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「恋をしないなんて可哀想」と言われ続けた私が、感情が全ての力になる異世界で、恋愛感情ゼロゆえになぜか無限魔力を得て魔王と戦うことになった話  作者: きりりんが
第7章: 無色の継承者、再び立ち上がる

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私は、この地で勇者になる

その日の夜、私たちは連れ立って寮へ戻った。

誰も、ほとんど何もしゃべらない。

だけど不思議と、空気は重くなかった。


沈黙の中に、ぎすぎすした緊張はない。

むしろ、全員が同じ方向を向いて考え込んでいるような、そんな静かな共有感覚があった。


――多分、みんな同じことを考えている。


言葉にしなくても、わかる気がした。


やがて男子棟の前に着くと、そこには異様な光景が広がっていた。


建物の前を埋め尽くすほどの女生徒たち。

冬の夜気にもかかわらず、熱気がむっと立ち上っている。


「オーディン様!頑張ってください!応援してますわ!」

「ルーカス様ぁぁぁ!あぁ、なんて素敵な胸筋……それに笑顔まで……!」

「ダーク様……!あの冷たい目で見下ろされたいですわ……」


……うん。

これは、すごい。


正直、ちょっと気後れする。


「最近……いつもこうなんだよ」


ダークが困ったように眉を下げて、私を見る。


「どうしたらいい?アキナ」

「私に聞かないでよ……。あ、でもね。私たちの隠れファンクラブがあるらしいよ」

「それ、隠れてなくない?」

「“心持ち”の問題らしい」

「……そういうものなのか」


半ば本気で悩んでいる様子に、思わず苦笑してしまう。


「じゃあ、また明日教室で」

「うん。行こっ、オーディン、ルーカス」

「俺の方が先輩だからな、ダーク」

「はいはい、ルーカス先輩」

「こら!先輩を雑に扱うな!」


二人がダークの両脇でわちゃわちゃし始める。

まるで、足元にじゃれつく大型犬が二匹いるみたいだ。


……確かに。

この構図なら、ダークが“クールでボスっぽい存在”に見えるのも納得かもしれない。


女の子たちが騒ぐのも、無理はない。


「さ、私たちも戻りましょうか、アキナ様」

「うん。この情報もまとめて、ヴァイス教官に返しに行かないとだし」


「ていうか寒すぎ。早く戻ろ」


ミナに急かされ、私たちは女子棟へと足を速めた。


「じゃあ、私たちは上の階だから。また明日ね」

「うん。おやすみ、ミナ、ティント」

「おやすみなさい」


部屋に戻ると、机の上に一通の手紙が置かれていた。

見覚えのある筆跡。


嫌な予感と、期待と、怖さが同時に胸を締めつける。


――拝啓、アキナさんへ。


こうやってお友達にお手紙を書くのは初めてなので、失礼があったらごめんなさい。

そして、裏切るという行動を取ってしまって、本当にごめんなさい。


読み進めるたび、胸の奥がきしむ。


初め

……やっぱり、そうだったんだ。


あの日の私に、もし一言言えるなら。

「命を賭してでも、友を裏切るな」

そう伝えたいです。


虫のいい話だとは思いますが、またあなたの傍で笑える日を願って、この写真を送ります。


あなたの一番の友、

スカーレット・ドレインより。


……本当に、ムカつく。


なんで。

なんで相談してくれなかったんだよ。


手紙と一緒に、一枚の写真が入っていた。

魔王軍全員との集合写真。


顔を覚えておけ、ってこと?


「アキナ様、裏を見てください」

「裏?」


写真をひっくり返すと、そこには短い一文だけが書かれていた。


――力をつけよ。


……なるほどね。


昔よりも強くなっているから。

だからこそ、今の私なら伝わると思った?


……やっぱり。

この子は裏切ってなんかいない。


私の知っている、スカーレットだ。


それが余計に腹立たしい。


「ティア、私、決めたわ」

「……わかっています。救うのですね。あの娘までも」

「うん。友達だし。それに……あの時、泣いてた。放っておけないよ」

「アキナ様。私は、あなた様の強さを知っています。どこまでも、お供します」


視線を逸らさず、言葉も多く交わさない。

信頼と覚悟だけが、静かに共有される。


この先に、もう余計な言葉はいらない。


「おやすみ、ティア」

「おやすみなさい、アキナ様」


心地よい疲労と、確かな決意が身体を満たす。

窓から見える星空を眺めながら、そのまま眠りに落ちた。


その夜、私は夢を見た。


家族と、親友と、一緒にご飯を食べている夢。


クリスマスの飾り付けがされた、暖かい部屋。

大きな木製の食卓に、湯気の立つ料理が食べきれないほど並んでいる。

遠くから聞こえる、賑やかなクリスマスソング。


毎年の、いつもの光景。


お姉ちゃんと正一お義兄さん。

やんちゃで幼稚園のガキ大将だった甥っ子の大地くん。

生まれたばかりの姪っ子、桜ちゃん。

お母さんとお父さん。

そして、親友のノンちゃん。


みんなが、私を見て笑っている。


「アキナ、うちはアキナのこと信じてるで」


懐かしい関西弁。


「アキナ叔母さん、今度お歌歌うんだ!大きな声で歌うから、心配しないで!」


元気いっぱいの声。


「おちょこちょいで、お調子者だけど。誰よりも優しくて、誰よりも頑固なの、知ってるから。がんばれ」


……お姉ちゃん。


「アキナ。やりたいこと、決まったんだね。お父さんもお母さんも、応援してる。友達を大事にね」


――私、こんなにも愛されてたんだ。


涙が、一筋こぼれる。


大丈夫だよ。

みんな。

私は、元気にやってる。


ここにはいないし、きっと声も届かないけど。

それでも、心の中で強く念じる。


私は元気にやってるよ。

みんなのこと、忘れたわけじゃない。


どうか、この想いが届きますように。

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