緋色の魔女の裏切り
学園の門の前。
入学の日に私たちを祝福してくれた紅葉は、すでに茶色へと変わっていた。
灰色に沈んだ空は、この先に待つ運命を暗示しているようで、胸の奥がざわつく。
仕立て屋のラーク、クリスティー先生、ヴァイス教官、そしてローレンツ宮廷魔術師。
思っていた以上に多くの人が、私たちを見送りに来てくれていた。
「ティント、ダーク。気を付けて行ってくるんだよ」
「はい、父さん」
短いやり取りなのに、やけに重い。
「お前たちは、我々の誇りだ。こんな役目を背負わせてすまない」
「謝らないでくださいませ、ヴァイス教官」
スカーレットが一歩前に出る。
「クリスティー先生も、ヴァイス教官も……皆様がいなければ、私たちはここまで来られませんでしたわ。ね? 皆さん」
「うん。そうだね」
私は深く頭を下げた。
「本当にありがとうございました。……行ってきます」
それ以上言葉を交わせば、きっと足が止まってしまう。
私たちは足早に馬車へ乗り込んだ。
王都の門を越えた先からは徒歩。
復活が確認された荒野まで、片道一週間の旅。
——怖くないわけがない。
正直、鬼怖い。
でも、来たばかりの頃の私なら、きっと泣き言を言っていた。
今は違う。みんながいる。
「アキナぁ~~、そんな顔すんなって! ほら、こんな強い仲間が揃ってるんだぜ?」
「別にそんな顔してないし……というか、あんたが一番頼りないんだけど」
「え?! 俺、励ましたよね?!」
「まぁ、オーディンはにぎやかし担当だな」
「ルーカスまで?! ダーク、頼む、お前だけは否定しないでくれ!」
「え? 僕も同意見かな……ごめん」
「ごめんが一番刺さるんだって……!」
笑い声が、少しだけ緊張をほどいてくれる。
馬車が止まり、王都の外へ。
「よし、行くか! 冒険だ!」
「えぇ、冒険ですわ!」
「……ねぇ、みんな。来てくれてありがとう」
「は? 何言ってんの。仲間じゃん」
「そうだぞ、気負いすぎだ」
「水臭いです、アキナ様」
「もっとルーズに行こうぜ!」
「オーディン2人はいらないから」
「おい、ダーク!」
——このメンバーでよかった。
心から、そう思えた。
野営を繰り返し、ようやく辿り着いた荒野。
日はすでに傾き、空気が一気に冷えていく。
「ここが、確認地点ですね」
「うん。今日は無理しないで野営にしよう」
各々が迷いなく役割をこなしていく。
火、狩り、結界、風呂、水の確保。
私は食事の準備に集中した。
「今日の成果だよ」
「荒野ウサギ三匹……ありがとう」
包丁を入れる手は、もう震えない。
煮込みスープと、燻製。
せめて、温かいものを。
食事は賑やかで、平和だった。
その夜、私は最初の見張りに立つ。
焚き火を見つめていると、世界があまりにも静かで。
——魔王なんて、本当はいないんじゃないか。
そんな錯覚すら覚えた。
「アキナさん?」
「スカーレット、眠れない?」
「ええ……明日が、少し」
「大丈夫だよ。みんなで助け合えば、今回も——」
スカーレットは、泣きそうな笑顔を浮かべた。
「あなたは、本当に優しくて……残酷ですわね」
「どういう意味?」
「あなたとは、本当の意味でお友達になりたかったですわ」
——その続きを聞く前に。
友愛獣たちが、激しく吠えた。
闇の向こうに、七対の瞳。
近づいてくる。
色とりどりの光の中、最後の一つだけが——夜よりも黒い。
「戦闘態勢!」
その声と同時に、スカーレットが前へ出る。
「スカーレット! 危ない!」
「大丈夫ですわ。警戒を解いてください」
深紅の瞳の女が、楽しげに微笑む。
「つれないですわね。六将軍が直々に来てあげたというのに」
「迎えに来たよ、緋色の。帰ろう、我が家へ」
——我が家?
スカーレットは、振り返らなかった。
六将軍の隣に並び、そのまま霧に溶ける。
「スカーレット……? 嘘でしょ……」
「行かないで……私たち、友達でしょ……」
叫びは、夜に消えた。
ただ、傍にティアとミナが立っていた。




