれなかった。


ミナは、

他者との絆を腐食させ、Emorリンクを断絶させる能力を持つ

――嫉妬の将軍、ヘレナ=ヴァルグリッドとその部隊。


ルーカスは、

愛情を執着と狂気へ変換し、炎属性魔法を歪めて増幅させる

――狂愛の将軍、ライラ=ロスマリンとその部隊。


ダークは、

希望そのものを吸い尽くし、光属性魔法を完全に対消滅させる

――絶望の将軍、グラウ=ノクティスとその部隊。


ティアは、

生命力を玩具のように操作し、植物と大地の魔法を逆再生する

――残酷の将軍、モルタ=フロエとその部隊。


オーディンは、

精神世界を支配し、転移魔法を封じ、Emorの上下関係を固定する

――傲慢の将軍、レオン=カリギュラとその部隊。


そして――

私が担当するのは、魔王と、その直属組織《深淵宮廷(コートオブアビス)》。


深淵宮廷は、


・絶望・羞恥・恐怖の三精を統率する三公(トリアキ)

・感情魔法理論そのものを書き換えた深淵書記(アビス・スクリブ)

・魔王崇高直属、特攻騎士団《奈落騎士(ナイツオブヴォイド)

・感情を喰らう竜体の黒檻魔獣(アビス・ビースト)


――4部隊で構成されていた。


資料を読み進めるほど、確信が強くなる。


(やっぱり……魔法の“概念”そのものが、変えられてる)


術式や属性の問題じゃない。

もっと根本、感情魔法の前提条件が書き換えられている。


元の概念さえ理解できれば、きっと糸口は見える。

でも――それは、まだ先の話だ。


今はただ、スカーレットを助ける。

そして、魔王すらも救う。


傷ついている人を、見捨てるなんて、私にはできない。


「やっぱり、全員にとって厄介な相手が最低一人はいるね」


沈黙を破ったのは、私だった。


「えぇ。一斉に来られたら、さすがに困りますわね」


ティアが静かに頷く。


「うん……ティント、どう対策できそう?」

「どの資料を見ても、一斉突入は考えにくいわ。たぶん魔王遺跡城の内部で、明確に担当エリアが分かれてる」

「えぇ~。じゃあさ、パパっと一気に片づける方法はねえのかよぉ」


オーディンが頭を掻きながらぼやく。


「オーディン。文句言わない。頑張るしかない」

「へいへい。ダーク様の言う通りだけどよ……でも、なんか手口はある気がすんだよな」


……オーディンにしては、妙に鋭い。

でも同時に、胸の奥がざわついた。


(危険すぎる)


「……ティントの言う通りよ。各部隊がエリア防衛してるなら、一つずつ確実に潰すしかない」


そう言いながら、私は拳を握りしめていた。

“確実”という言葉の裏にある、膨大な時間と犠牲を思って。


その時――扉が開いた。


「頑張ってますわね。でも、根を詰めすぎは禁物ですわよ。お昼をお持ちしました」


ローレンツ宮廷魔術師の、母親のように柔らかな声。

それだけで、張り詰めていた神経が一瞬だけ緩む。


「いただきます!」


運ばれてきたのは、

山盛りのオムライス、シーザーサラダ、温かいオニオンスープ。


……不思議と、胸の奥まで温かくなる。


食事を終え、再び資料に戻ろうとしたところで、彼女が手を上げた。


「ねえ、あなたたち。魔法の訓練、受けてみない?」

「……訓練?」

「ええ。これだけ宮廷魔術師が揃っているのよ。使わない手はありませんわ」


迷いが生まれる。

作戦を詰めたい気持ちと、強くならなければという焦り。


その隙間に、別の声が割り込んだ。


「ローレンツ宮廷魔術師、こちらにいらしていたのですか」


アーディン王国王女直属魔術師団――団長。


「あら、ちょうどいいわ!この子たちに魔法と剣術の訓練をつけてあげて」

「……私が、ですか」

「嫌なの? 次世代育成も任務の一つでしょう?」

「……そうですが」

「なら、決まりですね!」


言い切られ、流れは一気に決まった。


着替えと準備を済ませ、案内された訓練場。

白く豪奢な宮廷魔術師の建物、その隣に広がる王女直属魔術師団の駐屯地。


「無色魔法の使い手、アキナです。よろしくお願いします」

――1人ずつ、自己紹介を終える。


「知っている者も多いだろう。魔術師団団長、レイヴンだ。手加減はしない」


その言葉に、嘘はなかった。


訓練は過酷だった。

ヴァイス教官のものと比べても遜色ない。


それでも――

前のように、完全に動けなくなることはなかった。


(……足りない)


体は動く。

魔力も回る。


でも、まだ足りない。


胸の奥に、言葉にできない苛立ちが溜まっていく。

この程度じゃ、救えない。

この程度じゃ、届かない。


「……やるではないか」


団長が、わずかに口角を上げる。


「これからも訓練相手になろう。毎日、昼の鐘が鳴ったら来い」


私は息を整えながら、拳を強く握った。


――もっと。

――もっと強くならなきゃ。


その焦りが、後に“暴走”へと繋がる兆しだと、

この時の私は、まだ気づいていなかった。

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