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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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55/408

第55話「最後まで」

 ラストバッターになりたくない。そう思った権田はバットを全力で振り抜いた――そんなフルスイング。打球がしっかりとミートし、打球が外野にまっすぐ飛んでいった。そんな9回裏ツーアウト、ランナー1塁の状況。5-4と1点差を追う立場のハッ高。ここでアウトになれば敗北決定だ。逆にクロ高は、ここを凌げないと、再びレイモンドら強力なバッターとの勝負をしなければならない。それが怖いため、何としてでもここでカタをつけなければならない。

(同点にはなるんじゃねえぞ!)

新田がベンチから強く打球を見つめている。古堂は慌てた様子だ。もし、打球がスタンドに入っていればホームランで逆転負け――。しかし、今回は打球が浅い。ホームランは無いが、守備よりも手前に落下点がある。遠慮なく全力疾走する白里一哉。二塁ベースを蹴った。

(うっ!?)

打球を追う佐々木の足に異変が起きた。急に来た激痛。

(つ、ったっ!?)

目の前で打球を落としてしまう佐々木。無理もない。この二日連続の連戦、ずっとレギュラーで出場している。外野に運ばれるヒットも多く、その度に外野を走り回っていた佐々木。一年生ということもあり、体力も他にずっと劣る。

「佐々木!?」

山口が叫ぶ。しかし、ワンバウンドで跳ねた打球は意地でも背後に回さなかった佐々木。

(最後まで……気を抜かない。俺にできることを……最後までやりつくす!)

佐々木は、その右肩を振るって、レーザービームを投げた。三塁ベースに滑り込む白里一哉。サード大滝が捕球。タッチにするが……

「セーフ!」

頭から滑り込んだ気迫ある白里一哉のワンプレイが、三塁審判の判定を決めた。

「っしゃ!」

短く叫んだ白里一哉。ここぞという場面で頼れるキャプテンである。


 (カズ……)

続くバッターの阿佐間庄司もしっかりと彼のプレイを目に焼き付けていた。

「俺だって、最後まで諦めないぞ」

大きく息を吐きなおす古堂。金条がタイムを取り、彼のもとに駆け寄る。

「……大丈夫かコドー」

「金条、あの阿佐間さんってどんなバッター?」

「……柏木よりは打てる。でもやっぱりバッティングが苦手なタイプの投手だ。コースへの投げ分けを徹底すれば討ち取れるさ」

古堂の言葉を聞き、思ったよりも大丈夫そうだ、と笑った金条。ホームに引き返していく。


 金条は初球、外角低めにストレートを要求する。

「っし!」

古堂の全力のストレートが、阿佐間のバットを振らせすらしない。

「ひゃ……139km/h……一年生古堂、彼自身の最速更新!」

実況が叫んだ。

(こ、古堂のやつ……元々尻上がりに調子を上げるやつだとは知っていたが、まさかここまでとは……)

金条も、そのストレートを捕球しながら慄いている。

(じゃあ、2球目。スローカーブ頼む。内角ギリギリに入り込むやつで)

古堂はスローカーブを投げた。先ほど最速を出したばかり……ここで球速の無いスローカーブを投げるのは有効だ。

(来た! 変化がかかるのが早い独自のカーブ! しっかり見れば、打ち返せる!)

打ち返した阿佐間。引っ張った打球は三塁線を強く跳ね、ギリギリのところでファウルとなる。

(あ……あぶねえ)

古堂は息をつまらせた。大滝も息を呑み、阿佐間を見直した。

(しっかりと見て打ってきている。気をつけろよ古堂)


 金条は3球目、外にギリギリ外れるシュートを要求した。

(仕留めよう。お前のキレなら万が一当たっても飛びやしない)

金条のサインに頷き、古堂は3球目を投げた。


 「……」

阿佐間はポーカーフェイスのまま、打球を打ち返した。次は一塁線方向に飛んでいく。

一塁線はギリギリ切れていかない。フェアボール。しかし――

「っ!」

深めに守っていた伊奈が打球に飛びついた。ファウルグラウンド上を転がる伊奈。

「コドー! ベースカバー!!」

阿佐間は走っている。伊奈の言葉にはっとした古堂。

(そうだ……!)

古堂も一塁ベースに向かって全力疾走する。伊奈はしっかりと立ち上がり、古堂に送球した。

「っし!」

捕球した古堂。阿佐間と並ぶ。

(スライディングすればワンチャン……)

(俺は……俺にできることを!)

滑り込む阿佐間。一塁ベースの際、同時に滑り込む古堂。

「え!?」

全員が目を疑った。なんと、先に古堂が一塁ベースに滑り込んだのである。

「あ、アウト!」

「っし、っしゃあ!!」

伊奈がまず叫んで古堂に駆け寄った。

「……うおおおお!!」

古堂も同様に叫ぶ。

「勝ったぁあ!」

ショート田中がサード大滝のもとに駆け寄る。

「やりましたね!」

クロ高全体が叫び、沸き立った。観客も、最後の守備のファインプレーに、古堂の全力のスライディング、最終回で作った多くの見せ場を話題にしていた。



 「くっ……」

阿佐間がにわかに悔しそうな表情を見せた。ネクストバッターのところに立っていた白里虎次郎も、ホームベースの近くまで走ってきていた白里一哉も、二塁ベース上にいた権田良介も悔しそうな表情を見せた。


 ベンチでも……黙ってただ青空を見つめる根古屋監督。

「監督……すいません」

ベンチで俯きながら呟いた柏木。8回まで粘って4失点もしたのだ。

「なぜ謝る」

「……でも俺、あんなに自信満々で」

「自信を持つことを俺がいつ悪いと言った?」

「それなのに……ナックル攻略されて4失点もされて……それでも俺なにもできなくて……」

「……気にすんな。俺だって何もできなかったさ。ナックルが攻略されたらどうしようもないのが今のお前。俺も同じく。クニヤ……整列だ」

「行くぞ」

レイモンドが柏木の肩を叩く。とぼとぼと歩く全員を見つめ、根古屋監督は悔しそうに目をつぶった。

(8回……俺がホームランを打っていれば……)悔しそうなレイモンド。5番の白里一哉が当たっていただけに、悔しさも一入だ。

大槻も、山田も、錨も瀬田も……自身を責め立てる。

「……お前らが悔しいと思うのは、最後までお前らが全力で自分にできることをしようとしたからだ」

根古屋監督は青空を見上げながら呟いた。


 黒光高校 5-4 初巾高校。クロ高が、準決勝を制した。決勝進出、そして……北信越大会への出場を、確定させた。




 「強い……クロ高、強い」

江戸川が反復させて呟いた。

「……だなあ」

大坂も呟いた。後藤は俯いて球場を去っていく。高月は面倒くさそうな表情をしながら彼についていく。



 「うおお……最後の一年生ピッチャー、よく滑ろうと思ったよな」

TVでの中継を見ていたのは、クロ高が二回戦で戦った鶴高校の白銀世代、猿渡紋太である。

「……やっぱり、化物ぞろいだよ。この高校野球は」

エースで4番を務めていた平田恒太も、目の焦点をろくに合わせずに呟いた。テレビのモニターには、記者からのインタビューに答えるクロ高のキャプテン、今宮陽兵。

『8回のタイムリー、また今回の勝利について、一言』

『やっぱり、全員が最後まで、自分にできることを、自分たちで考えながらできたっていうのが大きいと思います。初巾高校の先発、柏木くんのナックルボールは強力でしたが、しっかりと準備して、試合中でも諦めずに攻略の糸口を考えながら打つことができた……これは決勝にもつなぐことできる、大きな自信となるはずです』

「……今宮しっかりしてんなあ……」

猿渡はバナナを貪りながらつぶやくのだった。


 「絹田監督、勝因について一言」

「……キャプテンの今宮が言ってくれたそのとおりです。私からは何も言うことはありません。選手たち自身が掴んだ勝利。この自信を、決勝戦、引いては鉄日高校との試合、そしてまた北信越大会にも繋げていってほしいと思います」

絹田監督は、嬉しそうに言うのだった。




 翌朝、新田静のもとに入る一通のメッセージ。

「朝からうるせえな……」

久しぶりに朝練が無いので、ゆっくりと寝ていたかった新田。連戦の疲れは間違いなく残っている。

「……黒鉄」

メッセージの送り主は黒鉄大哉。

『やっほー! 久しぶりのオフ~。静ちゃん昨日投げなくて良かったねえ。一年生たちに感謝だねえ』

「……腹立つわ」

呟く新田。隣でがさっと音がする。音の方向を見ると、伊奈が体を起こしていた。

「……どうしたんすか新田先輩」

彼はその言葉のまま部屋の外へ出ていく。

「あれ、どこ行くの伊奈」

「あ、ランニングついでに、コンビニまで新聞買いに……」

にやりとする伊奈を見て、新田もその目的を察する。




 学校にて、古堂と林里、伊奈の三人が騒いでいる。

「ぬわんだとコラー!!」

「ふざけやがって!!」

「俺のあのピッチングを一切記事にしないだとー!?」

新聞を見て騒いでいたことを容易に察した大滝。話しかける。

「どうしたんだお前ら?」

「真司! 見ろこれ!」

古堂が大滝に見せてきたのは、今日の朝刊のスポーツ欄。

「あっ、黒鉄さん……」

そして、一瞬で察した大滝。記事には、一面を飾る黒鉄大哉の投球姿。隣に小さく描かれている、大滝がホームランを打った瞬間の小さな写真。

「腹立つわぁああああ!!」

叫ぶ古堂。苦笑いする大滝。

「だったら。勝つしかないだろ? 勝てば俺たち全員が一面に載れるかもしれないぜ?」

彼の言葉に、三馬鹿たちは叫んだ。

「打倒黒鉄! 打倒鉄日! 目指せ県一位! 目指せ有名人!」

「ふははははは」

大笑いする古堂。クラスメイトたちは、引き気味に笑うのだった。

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