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「恋をしないなんて可哀想」と言われ続けた私が、感情が全ての力になる異世界で、恋愛感情ゼロゆえになぜか無限魔力を得て魔王と戦うことになった話  作者: きりりんが
第6章: 無色の継承者、暴走する力

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怒りと悲しみの行き場

寮の窓から教室棟を眺めると、長蛇の列。

いや、確かに平穏の日常に戻れるとは思っていなかったけど、これは予想していなかった。


窓を小さく開くと、耳に飛び込んでくる黄色い声。


「あ!窓を開けましてよ。やっぱ素敵だわ」

「六将軍にもう勝ったらしいですよ」

「私が聞いた話ですと、六将軍と会ったけど向こうが引いたとか」

「まぁ……本当に勇者様ってすごいのね」


……はぁ。


溜息が、自然と漏れる。

帰ってきてから一週間。ずっとこんな調子だ。

外に出ようものなら人だかり。寮にいても視線と噂が追いかけてくる。


「アキナ様、お食事をお持ちしましたよ」


食事を載せたお盆を持ってティアが声をかけてくる。


「ティア……外、出たいよ……」

「そうですね……正直、ここまでとは思っていませんでした」

「男子棟も凄い列らしいね」

「ええ。私は姉ですから入れてもらえましたけど……人の数が……」


コンコン。


「アキナ? ミナだけど、入っていい?」

「ミナぁぁ……もう疲れたぁ……」

「そりゃ応えるよね。……だったらさ、剣術の訓練でもしない? 発散になるでしょ」

「する! オーディンたちも呼ぼ!」

「好きにするといいよ」


ティアが男子棟へ向かい、私は身支度を整える。

演習場も人だかりだと嫌だな…。


剣術演習場に着いた瞬間、嫌な予感は確信に変わった。


外野で埋め尽くされた観客。身動きが取れないほどの人だかり。

しかも、これを好機と見た連中が入場料を取り、勝敗の賭けまで始めている。


……なんで、こうなるの。


「オーディーーン! 勝負!」

「いいぜ、アキナ! 負けても知らねえからな!」


「じゃあ僕が審判をやろう」


位置についた瞬間、歓声がさらに膨れ上がる。


「よーい、始め!」


合図と同時に、オーディンが突っ込んでくる。

――逃げる。今は、それでいい。


「勇者様! 頑張ってください!」

「きゃー! オーディン様も!」


……は?


なんで、そこでオーディンまでも応援されてるのよ。


胸の奥が、ぎしりと音を立てる。


「えいっ!」


間抜けな声と同時に、オーディンの木剣が宙を舞った。


「勝負あり! アキナ選手!」


その瞬間だった。


「流石ですわ!」

「剣術歴、半年って本当ですの?」

「それであそこまで……魔王様だって怖くありませんわね」

「初代無色よりβ(ベアタ)値が高いって噂、聞きまして?」


――うるさい。


耳元で鳴り続ける声が、頭の内側を叩く。

称賛のはずなのに、全部が責め立てに聞こえる。


勝手に決めつけるな。

勝手に期待するな。

私の何を知ってるの?


「負けたよ、アキナ。お前、本当に強くなったな」


「……まあ、あの特訓をこなしてたらね」


ちゃんと笑えてる。声も出てる。

でも、胸の奥がどんどん黒く煮詰まっていく。


なりたかったわけじゃない。

選ばれたかったわけでもない。

裏切られて、泣く暇もなく、今度は勇者扱い。


なんで、私だけ。


スカーレットの顔が浮かぶ。


――なんで、裏切ったの。


答えはない。

代わりに返ってくるのは、黄色い声。


「キャー!」

「すごーい!」


……黙れ。


キィン、と甲高い音がした。


次の瞬間、体がふわりと浮く。

周囲の人間が、恐怖に固まったように動かない。


――ああ、静か。


やっと、静かになった。


「アキナ様ぁぁぁ!」


ティアの泣き声が聞こえる。

なんで泣いてるの? 私、こんなに自由なのに。


ミナが跳躍してきて、勢いのまま抱きしめてくる。


「アキナ! 大丈夫! 私がいる! 怒っていい! 嫌なら嫌でいいんだ!」


…ああ。


私、怒ってたんだ。

悲しかったんだ。


「大丈夫。もう一人で抱えなくていい」


その声に、堰が切れた。


気づいた時には、地面に座り込んで、赤子みたいに泣いていた。


――遠くで、誰にも見つからないように誰かが見ている。


スカーレット。


「アキナさん……ごめん。でも、ああするしかなかった」


届かない声。

ただ、友を傷つけた痛み、そして許しを乞えない痛みを抱えて。


さらにもう一対の瞳が、学園長室からその光景を見つめていた。


「彼女は、私の世界を否定している」


敵を選ばず、正義を掲げず、排除もしない。

あまりにも純粋で、管理できない善意。


「あまりにも初代無色魔法の使い手に似ている。王国にとっても、魔王軍にとっても……最も危険な存在だわ」

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