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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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67/408

第67話「強心臓」

 鷹戸が投げた初球のツーシーム――高めに浮いた球だったが、木口は見逃してストライク。

(……案の定乱れている……絶対に打てる。甘い所に入ってきたストレート、狙うのはそこ)

二球目、投げたのはスプリット――木口はそれをボール球だと見逃した。

「ボール!」

木口の選球眼に、金条も苦しい表情を見せた。

(肩を痛めているかもしれない鷹戸に、ジャイロボールは投げさせられない……頼む、ここは凌いでくれ……地村さんもあとで控えているし……)

三球目もスプリット。しかし、これは高めに浮いてしまう。

(しまっ……こんなの木口が見逃さないわけ……!)

木口は目を見開いてど真ん中で緩く落ちていくスプリットを打ち返した。

「っしゃあ!」

右中間を抜けた木口のヒット。彼の俊足は瞬く間に一塁を蹴っていく。ライト小林の強肩からの送球も間に合わず、しっかりと2ベースヒットを決めた。

「おらよっ!」

木口は嬉しそうに二塁ベース上でガッツポーズを取った。

「……」

地村はそのガッツポーズを無言で見続けている。もちろんバットを振って打撃への意欲を見せた。


「タイムだ」

絹田監督がタイムを取る。

『選手の交代をお知らせします……』

鷹戸が目を見開く。4番地村を目の前に、上の歯と下の歯をぶつける。

『……11番鷹戸くんに代わりまして、18番ピッチャー、古堂くん』

「えっ……古堂!?」

「ま、まじかよ……」

「ここでえらい大博打に出たな……」

延長11回の表、ノーアウトランナー二塁。この場面でバッターは、4番地村洋。夏のときから閑谷の豪速球を打つだけのバッティングセンスを持つ。この試合でも、初打席にして新田の変化球をクリーンヒットし、鷹戸の速球も、ジャイロボールも、しっかり合わせて鋭い打球を生み出すことができている。おそらく、鉄日高校はおろか、県内でもトップレベルのバッター――――


 この場面で古堂を登板させることについては、観客も賛否両論だった。

「こ、古堂はきついだろ……優勝かかってんだぞ?」

秋江工業の奥田は絶句して汗を垂れ流している。

「新田と鷹戸を完全に打ち崩した地村に、古堂が相手じゃな……」

江戸川も苦しそうな表情をしていた。

「でもどっちみち伊東でもきついでしょ」

溝口が付け加える。大坂も口を開いた。

「そうだな。それならむしろ、ここぞという場面で無類の強さを発揮する強心臓ピッチャーの方が、まだ任せられる気はする。それに……」

そのまま彼は集まる内野陣を見る。

「古堂の守備はへたくそ。そのかわりといっちゃあダメかもしれねえけどよ、その分、内野も外野も気が引き締まる」




 マウンドの鷹戸は、無言で右肩を抑えつつ、ボールを古堂に託した。

「鷹戸……」

古堂が一言、話しかける。

「……肩、大丈夫なのか?」

「……」

鷹戸は首を縦に振る。

(大丈夫なんかい! 絶対に無理してるだろ!!)

「……ただ……監督は今のお前の方が俺よりも投げられるって認めたんだ。頼むぞコドー。お前なら、言わなくてもわかるだろ」

「……ああ」

古堂は、その右手のミットの中に、鷹戸から授けられた白球を落とし込んだ。

「この球場に、クロ高の強さ、見せてやりましょう!!」

叫ぶ古堂。内野陣全員が笑う。絹田監督が外野にサインを出す。それに気づいた山口が、小林と佐々木に身振りで指示をだす。

「おおっと……外野、バックホーム態勢……。地村の長打の可能性を捨てたか!?」

実況が声色を変えて状況を説明する。割りと浅めに守る外野手。二塁ランナー木口が本塁生還するのを防ぐのが目的だ。

「……まあこれは、外野手っつうか、チームから、ピッチャーに対する無言の信頼ってやつだよね」

解説も嬉しそうだ。



 その光景を、鉄日高校ベンチは笑いながら見ている。

「ヨー相手にその態勢はダメでしょ」と斑鳩

「つうか鷹戸だったらまだ防げたかもしれないけどあいつじゃなあ」と島田。

「どちらにせよ、ここまで追い詰められた時点で、俺たち、負けないっしょ」

最後に黒鉄はそう言って笑い、迫田をブルペンへ呼び出す。


(地村さん相手に敬遠は考えるべきなんだろうけど、ここで監督が古堂を出したのは、地村さんを敬遠させるためじゃない……。ここで抑えて、勢いをつかせるためだ)

金条はそうやってうなずき、初球、外ギリギリに入ったスローカーブを要求。

(初見でこれを打てるとは思えない)

地村は見逃す。しかし古堂の投げた球は外に外れてボール。

(ふむ……確かに普通のスローカーブに比べて本当に変化が早い。面白い投球だ)

二球目、中に切り込むシュート。地村はしっかりと見る。ストライクだ。

(……ふむ。よく切れる)

三球目――インローにストレートをばっちり決める古堂。球速は135km/h。ここでも見逃す地村。追い込んだ、

(なんで見逃す!? もしかして……あそこまでのバッティングセンスを持ちながら、初見の球は打てないのか?)

4球目、金条が要求したのは、外にわずかに逃げるカットボール。

(お前なら、この一週間でしっかりモノにしてるだろ? 頼むぜ)

古堂は嬉しそうにうなずく。

(……小学生のときからずっと極め続けてきたストレート。新田さんに教えてもらったシュート。自分で磨き上げたスローカーブ。閑谷さんから教えてもらったカットボール。これを見せ球にして、ラスト、もっかいスローカーブで仕留めることができれば勝ちだ)

古堂が投げた4球目、カットボールがホームまで一気に伸びていく。

(これはカットボールか……新しく覚えたんだな)

外にわずかに逃げるボール球をカットし、ファウルにした地村。

(これで全部見た……もう何が来ても打ち返せる)

古堂を見据えた地村。古堂の顔に寒気が走る。

(ぐっ……あれが……地村洋さん……)

地村から漂うオーラに、息が詰まる思いの古堂。金条もそれを感じ取っていた。

(一度見せてしまっている以上、どんな球でも打ち返されそうな勢いだな……)

金条はここで、低めに外したストレートを要求。

(二球分遊び球が作れる。これを有効に使っていこう)

金条のサインにうなずき、古堂はストレートを低めに投げる。地村は一切バットを振らない。


(息が詰まりそうだぜ……)

ファースト伊奈は息を大きく吐き、古堂らバッテリーから伝わる緊張感を同様に感じていた。

(木口は足はええし、できれば内野で止めたいよな……)

セカンド今宮は、二塁ランナー木口を見ながら、深めに守っている。

(絶対止める……絶対に!)

ショート田中も、地村のバットの先だけをずっと見ている。

(飛んで来たら止める……そしたら裏で打ってやるから……!)

サード大滝はグラブを構えてしっかりと打球に反応をする気でいる。

(……ここで抑えて、勢いづける)

古堂の、心臓の鼓動が確かに鳴り響いている。

(狙うは、三振。ここで絶対に決めてやる……俺の、ウィニングボール!!)

(決めろ、内角にスローカーブ……。見せてくれよ、お前の強心臓ピッチング)

金条のサインに、古堂はうなずく。

(……数々の打者を打ち取ってきたシュート。大坂大磨を三振にしたスローカーブ……。レイモンドを詰まらせたストレート。そして今のカットボール。一球一球増していくパフォーマンス。マウンドから伝わる気迫……見せてもらおう)

地村は眉尻一つ動かさずに古堂の投げたスローカーブを見ている。バットをゆっくり降り始め、手元にボールが来た瞬間――バットを鋭く振りぬいた。

(……えっ)

鋭い金属音とともに、打球は空へ登っていく。引っ張った打球はライト方向へ。

(よ、予想以上に飛んでいく……)

ライト小林が後退する。しかし、打球は、あまりにも鋭く、ライナー性を保ったまま、猛スピードでスタンドへと吸い込まれていった。


(えっ……)

「は、は、入ったー!」

実況が大声で叫ぶ。球場全体に、ホームランを讃える声が響き渡った。

「4番地村が魅せました! 延長11回、主砲による勝ち越しツーランホームラン!! 投手交代直後に突き刺さる二点!!」

球場全体が目を丸くした。

「……は、入れやがった……」

「地村……すげえよ、さすが鉄日高校の4番だぜ!」

「交代直後のこの一打は、クロ高にはかなり堪えるぜ。ここでどう立ち直るかが、クロ高のチームとしての真価の見せどころだ」

驚く溝口と奥田を横目に、江戸川がしっかりとクロ高側ベンチを見ている。

「……」

大坂は黙ってじっとマウンドを見つめていた。




 5-3という点差がついた。延長のこの場面で2点を取られたということは、確実に裏で二点を返さないとその時点でサヨナラ負けしてしまうということだ。しかも、次の打者は5番泉中。何とかして抑え、追加点を封じなければ勝ち目はさらに薄くなる。

「コドー」

今宮がつぶやく。

「裏で返してやるから……ここ三人で抑えてくれや」

「そうだ。俺絶対出塁してやるからよ。ここでお前がばしっと決めてさ」

田中も付け加えた。

「……打たれてランナーいなくなったし、のびのび行けるだろ」

金条は笑いながらしっかりと古堂を見据えた。

「みんな……すいません」

古堂の目は、血走っていた。集中しているのがよく伝わっている。

「あ、あんまり固くなるなよ。裏の攻撃もあるんだ。田中さんからだし、みんなも打てるようになってきているし……2点くらいならすぐ返せる」

伊奈は力強く古堂の左肩を叩く。

「……有名人になるんだろ。だったらここしっかり抑えて、逆転サヨナラ勝ち決めようぜ」

「……ああ」

眉をひそめ、打席の方向だけを見ていた古堂。明らかに日常の、うるさいあの古堂とは違う。

「(こいつは……本当にコドーなのか?)裏、絶対打つ」

「……わかった。絶対泉中、斑鳩さん、島田さんの三人で抑えるから……」

古堂は強くうなずき、タイムを終えたクロ高。


 打席には5番泉中。打たれた後に、ヒットを量産するタイプのヒッターがいるのは警戒しなければならない。

(三点入ったらさすがにメンタルくるだろ)

初球から狙い撃ちに行った泉中。しかし、予想以上のストレートの球速に、空振りしてしまう。

(140kmは超えないはずなのに……)

泉中が驚くのも無理はない。古堂の今のストレートは、彼の最速タイの142km/h。少しの感覚のズレが、彼の空振りを生んだ。そのまま二球目のカットボールをファウルにさせられる。

(あれ……おかしい。もっと打ちやすい投手だと思ったのに……)

そして、三球目のシュート――外に逃げる球を空振りし、三振に倒れた。

(水樹ちゃぁん……打たなきゃダメでしょ。まあ二点リードあるから大丈夫だろうけど)

斑鳩が打席に立つ。そして、初球のカットボールを打ち返すが、打球は緩く打ちあがり、古堂のミットの中に収まる。

(はっ……ストレートじゃなかったのか……ありゃカットボール)

斑鳩が悔しそうにベンチに戻る中、地村がはっとした様子で思い出す。

(……あっ、カットボール投げてくること言うの忘れてた……)


 そして、古堂のピッチングは止まらない。続く7番島田も三振に打ち取り、地村に打たれた後、三者連続で凡退に抑え……延長11回表は終わった。


 そして、運命の11回裏――2点以上取らなければ、負けが決まるクロ高。先頭打者の田中は、大きく息を吐き、打席に向かう。

「古堂……すまなかった」

絹田監督がつぶやく。

「……プレッシャーのかかる場面を、1年生であるお前に任せてしまったこと、申し訳なく思う。しかし、ホームランを打たれた後の、ピッチング。見事だった」

「いえ……むしろあの場面、任せてもらえたこと、打たれた後も投げさせてもらえたこと……それだけで十分です。もうちょっと警戒すべきバッターでした。そこらへん甘かったこと、反省してます」

(コドー……ただの投球バカだと思ってたが……いつも頑張ってたからな……)

同じ一年の林里は古堂の握りしめられた左手を見て、同じように悔しそうに俯くのだった。

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