-出発-
今日はついに父さんが街に用事があるとのことで外出すると言っていた日だ。
それが何を意味するか、それは俺もお供して初めてこの世界の街並みを見ることが出来るのだ!!
いくら楽しいと言えど毎日訓練と術の使い方の勉強ばかりだと…お世辞に言っても飽きるのだ。
こちらの世界の文明などもどこまで発展してるかも屋敷内にいるとどこまで行ってるのか全くわからない。なので見分を広めるためにもこの機会は絶対に逃がせないのだ。
資源の流通や電気の概念や自動車などの存在も気になる所だ、探求心がやむことはない。
そして朝からカインズがやたら豪華な馬車にいろいろな箱や布の袋みたいなものを大量に積み込んでいる。
なにをしに行くかは聞いてないけど商売でもしに行くんだろうか?
「お~いソーマ!もうすぐ出発だぞ!」
外を眺めていると父さんがこちらに向かって叫んでいた。
「いまいくー!」
窓を開けて手を振りながら返事をする。
すぐさま階段を下りて外に出て馬車に乗り込む、中には知らない若い男性が乗っていた。
「え、どなたですか?」
身に覚えがない人へつい問を投げた、だが目の前の男性はきょとんとした顔でこちらを見ている。
だが急に何かに気が付いた様な顔で慌てて口を開いた。
「すまんすまん!ソーマにこの姿を見せるのは初めてだったか!この姿じゃわからんのも仕方ない!ちょっと待ってくれ」
そう言うと男性の周りに血が渦巻き始め体を覆っていく、すると徐々に体格や骨格が変わり始め見覚えのある姿形になってきたと思ったところでその渦が弾けそこには見知った父さんが居た。
「父さんだったの!?なんで街へ行くだけで変身までしてるの?」
聞いてる最中にすでに元の若い男性の姿に変身し直している。
「普段の姿だと街に行くには少しばかり不自由でな…だから街へ外出するときはいつもこの姿なんだ。だからこの姿の時は父さんじゃなくアリードと呼ぶんだ、わかったな?」
なにか普段のあれだと不都合なのか?まぁ無駄に詮索しても仕方ないし言う事を素直に聞いておこう。
「わかったよ、アリードね。でもそういえば馬車はいいとしても運転手っていうか御者は?カインズは母さん残ってるから居ないよね?」
カインズは家に残るし、他の従者は居ないからどうするのか。
「ん?それならもう居るぞ?ほら、前の席を見てみろ」
つらっと父さんはそう言いだした。
え?俺が乗ろうとしたときは誰もいなかった気がするが言われた通りに仕切りのカーテンを開けて運転席を見てみると何故か知らない男がここにも座っていた。
「今度はだれ!?」
「あれは俺の血から作った男だ、作ったというより昔に血を吸った男だ。魂を支配下においてあるのでそれを都合が良いので従者として使っているんだ」
吸血鬼の能力ってそんなことも出来んの!?そっか、そんなこともこの数週間の授業のどこかで言っていたっけ?吸った物の血をストックしておけるからそれを支配下に外部に出して使い魔のように使役することも出来るって。なら俺はあの化け熊出せるのか…なにか機会があったら出してみよう、でもバカでかい熊が使い魔っていうのもなんかしっくりこないな。
普通は鴉とか狼とかなんかも少し格好いい生き物を使い魔にしたかった…
「便利だね、今度俺もやってみるよ」
「だがそのために無益な殺生はするんじゃないぞ?母さんも悲しむからな」
確かにそのためだけに血を吸って使い魔や魂のストックを増やすのは外道だな、母さんを悲しませたくないから絶対にしない様にしよう。
「わかってる、大丈夫だよ!」
そんなこんなしてるうちにカインズが積み荷を積み終わったらしく報告に来た。
「旦那様、総て積み込み完了いたしました。出発できます」
「おぉ、すまんな、ありがとう。よし、行くかソーマ!」
そう言い終わると同時に前の御者が手綱を持ち馬を走らせ始めた。
「どれくらいで街に着くの?かなりかかるの?」
「大体三時間ってところか、それまで魔物の多い地区も通るから何もなかったらの場合だがな!はっはっは!!!」
そんないつ何が沿ってくるかわからない様な地域通るの!?出来ればなにも無くいきたいけど、良からぬ考えが浮かぶ。
腕試しだ、あれからいくつもの技に名付けもして発動も早くなったし使い方もかなり上達したし肉弾戦においてもカインズにはまだ追いつけないとしても四週間前よりも遥かにこちらも向上してる筈だ。
「そのこ魔物はけっこう頻繁に襲ってくるの?」
「そうだな、この姿とこの特殊なコートの効果で魔力が普通の人間レベルまで隠されているから餌が来たと五回に四回は襲われてるな!!」
襲われてんの80%の確率じゃねーか!!超物騒な地域じゃん!!
「それ…本当に大丈夫なの?」
「襲ってくると言えど所詮は80レベル程度の雑魚ばかりだ、大した支障もないし俺の使い魔だけでどうとでもなる!」
レベル80!?俺が今で33なんだけど…それ戦ったら死なない?腕試しも糞もないよね…
「そんなレベル高いのに使い魔だけでどうにでもなっちゃうの?」
「使い魔のレベルや能力は生前高ければ高いほど良いが、そこに術者の能力やスキル、レベルによっても使い魔の能力に加算されるものも数多くあるのだ」
「そうなの?なら弱い生き物でも使い魔にしたら使役する奴が強かったり良いスキル有ったら強くなるの?」
「そうだな、下手したら使役したら上位の種族に変わるとかもあるぞ?それに使役する者のレベルに近しくなるから、レベルが1の魔物でも取り込んで出したら術者が100なら使い魔に能力が加算されてレベル80から90相当の能力になっている筈だ」
ならゲームとかであるような序盤で捕まえて思い入れがあるモンスターだけど終盤に差し掛かると能力的に弱いからさよなら~とかはしなくてもいいのか!!
なら魔族に襲われたりしたら一匹位気に入ったの使い魔用に吸血しとくのもありだな。
自己防衛の時なら母さんも悲しまないかな?
「俺もゆくゆくは使い魔とか増やしてみたいな!」
「あまりやりすぎないようにな?あとは何か生き物を吸血するときはその生き物の魂から存在に至るまで総てを奪うんだ、覚悟をして飲んでやれ」
父さんが急に真剣な面持ちになってそう告げられる。
生半可な気持ちではするなって言う事か。
「うん、肝に銘じておくよ」
「よし!いい子だ!!そうだソーマ!どうせその魔物の多い地域、ウィリクスの丘までまだ時間もあるし能力の確認でもしておくんだ」
ウィリクスの丘って言うのかその危険地帯は、覚えておこう。
「確認っていたってなにすればいいの?」
「ならそれこそ使い魔の出し方だ、それは説明したよな?」
あぁ、何日か前に教わったばかりだ。
技を出すのとはまた違う自分の中にある他者の魂を自分の血で作った依り代に移す。これが使い魔の召喚方法らしいがまだやったことはない。
「やり方は覚えてるけどやったことないし、何よりあいつこんなところで出したら馬車ぶっこわれるよ?」
目測で4メートル以上は余裕であったのだからここで出したらやばいことになるし、俺の血が足りない。
「あのサイズでお前にはまだまだ出せないだろう!依り代のサイズを変えて出すのだ、こんな風にだ」
父さんの肩に血が集まっていき鳥の形になっていき、形成が終わったと思った瞬間に体全体に黒く色が付きはじめ急に大声でカァー!!と鳴いた。
それはかなり大きいサイズの鴉だった、だが俺の知ってるものよりなんか強面と言うか嘴が刺殺せそうな程尖っており、羽の生え方が刺々しい。
そして血で依り代を作るってなっていたから体の色も真っ赤になると思っていたが違っていたようだ。
「これがこいつの通常での大きさだ、だが依り代の血の量をこっちで調整すると…」
静かにその鴉に父さんが手をかざすと鴉の体から血が掌に吸い込まれていき、みるみる体が小さくなって60センチは有った大きさが一気に拳サイズになってしまった。
「こんなに可愛らしいサイズになるわけだな」
自慢げな顔でこっちを見てくるがそんなん俺に出来るのか?
不安は残るが時間はまだある、なので静かにまず俺の中にある鋼毛熊の魂に問いかけた。




