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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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57/408

第57話「対策」

 閑谷が見せる投球フォーム。肩から伸びる腕が、斜め方向にまっすぐになっている、スリークォーターというフォームだ。

「お前と同じフォームでとりあえず投げてみた。お前は、身長の問題もあって、どちらかというとサイドスロー寄りのスリークォーターだな」

投球フォームは主に四種類ある。一つはオーバースロー。まっすぐ腕を振りおろし、重力の力を使って球速を生み出すフォームだ。鷹戸の投球フォームがこれで、肩への負担が他に比べて強めだが、彼は平然と投げている。続いてスリークォーター。古堂のフォームである。オーバースローとサイドスローの中間と言ったところ。そしてサイドスローとアンダースロー。遠心力を利用して投げるフォームである。

「っとまあ、だからお前は……肩肘の強さ、柔らかさは十分にあるわけだし、俺が教えたいのは、腰と肩の動きの連動だ」


 閑谷はもう一度投げる。

「こうやって……腰の捻りと肩の動きが水平になれば、下半身と肩の筋肉から生み出される力のロスが小さくなる。多分お前のことだから今まで意識したことないだろ?」

完膚なきまでにそうだった。何も言い返せない古堂。

「しばらくネットに向かって投げてろ。手応えあったら呼べ」

「はい!」

元気よく叫ぶ古堂。閑谷が伊東の様子を見ている間、古堂はしっかりとボールを握る。

(肩の動きと腰のひねりを水平に……下半身の力、上半身の力、肩の力、腕の力、手首のしなり……全てを指先に伝えて――投げる!)

縫い目が風を切る音――ネットに吸い込まれる直球。

(手応え……あるぞ)

古堂の心臓の音が聞こえる。そう、明らかに自分のストレートの威力が増していることがわかった。

「おっ、どうだコドー」

「……はい、手応えアリです!」

「だろ? ストレートの威力が増せば、ストレートに近い速度で外に逃げていくシュートも、球速差で仕留めるスローカーブもさらに脅威となる」

「ほげえ……」

古堂は強くその左手を握り、噛み締めるようにネットとボールを見ていた。



 「うらっ!」

低めに合わせたティーの上に置かれたボールを打ち返す大滝。強く弾かれ飛んでいく打球。

「ネット超えちまったじゃねえかよ!」

同じポジションの坂本夏哉が呆れた様子で笑っている。

「す、すいません!」

「良い事じゃねえか。常に攻めのバッティングを考えていることがよく伝わる……」

ファーストの二年生、芝豪介が大滝のバッティングを見ながら強く頷いた。

「夏哉……俺たちも負けていられないな」

「……芝」

二年生ながらベンチに甘んじている二人。一年生のクリーンナップにスタメンを取られているという事実は、何分悔しいものがあった。最初は恨めしく思うこともあったが、大滝や伊奈と言った一年生たちの試合だけでない、普段の練習からの熱心な姿に少しずつ影響を受け、今ではこうして共に高い意識のもと、練習をしている。二遊間のポジションの今宮、田中、林里らも同様に練習をしていた。

「しっ!」

しっかりとボールを芯で叩く今宮。

(黒鉄の変化球……下方向の変化球か……いや、むしろチェンジアップとか覚えてきていてもおかしくはねえよな……)

「どうした今宮?」

「あ……いや……新田の言ってた黒鉄の新変化球何だろうなって思ってさ」

「今考えても仕方なくね? どうせなら黒鉄の直球と既に使うことわかってる二つの変化球の対策しっかり練った方がいいって」

田中の言葉に、今宮も渋々頷いた。

「そうだな……」





 「うー! オフ明けの練習ってやっぱ気分乗らんねえ」

こう気だるげに語るのは、斑鳩瞬いかるが しゅん――鉄日高校6番セカンドの白銀世代の二年生だ。

「あんまり言っとると乾監督怒んぞ」

本田清行ほんだ きよゆきは平然とノックを捌きながら斑鳩に話しかける。

「うぃー」

斑鳩もまた、ゴロを平気で捌く。

「集合!」

「はい!」

キャプテン黒鉄の声に全員が集まる。鉄日高校も、来週の決勝戦に向けての練習を続けている。乾健太郎いぬい けんたろう監督は、不機嫌そうだ。

「オイ斑鳩! あんまりナメた練習してるとレギュラー外すぞ」

「さ、さーせん……」

「いいか、クロ高の攻め方はあくまでも選手主体。絹田監督はほっとんど試合中に指示を出さない。だから戦術は研究するだけ無駄だ。どちらかというと、選手個人個人にフォーカスを当てて研究すべし。まずは先頭、田中遊」

乾監督が調べられたファイルを開き、中の書類を見ながら話す。

「俊足堅守、おまけにミート力もあると来た」同じポジションの本田は苦笑いをしている。

「……楽勝。つぎ」

黒鉄はすぐさま言い切った。

「おい黒鉄……」

「……盗塁のタイミングなんか考えたってわからねえって。迫田の肩じゃどっちみちあいつは刺せない。それに、出塁させなきゃ怖くない」

黒鉄の自信満々の言葉に、周りも黙る。監督は続けた。

「まあいい。次は2番セカンド、今宮陽兵」

「……こいつが1番うぜえ。セーフティから普通に安打までこなしやがる。田中が出ようが出まいが、こいつが十分起爆剤になりうるもんな」

同じポジションの斑鳩が面倒くさいと言った表情で呟く。

「基本こいつはバント封じ&内野安打封じの前進守備で良い。外野手も浅めに守って。長打は無い」

乾監督はこう分析し、次へと話を進める。

「次の3番センター山口寿だが……」

「安打力は問題だが、パワーに優れているわけじゃないから打ち上げさせればフライに倒せる。黒鉄のノビあるストレートで力押しでも問題ないと思うぞ」と、センター四方は黒鉄に言いかけた。

「同意。次」

乾監督は、黒鉄の強気の態度に呆れつつ、次へと進める。

「次は4番サード大滝真司。あの大滝進一の弟だ」

「同じだと思ったらダメですよ! こいつは兄と違って安打力はありませんが、ガンガン長打を狙ってきます!」

同じサードの島田瑛太しまだ えいたが慌てたように言う。

「変化球に強い印象がないですね。配球混ぜていけば最初の数打席は抑えられるでしょう。それに、黒鉄さん、新しい変化球覚えたし」

キャッチャーの迫田茂さこた しげるの言葉に、全員が同意した。

「5番ファースト伊奈聖也……こいつはどうだ?」

「……肩も強くて守備も巧い。一塁手にしておくのがもったいないな」

同じファーストの地村洋が呟く。

「(地村がそこまで言うのか……)最近当たり悪いし、大滝を抑えれば怖い相手じゃないっしょ」

黒鉄の言葉に監督も頷く。

「次は金条春利。6番キャッチャー……打撃もそれなりに技術があるし……リードも巧い」

「……これまではその慎重リードと攻めのリードの混合スタイルで、福富戦や初巾戦では活躍していましたが、ウチにはそんな小手先リード通用しませんよ」

同じキャッチャーの迫田は明らかに声色を上げ、強調した口で話し始めた。

「……迫田」

地村が呟いた。

「……えっ」

「その甘い考えは捨てろ」

「……はい」

地村に諭され、迫田は黙った。

「とりあえず、守備面での警戒は必要だな。静ちゃんとの相性抜群っぽいし」

黒鉄が締め、次に進むよう監督を促した。

「……次は7番ライト小林」

「チャンスでは打ちますけど、前でランナー溜まってなかったら大丈夫だと思いますよ」

同じライトの3番打者、木口諒真きぐち りょうまが言う言葉に、監督も頷く。

「次は8番レフト佐々木」

「レフトライトの肩の強さはウチ以上でしょ正直。長打後のバックホームには警戒が必要だと思いますよ」

5番レフトの泉中水樹いずみなか みずき。木口と同様一年生にしてクリーンナップを担う選手だ。

「打席に関しちゃあやっぱ迫田や島田レベルだな。近頃直球に強くなってきた印象あるし、一応警戒っと」

黒鉄は書類を見て呟く。

「最後に、4人の投手について調べようか」

乾監督が呟く。

「……まずは新田。クロ高投手の白銀世代でエースナンバーを背負う男。変化球は、スライダー、カーブ、シュート、ナックル、ツーシーム。いずれも凄まじいキレがある。あと地味に警戒したいのは、エリアの隅に投げ分けられる精密コントロール。ボール球だと思って見逃すのは危険だし、追い込まれたらバットを短く持ってカットしろ」

「静ちゃんは打たれ弱いよ。スタミナも、よほど調子が良くないと9回投げ抜けないよ」

黒鉄がそう言った。

「まあでも、打順一周目は、打てないもんだと思ったほうがいいよ。打てたらラッキーぐらいで。目が慣れてくると、意外と打てる。曲がりすぎるってこと意識していればね」

「黒鉄さんは自信満々ですね」

リリーフの宮城が呟いた。

「……臨、中学の時は俺が先発で、あいつがリリーフ。今同じ高校に入っていたとしてもその力関係は変わっていない」

「(全く……黒鉄のこの自信は中学の実績から来るのか、それともなんだろうか)よし、次行こう」

続いて紹介したのは、鷹戸遥斗。

「ジャイロボール使いの直球派。フォーシームとツーシームは重いけど打てない球じゃない。問題は時折混ぜてくるポップ&ダウンのジャイロボール。この見分けが難しい」

「回転が変わるし、黒鉄さんに比べればスピード遅いから、黒鉄さんを毎日バッティングピッチャーにしている俺たちからしたら脅威じゃないでしょ」

木口が呟く。

「でもこいつスプリット使ってくるぞ」

サードの島田が書類を見ながら呟いた。

「これもジャイロ回転していないときだけ気をつければいいでしょ」

「……簡単に言うなよ斑鳩ァ……」

島田は斑鳩の言葉に、呆れた様子を見せていた。

「次は伊東。こいつはストレート主体だが、フォークの使いどころが巧い。まあ、金条のリードあってのモノだろうな」

「……低めのコントロールは良くはないし、捨てていい。高めのフォークでカウントを取ることもあるから、それにさえ気をつければ大丈夫でしょ」

黒鉄の言葉に頷く監督。

「よし、じゃあ最後……」

「レイか……」

宮城が呟いた。


 「へっくし!」

室内練習場でくしゃみを響かせる古堂。閑谷が笑いながら寄ってきた。

「どーした? バカは風邪ひかねえんじゃないの?」

「……さーせん! でも、ストレート、だいぶ良くなりましたよ!!」

「じゃあ見せてもらおうじゃねえか」

自信満々の古堂に、閑谷は笑う。金条を呼び、擬似的に作らせたホームベースに座らせる。

「さあ、投げろコドー」

閑谷の言葉に、古堂は笑って頷く。

「じゃあ、行きますよ!」

渾身のストレートを……投げた――――

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