-戦利品-
俺は少しの間、勝利の余韻に浸っていた。
「弱肉強食って、こんな感じなのかな」
などと青空を見上げながらぽつりと呟いた。
俺は勝ったのだ、それも格上の相手にだ。つい嬉しくて小さくガッツポーズならぬ拳を目の前に作り眺める。
そして熊の死体をどうしようかななどと悩んでいると俺の探知に突進してきた熊よりも早い速度で何か突っ込んできた。
なんだ?新手か?
咄嗟に向かってくる方向に身構えたが取り越し苦労だった、こちらに来てるのはカインズだった。
範囲に入ってくるのがあまりに早くて周囲探知に映っても影が捉え切れなかったが、集中して入ってきた影を確認したらかすかにだが見えた。
「あ~焦った~…」
少し冷や汗をかいてしまったのは内緒だ、でもかなり早い相手だと一瞬じゃ把握できないな。
おい、周囲探知ってレベル上がるとその辺の精密度もあがるのかな?でもさすがに視認しやすく影からもっとちゃんと見えるだけなんだろうか?
まぁそれは今度レベルが上がった時のお楽しみだな。
そうしてるうちにカインズが俺がここに来た速度の三倍近い速さでここに到着した、到着するなり開口一番に心配された。
「坊ちゃん!!大丈夫ですか!?お怪我はありませんか!?」
ここに来た段階では汗一つ搔いてなかったのに、俺を発見するや否や一気に汗を搔いて俺にそう言い寄ってきた。
「だ、大丈夫だって!ちょーっとだけケガしたけどさ…」
俺の返答を聞き、あたりの爆発後や鋼毛熊の亡骸を見て察したのだろう。
「ご無事で何よりです、ソーマ坊ちゃん…ですがあまり無茶をなさらないでください、さすがに鋼毛熊、それもこの森の主であるこやつを今の坊ちゃんが相手取るなど自殺行為もいいとこですぞ!?」
そう言いながらカインズは俺の両肩をがっしり掴んできた。
やはり自殺行為に近しかったのか、だが何とか俺は最初の死線を潜り抜けることはできたし。まー結果オーライだろう、きっとこれを言ったらカインズに怒られかねないから口は閉じておくが。
「ごめん、でも自分を試したかったんだ俺は父さんと母さんのために立派になりたいんだ。でも実感したよ、俺はまだまだ弱いだから帰ったらカインズ、明日から俺に稽古をつけてほしい」
俺は心配させたことを申し訳ないと思いつつも自分の胸の内を明かしてその志の協力を願い出た。
それに対しカインズは意表を突かれたかのように普段の静かな威厳と礼節のある顔が素っ頓狂な顔になってしまった。
「訓練…ですか?」
「だめ…かな?」
今の実力は確実にカインズの方が段違いに上だろう、ここに来るまでの速度が段違いって言うだけでただ早いだけですなんてことはないだろう。
「旦那様の了承が得られれば…とだけ申し上げときましょう」
カインズは肩を沈め少し呆れ気味にそう言われた、だが父さんさえ説得すれば更に強くなれる。
「ほんとだな!?わかった!!父さんの了承を得ればいいんだな!!」
まず戦闘に関しては俺は一般市民だっただけあってずぶの素人だ、今回だって身体能力などに頼って勝ったに過ぎない。ならまず俺は戦闘技術と体の動かし方を覚えるだけで大いに見違えるだろう。
こんだけ良い体を持っているのだ、動かし方を知らないと宝の持ち腐れも良いところだろう。
「それよりもまず館に帰りましょう、旦那様も奥様も心配なされておりますし。まずお召し物をお替えしましょう」
確かにそこそこ時間も経ってるし、自分の体に視線を落とすが全身凄まじいくらいに服は破れてるわ泥だ血だで汚れている。こんな姿を見せたら父さんはまだしも母さんはぶっ倒れるんじゃないか?ちょっと見せてみたい気もするがやめておこう。
「だな、帰ろうか。あとカインズあの熊持って帰って今夜の晩飯にしよう!」
俺の戦利品を指さして自慢げに告げる。だがこの世界に味噌とかそういった調味料あるのか?有るなら嬉しいな。醤油とかもあると最高なんだがなー。
「しかしどのようにして仕留めたかはわかりませんが、本当に奴を倒すとは見事ですな」
カインズは感嘆を漏らしつつ俺を褒めてくれた、それは俺がまだ低レベルという意味合いでも技術不足という意味での驚きなのだろう。
そうして驚きながらカインズは鋼毛熊に近づき状態を確認する。
「ふむ…焼けてしまった所は切り落としてもまだまだ使えるところはありますな、それでは急いで血抜き致しましょう。私がこれを担いで帰りますので坊ちゃんはご自分で帰れますか?」
まさかこれ担いで帰るってのか!?体格差は優に6倍は有るだろうがそれを担いでいくって!?この人サラッと何言ってんの?
さすがに俺にはこれを担ぐのはまだ無理だ、そういった意味でもカインズとの間に大きな差を感じるな。だがすぐに追いついてみせる。
「なら急いで帰ろうカインズ、腹減ったよ俺…」
そうして俺は一足先に来た時と同じように木々の上を飛びながら急いで家へと急いだ。
だが館に着いて中に入り玄関のドアを閉めようとしたら急に開きカインズが入ってきた。
あれを担いで俺とほぼ同時に帰ってきた!?どんな移動速度してるんだよ…
「お、おかえり。カインズ思ってたより早かったね」
驚きついついきょどってお帰りのあいさつが口を出たが。カインズはさも当然かのように笑顔で話し出した。
「執事ならこの程度当然の嗜みですよ、この程度出来ないようでは旦那様にお仕え出来ませんので」
こんだけの能力を持った執事ってそんなポンポン居るもんなの?だとしたらこの世界めっちゃ怖いんだけど…
「そ、そうなんだ…大変だね」
「そうでもないですよ?こんな私がお仕えできることに嬉しさも喜びも感じておりますので、それではまずこれを運び終わったら坊ちゃんのお着換えを出しましょう」
カインズはそれを引きずるでもなくさも軽々担いで汗一つ搔くことなくそう言ってきた。
「いや、着替えは大丈夫だよ!自分でできる、そういえばもう客さんたちは帰ったの?」
探知に気配が感じれなかったが一応確認のために聞いてみる。
「わかりました、あの方々でしたらもうお帰りになられましたよ、どうかなさいましたか?」
まぁ確かにあんな異常な魔力を持ってる奴ら近くにいて気付かないはずかないもんな。
「いや!ちょっと気になってさ!」
だがあの蜥蜴人族の男、やっぱなにか引っかかる、気を付けよう。
「そうですか、それでは私はこれの調理に入りますので出来上がり次第お呼びに上がります」
「うん、わかったよ。父さんにはあとで話に行くよ」
さすがにこの格好のまま行くのはまずいだろうから着替えてからだな。
「はい、その方がよろしいかと」
まずは着替えて父さんに事の顛末を話に行くかな。
それじゃ部屋に戻ろう。




