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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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68/408

第68話「ラストバッター」

 古堂のピッチングを受け、11回裏……クロ高の攻撃。先頭打者は田中遊。鉄日高校のキャッチャー迫田は、黒鉄にサインを出す。

(初球縦スラで様子見、二球目サークルチェンジを外して)

黒鉄は迫田のサインにうなずき、初球の縦スライダーをしっかりと投げる。田中は見逃すが、低めギリギリにしっかりと入っており、ストライクカウントを取った。続く二球目のサークルチェンジ。これも見逃した田中。次は外れたボール球となり、1ストライク1ボールの並行カウントとなる。

(今までの数十倍はしっかり集中……県大会優勝が懸かってるんだ。全力でやるぜ)

三球目のストレート。高めに入った釣り玉。田中はタイミングが合わず空振りとなる。

(ぐっ……)

悔しそうに歯軋はぎしりをした田中。目の前の黒鉄は余裕そうな表情で笑っている。それも随分と腹が立つ顔で……。

(お前は出塁させなきゃ大したことはない。だって今宮と山口よろしく長打がないバッターだもんな)

黒鉄は笑って4球目を投げた。外に逃げる高速シュート。145km/h前後で飛んでくるその変化球――しかし、田中はしっかりとボールを見据え、三塁線方向に打ち返した。

「そりゃ!」

サード島田が左側を過ぎていく打球に飛びつくが、ボールはいとも簡単に抜けてしまう。

「キヨ!」

島田の叫び声とともに、深めに守っていたショート本田がしっかりと打球をつかみ取る。

「良く捕ったぁ!」

実況の声。

「送球頼む!」

大きく態勢を崩した本田は、そのままグラブトスで島田に送球を託す。

(元投手のコントロール舐めんなよ!!)

そのまま島田の肩からボールが振りぬかれた。駆け抜ける田中――頭から滑り込む。判定は――

「セーフ!」

審判の叫び声。島田の送球は、正確無比で最短距離を通って行ったが、田中の走塁の方が、一足早かったのだ。

「クロ高の切り込み隊長! 田中、意地の内野安打っ!!」

実況の声に合わせて観客も盛り立てる。


 ここでバッターは、二番セカンドで主将キャプテンの今宮陽兵。

(打つぜ……)

大きく息を吐く今宮。

「よっしゃ初球からぁ!」

今宮が叫ぶ。それと同時に牽制球を一塁に投げる黒鉄。

(初球から……はこいつら二人の盗塁のサインである可能性がある。9回にもそれで一気に得点圏にランナーを運ばれた……。警戒しねえとな)

ファーストから再び黒鉄にボールが戻される。それを笑いながら見つめている田中。

(わりぃな……俺らの目的はそこにあるわけよ)

初球、黒鉄が投げたのはストレート。ノビに優れた速球を、今宮は空振りする。そして、田中はそのまま走り出した。

「スチール!」

地村の指示とともに、セカンド斑鳩がベースカバーへ。キャッチャー迫田が送球するが、田中のスライディングは一足早い。

「っし!」

立ち上がるとともに小さくガッツポーズをする田中。そして今宮は笑ってそれを返す。

(……舐めやがって!)

黒鉄の高速スライダー。しっかりとミートさせて打ち返す今宮。しかし――

「あーらよっと!」

前進守備の斑鳩がしっかりと打球をつかむ。走り出そうとしていた二塁ランナー田中を目で牽制し、一塁につかんだボールを投げた。

「アウト!」

セカンドゴロに捌かれる今宮。1アウト2塁となった。

(……畜生)

悔しそうにベンチに戻る今宮。そんな彼を呼び止める一つの声。

「惜しかったっす! でも、あのプラフ、なかなかうまいですね!」

古堂だった。無理して笑っているのが明らかだった彼の笑顔に、今宮は気づかされた。

(……落ち込んでちゃいけねえ。これから逆転ムードを作らなきゃならねえんだ)


 打席に立つ三番センター、山口寿。

「山口ぃいい! 打ってけ!」

大声で叫ぶのはキャプテン今宮。二年の小林や芝、坂本も叫んで声援を飛ばしている。

「……」

細い目をさらに細くして、少しだけ微笑んだ山口。黒鉄はバカにしたような笑いでつぶやくのだった。

「期待されてるじゃん……」

初球の縦スライダー。見極められずに空振りする山口。

(やっぱ初球狙ってたよねえ……でも球種見抜けなきゃ初球打ちはきついよ?)

黒鉄はにやりと笑い、二球目を投げる。次は速球。山口の内角にしっかりと入り込んでいる。

(ぐっ……)

苦しそうな顔をする山口。クロ高側ベンチ、およびスタンドから聞こえてくる声援。

(そうだよね……気にしたことはなかったけど、俺だって一応、『白銀世代』だ。黒鉄に『白銀世代のくせに大したことない』ってバカにされたときは、無意味にそのステータスをつけられることが嫌だった。でも今は逆だよ……)

黒鉄が投げたのは、外角ぎりぎりのサークルチェンジ。ゆっくりとボールが近づいてくる。

(こんなにすごい選手たち……新田、田中、今宮……坂東、三島、猿渡、大坂、江戸川……高月、後藤、荒牧、仙田……大槻、白里、レイモンド……四方、斑鳩、地村……そして黒鉄……こんな人たちと肩を並べられるなんて、最高の気分さ)

打ち返した打球は若干流し打ち気味になり、ライト方向へ。しかし、木口が打球の落下点に到達する前に、打球は落ちる。三塁へ走る田中をアウトにしようと送球する木口。それでもやはり田中の足の方が早く、ここでもアウトにはできない。

「3番山口ヒット! 1アウトランナー一、三塁! 同点のランナーが出ました! さあここで打席に立つのは4番サード大滝真司!! 9回では土壇場の同点タイムリーツーベースを放っています! そして、ここでホームランが出れば、ピンチ転じて一気に逆転サヨナラとなります!!」


 沸き立つ歓声。打席には大滝真司。観客たちはみな、彼の一打に注目している。

(大滝くん……がんばれ……)

小泉や小豆ら、クロ高スタンドにいる者たちもみな、一体となって祈る。

「黒鉄ェ!! あんだけ溺れるな言っただろ! 油断すんじゃねえ!!」

(あっちゃあ……乾監督マジギレしてらあ)

乾監督の叫び声を聞いて、黒鉄は舌を出しておどける。


 大滝は打席にて深呼吸した。打席に向かう前に言われた監督の言葉を思い出す。

――お前のバッティングは黒鉄相手に通じている。ずっと……兄と比べられて苦しかっただろう。だか、今はそれを払拭するチャンスだ。すべての劣等感を……鉄のようにそびえ立つその壁を……お前のそのバットで打ち壊して来い。

力強いその言葉を、大滝は頭の中で何度も反復させる。

(狙うは一発……逆転サヨナラしてやるさ……古堂とか伊奈じゃないけど……やっぱりここは、最高に目立ちたい場面だよ)


 対する黒鉄……。

(さっきは初球ストレートを打たれた。だからこそ……次はストレートで打ち取りたい。サイン、考慮してくれな……迫田)

黒鉄の目を見て、迫田もだいたい察する。

(さっきの打席……やっぱり悔しかったんですね。初球サークルチェンジ、二球目の高速シュートでカウントを稼ぎ、そこからストレートを中心に三振にしてやりましょう!)


「ランナー空いてるし、満塁策もある。一発の可能性のある大滝との勝負は危険じゃないのか?」

一人の観客がつぶやく。しかし、隣の若い男……とは言っても、明らかに見た目は高校球児……そんな彼が告げた。

「5番伊奈に二安打されてますから、警戒する相手、俺は間違えてないと思いますよ。それに……黒鉄大哉は強い。こういう場面、抑えなかったことはない」

そう力強くつぶやく高校生。不思議に思った観客の男が、一つ尋ねる。

「君は……?」

「俺は石川県の清龍高校せいりゅうこうこうの、岩澤亜音いわさわ つぐねというものです。いや……北信越大会で戦う相手、やっぱ見ておきたいじゃないですか」

「ああ、そうだね……」

観客の男は笑って再びマウンドの黒鉄に視線を戻す。そして、清龍高校の岩澤も、同様にマウンドと打席を見ていた。

(どっちが勝ってもおかしくないこの場面……鉄日は長年の実績から見る限り、地力はあるし、エースと4番が、それぞれ主軸を担った強いチームだ。対するクロ高も、継投継打のチームプレイが強力。ハマれば間違いなくどちらとも石川県でも頂点を狙える)


 初球のサークルチェンジがど真ん中に決まる。大滝は見逃していた。

「っしゃあ! あと2人ここでばっちり抑えていこうぜ!!」

ベンチからの声援を受け、余裕を見せながら笑う黒鉄。

「打てよ大滝ェ! もう厳しい所に投げ込むスタミナ残ってないんじゃねえのか!!?」

クロ高側も、大滝に精一杯の声援を送る。


 そして――二球目。高速シュートが外へと逃げる。これは見逃してボール。

「手出てないよ! 容赦なく行こうぜ黒鉄ェ!」

鉄日高校は一気に黒鉄を後押しするムードを作り上げる。

「見えてる見えてる!!」

「最悪同点でもいいぞ! 俺はまだ投げられる!」

ブルペンからも、伊東や古堂らが、大声で声援を送っていた。


 三球目、黒鉄が投げたのは、高めのストレート。

(打てるもんなら……打ってみやがれ!)

滑るように、一気に迫田のミットまでボールが走った。大滝は、そのノビのあるストレートに、まったくタイミングが合わない。

(……嘘だろ……)

「ストライク!」

2ストライク1ボールと追い込まれた大滝。ここで、ネクストバッターの伊奈が大滝に声をかけた。

「俺の出番まで持っていこうとすんなよ! 金条だって一回くらいは打ちたいって言ってたぜ! まあでも……お前がラストバッターになってもいいんだぜ?」

(伊奈……)

伊奈は笑って大滝にこぶしを突き出す。大滝も笑った。


 そして、黒鉄はもう一球ストレートを投げた。次は内角低め。兄である大滝進一の得意なコースだ。

(俺のバットで、鉄の壁を、ぶち壊す!)

ストレートに、しっかりとタイミングを合わせ――――ボールを打ち返した。

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