中位魔術使えるようになりました!
時間が経つのは、本当にあっという間だ。
この世界に来てから、もう半年が過ぎていた。
食堂での一件以降、あからさまなひそひそ話に晒されることはなくなった。
だからといって新しい友達ができたわけでもない。
ただ、波風の立たない日々が静かに流れている。
——これはこれで、悪くはない。
そんなことを考えながら、今日は久しぶりに1人で教室へ向かう。
「アキナさん!おはようございます」
「スカーレット!おはよう。寒いねぇ」
「ほんとですわね。あと一週間でクリスマスですもの。今年は雪、降るかしら」
「去年は積もったの?」
「えぇ、かなり。何日か授業もお休みになったんですよ」
「へぇ……」
「おっすぅ~」
「あぁ、オーディンおはよ。今日の午前って何の授業だっけ?」
「今日はクリスティー先生の魔術学だよ。下位魔術の完成度の確認と、中位魔術を教えるって言ってた」
「まじ?」
「まじ」
「みんな、おはよ」
「ダーク様も、おはようございます」
雑談しているうちに予鈴が鳴り、教室の扉が開く。
入ってきたのはクリスティー先生だけじゃなかった。
ミナ、ルーカス、そして見覚えのない上級生たち。
「諸君、おはよう。今日は前回教えた下位魔術の完成度を見る。そのうえで、出来ている者には中位魔術を教える」
教室のざわめきと、自分の緊張が重なって、空気が一段と張り詰める。
「静粛に。杖を出せ。友愛、恋愛、慈愛、信頼、希望、正義、無色の順で行う」
次々と魔法が発動される。
オーディンも、ダークも、スカーレットも——問題なく。
「はい、辞め。名前を呼ばれた者は隣の教室へ。呼ばれなかった者は、このまま上級生と練習を続けろ」
息を呑むような沈黙。
「……アキナ、グーデリアン、コンフィグ、ドレイン。以上4名、移動」
——選ばれた。
教室を出る直前、ミナとルーカスが小声で言う。
「やるじゃん、ひよっこちゃんたち」
誇らしげな2人の顔を見ると、胸の奥が少し温かくなった。
「よし、中位魔術だ。まずグーデリアン。精神障壁」
「精神障壁」
「よくできている。お前の魔法は精神系に特化している。目に見えなくとも、それは強みだ。精進しろ。それが仲間を救う」
「はい!」
——助ける。
なんだか、オーディンらしい。
「次、コンフィグ。光結界」
「光結界」
歪みはあるが、確かな光の盾。
「最初はそれでいい。鍛錬を続けろ」
「はい」
「では、ドレインとアキナは同時だ。ドレイン、水塊。アキナ、魔法中断」
「水塊」
「魔法中断」
透明な光が二人を包み、魔法が静かに消える。
「上出来だ」
——魔法が、増えた。
少しずつ、でも確実に。
「私は教室に戻る。お前たちは先に食堂へ行け」
「よし、飯だ!」
「そうですわね」
廊下は人が少なく、冷たい空気が支配している。
「ドレイン嬢」
しゃがれた声が、静寂を切り裂いた。
「……はい、学園長」
スカーレットの肩が小さく震える。
私はそっと、彼女の肩に手を置いた。
「食事の後、執務室に来なさい」
「……かしこまりました」
——何か、ある。
直感がそう告げていた。
「先に食べてしまいましょう。学園長をお待たせするわけにはいきませんもの」
「そうだな。スカーレットは優等生だし」
「誰か様と違って、努力は性に合っていますの」
「おい~」
足早に食事を済ませ、スカーレットは重たい足取りで食堂を後にする。
「……帰ってきたら聞いていいかな」
「やめとけって。相手、学園長だぞ」
「僕もそう思うよ」
「……そうだね」
——その頃。
「学園長、参りました」
「聞いた。あの娘、中位魔術を使えるようになったそうだな」
「はい。そして、Emoreの数値を考えても、仲間にするなら先ほどのあの子たちが最適です」
「では命ずる。——緋色の。あの娘を捕らえ、あの方の前に差し出せ」
「あの方……封印された魔王様の前、ですか?」
「不服か?」
「……いえ。ただ、アキナはまだ完全に覚醒しておりません。今は——」
「居場所を与えたのは誰だった?」
「……申し訳ございません」
「付いて来なさい」
「別室は……嫌です……!」
抵抗も虚しく、スカーレットは暗い牢獄へと連れて行かれる。
——その事実を、
私はまだ、何も知らずにいた。




