今は与えられた任務があってよかった
ミナとティアに半ば抱えられるようにして、私は寝床へ連れて行かれた。
「アキナ様……今日はもう休みましょう。明日、学園に戻ってから考えればいいんです」
「そうだよ。今は頭回んないでしょ。見張りは私たちで交代するからさ」
「あ、あぁ……。無理するなよ」
みんなの声が、やけに遠い。
慰めようとしてくれているのは分かる。それが、かえって胸に刺さる。
——意味が分からない。
今までの時間も、言葉も、笑顔も。
全部、嘘だったってこと?
ざわつく心とは裏腹に、身体は正直だった。
一日の疲労に引きずられるように、意識は暗闇へ沈んでいく。
――――――
「……寝たわね」
ティアの声が、低く落ちる。
「よくも……よくもアキナ様を傷つけてくれたわね。くそスカーレット、絶対に許さない」
「姉さん、口調……素に戻ってる」
「そっちのほうが喋りやすい。それに……死んでも許さねぇからな、あの女」
「ミナ、言葉遣いには気を付けろ。一応女の子だろ」
「ルーカス、今それ言う?!うちらの可愛い後輩がどれだけ傷ついたと思ってんの?!」
「……気持ちは分かるわ。でも声を抑えて。アキナ、起こしたら意味ないでしょ」
「……悪い、ティント」
「いいのよ。とりあえず、学園に戻ったら情報を集める。何が起きているのか、はっきりさせましょう」
「了解だよ、ティント姉さん。父さんたちにも声かけてみる」
「ダーク!」
「あ……今の忘れて」
「俺はもう秘密はこりごりだぜ。仲間だろ? 誰にも言わねぇ」
ティントは一度、静かに息を吐いた。
「……私とダークの父親が、仕立て屋のラークなのは知ってるわよね?」
「知ってる。何度も遊びに行った」
「でもね、裏の顔があるの。情報屋。しかも、王国の諜報部隊より早く、深く掴める」
「……嘘だろ」
「本当。黙っててごめん、オーディン」
「……かっけぇぇぇぇぇぇ!!無敵じゃん!すげぇ!」
「オーディンならそう言うと思ってたわ」
張りつめていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。
――――――
交代で眠り、見張りを続け、朝が来る。
「おはよう、アキナ。スープ作ったけど……食えるか?」
「……いらない。早く学園に戻ろ。みんなに知らせなきゃ」
「……分かった。じゃあ俺、みんなに伝えてくる」
太陽は容赦なく照りつけ、地面を焼く。
まるで、この世界の何もかもを炙り出すように。
重たい沈黙のまま、私たちは歩き出した。
――――――
その頃。
魔王の遺跡城。
「将軍様たちのご帰還だー!」
「緋色の魔女様も戻ったらしいぜ!」
「やべぇ……無敵じゃん、俺ら!」
兵士たちのざわめきが、城を満たす。
それも当然だった。
緋色の魔女——スカーレット。
この地で育った孤児であり、誰よりも強かった存在。
「皆さん、ただいま」
「久しいな、緋色の魔女。だが、すぐ出立するのか?」
「ジェラート卿。ええ、まだ学園の生徒ですから。急に消えれば、不審がられてしまいますもの」
「そうか。我は将軍様と魔王様のもとへ向かうが……来るか?」
「ええ、もちろん」
嫉妬軍部隊長、ジェラート卿。
相変わらず、ねっとりとした空気。
長い廊下の先、会議室。
耳を覆いたくなるくらい高い声が叫ぶ。
「緋色の魔女じゃない! 元気だった?」
「ラヴレス騎士長。相変わらずお可愛らしいですわ」
「もう、相変わらずねぇ!」
「お帰り、だね」
「ノクターン提督。奥様はお変わりなく?」
「……君くらいだよ、気にかけてくれるのは」
「そんな年寄りより僕と話そうよ」
「ドールマスター元帥、今日もお若いですわね」
「色んな肉体操ってるからね」
「精神支配の方が楽だろ」
「プリズマ卿、お久しぶりです」
「うむ、息災でなにより」
「魔女ちゃぁぁぁん! 元気だった?」
「ミラージュ教授。今回はどんな研究を?」
誰も、気づかなかった。
見た目は何一つ変わっていなかったから。
——けれど。
(アキナ……)
胸の奥に、名前だけが残っている。
(許してもらえるとは思わない。
それでも……私は……)
その言葉は、まだ形にならない。
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