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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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58/408

第58話「決戦へ」

 肩から45度の位置に伸びる腕――スリークォーターのフォームから放たれた古堂の直球。

「!」

腰の捻りと肩の動きを水平に連動させ、その鍛えられた下半身の筋力を、様々な関節を通してダイレクトに、指先一点に伝える。

(リラックス! そして、全神経を指先1点に集中!)

柔らかく、強靭な古堂の肩のしなりが、スムーズな腕の動きを生み出し、全身の筋力から生み出されたパワーを、その肉刺マメだらけの指先1点に伝え込んだ。

(ぬん!)

放たれた直球はマウンドの土を蹴る音と共に、縫い目が空気を切り裂いていき、金条の構えたミット――よりも少し高くずれたところにまっすぐ飛んでいく。

「うおっ!?」

重い音を立てた金条のキャッチャーミット。伊東が少し遠くで構えていた球速計スピードガンを持ってきた。

「閑谷さん、これ……」

伊東が見せた画面に、閑谷も驚愕の表情を見せた。

「やべえ……想定外だぜ。たった一日で……3km/hもアップさせるなんてよ」

その表示は……142km/h。一昨日の試合で見せた古堂の最速値139km/hを3km/h分上回る記録だ。

「ど、どれだけでした!?」

手応えあったのか、古堂は嬉しそうに駆け寄ってきた。

「すげえぞお前(俺たちは一応、黄金世代と呼ばれてきたが――ここまで綺麗に吸収したやつは初めて見た……。こいつは、上手く成長すればいずれ――)」

閑谷は、その球速計の画面を古堂に見せる。

「っし! 念願の140超! ありがとうございます! 伊東さんもあざす! 金条も! よっしゃあ! この調子でカットボールもしっかりモノにすんぞ!!」

閑谷に褒められ、有頂天にある古堂。両肩をぶん回しながらもう一度マウンドに戻るのだった。

(右肩は使わんだろお前……)




 鉄日高校ナインと乾監督は、クロ高選手をまとめた書類に目を通していた。最後のページの背番号18番。古堂黎樹のページを見ている。

「初登板の秋江工業戦は――9回ツーアウトから13回まで、2失点9安打9奪三振」

「それってすごいのか?」と黒鉄。

「大坂大磨を三振にしているってのはすげえよな」と四方。

「たまたまでしょ?」と斑鳩。

「次は……初巾戦。6回1アウトから9回まで。無失点3安打8奪三振」

「おお……これはすげえな」

黒鉄は呟く。

「レイモンドを三振に取れたピッチャーは結局なしか……でもアウトにしたのはすげえよな」

「白里一哉さんみたいな万能型は案外打ちやすいのかも。四方さんとかみたいに」

「ほお」

宮城の言葉に、四方は笑う。

「直球140km/hは超えないが、鷹戸の後に登板していることが多く、球速差もあって初打席はみんなやられている印象だな。外に逃げるシュート、球速差で勢いの無いスローカーブを巧みに使ってくるし、一年生投手の中で見れば、実力は高いと思われる」

(たまたまじゃねえのかよ)

監督の言葉に、黒鉄は不満を顔に表した。

「このスローカーブ、ちょっと変化早くないですか?」

テレビ中継された部分をスロー再生する迫田。

「元々スローカーブは変化早めだけどな。こいつの場合、サウスポーカーブ混じってるってヨー言ってなかったけ?」

「……言った」

斑鳩の言葉に、地村も頷く。

「なるほど、どうりでタイミングが合わせづらいわけだ。しかし、よく見えたな地村」

乾監督はにやにや笑っている。

「……」

無表情のまま、地村は無言で資料に目を落とした。

「軟投派の新田、速球派の伊東、ジャイロボーラー鷹戸、最後に構える抑えの本格派古堂。投手大国だなクロ高。そのわりに打撃も繋ぐバッティングで確実に点をとってきやがるし、ハマるとハッ高戦の8回みたいな連続得点だってありうる。黒鉄に限ってそれはないと思うが、溺れるなよ」

「うっす」

乾監督の言葉に、黒鉄は軽く返事をした。絶大な信頼が置かれているのだろう、乾監督もそれ以上は何も言わない。

「んじゃ練習再開。時間予想以上に使っちまったし、今宮用前進守備シフトと、大滝用深めシフト、対新田、鷹戸対策だけでも抜かりなく、徹底的にやれよ!」

「はい!」

鉄日高校の選手たちは散らばり、各々で練習を再開した。

(絹田監督は……うちの対策どうしているんだろうな?)

乾監督は空を見上げた。


 三日後、決勝戦まで残り3日となった金曜日の朝練習。

「うっし、試合は日曜日。一昨日ぐらいから始めてるけど、そろそろ徹底的に鉄日対策の実践メニューに入っていくぞ」

キャプテンの今宮がミーティングで選手全員に叫ぶ。

「んで、明日は泊まり掛けで北地区の球場に移動になるから、準備忘れないこと」

「はい!」

古堂が元気に返事をした。

「ん、じゃあ元気のいいコドー、決勝戦の抱負、述べてもらおうじゃねえか」

「え?」

今宮がにやにや笑っている。明らかなむちゃぶりだ。

「ごほん。ええっとですね……もう俺たちは、北信越大会への進出を決めたわけですが、私が尊敬する閑谷先輩はおっしゃっていました。『鉄日高校に圧勝して、全国で勝てるイメージを作って欲しい』と……。まさにそのとおり! それに、俺には絶対に成し遂げなければならない目標がある! それは……」

「それは……?」

周囲から寄せられる期待の目。古堂はここぞとばかりに叫んだ。

「県大会を優勝して、有名人になりたいっ!」

「アホか」

今宮が古堂の後頭部を手の甲でそこそこきつめに叩く。後頭部を抑えてうずくまる古堂をよそに、今宮は続けた。

「でも、閑谷さんの言葉通り、俺たちは北信越大会に出られるから、北信越大会で2位以内に入れば、鉄日に負けたって全国にいけなくなるわけじゃない。でも――俺は、黒鉄から打ってやりてえ」

思い出す屈辱。三浜高校との練習試合の後の黒鉄の言葉。

「クロ高は弱くねえ! 全員の力を合わせて、絶対に勝つ!」

「うおおお!!」

今宮の隣で1番叫んでいる古堂。また今宮に後頭部を手の甲で叩かれる。

「いてえっす今宮先輩!」

「俺の鼓膜の方がいてえわ。っとまあ練習開始! まずはティーバッティング30回2セット! 空振りペナルティプラス1で! 投手も捕手もだ!」

「組もうぜ伊奈」

伊奈に話しかける大滝。

「わりぃー俺金条とするわ。返田もコドーとするらしいし、新田さんが監督さんに呼ばれたから、伊東さんと鷹戸がペア組むし、お前ペア余っちゃうんじゃね?」

「え……」

「そんな大滝に悪いって」

金条の口を強引に抑えた伊奈。

「じゃあな……あっ、小泉ちゃんがやってくれるんじゃね?」

伊奈は金条を強引に連れて去ってしまった。


 少し離れていたところからこのミーティングを見ていたマネージャーの小泉彩。副顧問の先生と話している。

「……すごいですよねみんな。あんなに身体に鞭打って練習して、神経磨り減るような試合を何度も経て――それでもこうして誰も弱音を吐かず、前向きに練習に取り組むなんて」

「そうだね。僕も三年前からこの高校の野球部の副顧問をやらせてもらっているけど、三年前からこんな感じさ。そうだね絹田監督が赴任されたのも、確か8年前――もしかしたらそれよりももっと前からこんな雰囲気だったのかもしれない」

「私も、少しでも見習いたい……少しでも力になりたい……そう思います」

「……君がそうやって、彼らのことを理解してくれるだけで、十分彼らの力になっていると思うよ」

グラウンドに散らばる選手たち。自然と視線が様々な選手に移っていく。たまたま目に入る大滝真司の姿。小泉と目が合う大滝。

「あっ……小泉さん!」

大滝が話しかけた。

「ん? どうしたの?」

「……トスバッティング、ボールトスしてくれない? 今日キャッチャーも練習一緒でさ、伊奈が金条と組んじゃったんだよ」

「ああ、うんいいよ!」

「サンキュー」

大滝が笑顔を小泉に向けた。小泉も少し視線を落として、走る彼についていく。

(ユニフォームもシューズもすごく汚れてるな……頑張ってるのすごく伝わる……)



 「どういう風の吹き回しだ伊奈!」

「うるせー金条! お前頭はいいくせにこういうこと察するの苦手だよな!」

「むっ!」

むっとした金条は、二個同時にボールをトスした。一個は平然と打ち返す伊奈だったが、もう一つは空振りしてしまう。

「はい空振りペナルティでもう一回ついかー」

「ヤロウ……やるじゃねえか……」

「おい伊奈!」

割と近くから叫び声がする。古堂の声だ。

「それだったら俺が小泉ちゃんとやりたかったし!」

「……こいつはマジで包み隠すってことを知らねえな……」

「だよな……」

伊奈も金条も苦笑いしている。

「まあ確かに、何が楽しくて汗臭い野郎二人でこんな近づいてトスバッチなんかしてるんだか……」

伊奈の言葉を金条が制する。

「鉄日に勝つんだろ。有名になるんだろ……そしたら両手に華なんて大したことじゃなくなるんじゃない?」

「金条……お前良い事言うじゃん。そうだよな……打点挙げたらせめて校内ではさすがに名も知れるよな?」

「吹奏楽部もチア部も応援に来るらしいし、ありえるんじゃない?」

「それは素晴らしい」

こうして、高いモチベーションのまま、クロ高ナインは、学校で過ごす決勝戦までの最後の一日を過ごした。


 土曜は、近くのグラウンドを借りて実践練習を行い、鉄日高校のあらゆる出方に対応した守備、攻撃を想定した練習を行った。


 そして、迎える試合当日――球場には多くの観客が詰め寄り、県内の野球好きは元より、鉄日高校、黒光高校両校の野球部、吹奏楽部、チアリーディング部等、応援にかけつけた者たちが揃う。球場の天気は雲ひとつ無い快晴。日光が何にも阻まれることなく照りつけている。気温は22度。秋の過ごしやすい気候である。

「……いいか。この決勝戦、お前たちはできる限りのことをしてきた。夏、お前らの先輩が鉄日に勝ち、甲子園に出場した。お前たちならその後を追えると信じているぞ」

「はい!」

絹田監督の言葉に選手全員――スタメンからベンチ入りの者まで、全員が叫ぶクロ高控え室。

「新田――強打者との対戦を、全身全霊で楽しんでこい」

「はい……」

先発は新田。今回は鷹戸も不満そうではない。

「よし、俺たちは後攻。まずは全力で守備をしろ。何事も、目の前のことに全力を注げ。それができるような練習を、お前たちは積んできたはずだ」

最後の言葉をかけ、絹田監督は選手たちを控え室から出るよう促した。ベンチまでの暗い通路を通り抜け、全員が球場に顔を出した。青空が澄んでいる。

「っしゃ行くぞ!」

「うおっしゃ!」

今宮の言葉に全員が応え、一気に走り出した。同時に出てくるテッ高ナイン。


 今、決勝戦の火蓋が切られた。

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