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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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50/408

第50話「柏木邦也」

 6回表、打順が一巡するクロ高。0-3というロースコアゲームとなっているのは、黒光高校VS初巾高校。先頭打者の田中。

(そろそろ攻略しねえと、鷹戸も頑張っていることだしな)

初球のナックルを見逃す。低めギリギリに入ってストライクだ。

(厄介な野郎だぜ全くよお)

2球目のナックルはど真ん中に入ってきたが空振りしてしまう。

(ギリギリまで引きつけて流し打ち……とも行かなさそうなんだよなあ)

一塁手の白里一哉は守備も巧い。セカンドの山田もなかなかだ。

(敢えて踏み込んでみるか)

揺れる魔球は、制球が難しい。ベースに大きく被さって構えれば、それだけで十分脅威になる。プレッシャーになる。

(あれ? これ意外といい手なんじゃね?)

2球連続でボールを出してしまう柏木。

(……クニヤ、カーブ投げよう)

虎次郎が珍しく柏木に指示を出す。しかし、柏木は首を振る。

(あれ? もしかしてナックル以外のサインだしたのか?)

田中は柏木の表情を見て目を細める。

(……俺には……ナックルしかねえんだよ)

柏木の目から伝わる強い視線。虎次郎も渋々頷いて構えた。

(そうだよな。お前は……それで強くなるって決めたもんな)


 柏木が投げた5球目……甘いところに入ったナックル。田中はそれをしっかりと引きつけて、打ち返した。

「だりゃッ!!」

少しつまらせた。しかし、ファースト白里一哉の頭上をにわかに越えていく打球。ライト瀬田が走って打球に追いつこうとするが、グラウンドの芝の上に落ちた。

「っしゃあ!」

田中が一塁ベースまで走り抜き、土に向かって叫んだ。

(……ナックルボール。攻略できるッ!!)

今宮も、田中の安打を見て確信した。

(柏木のボールは軽い。当たれば飛ぶ。鋭い打球も出せる。引きつけて打っていこう)


 柏木の初球のナックル。今宮がしっかりと打ち返し、打球はピッチャー返しとなる。

(ふざけんなっつの! どいつもこいつも白銀世代ってのはよ!!)

ショート錨真紀が打球をしっかりと掴んだ。

「だりゃあ!!」

ショート錨からセカンド山田へと送球。しかし、田中のスライディングの方が一歩早くセーフとなる。

(ファーストだけでも潰す!)

セカンド山田の送球を、ファースト白里一哉が身を乗り出して捕球した。

「アウト!!」

間一髪、間に合わなかった今宮。

(くっ……まあ進塁打にできただけマシか……)

「危なかったけど、ゲッツーにならないだけさすが白銀世代の田中だな」

山田が汗をぬぐいながら呟いた。


 柏木は大きく息を吐いた。本日初の得点圏のランナーに、クロ高は俄然盛り上がる。

(うざってェ……でも俺は……ナックル一本でやってきたんだ。やってやるぞ)


三番打者山口が三振に倒れる。思わず叫んでしまう柏木。キャッチャー虎次郎も同様に叫んでいた。

(強くなったじゃねえかクニヤ……)

根古屋監督もにやりと笑う。




 柏木邦也15歳の時、鉄日高校に進学するつもりでいた。彼は硬式野球のシニアチーム、鉄松シニアという、県内準優勝チームに所属していた。しかし、既に有名になっていた黄金世代と白銀世代の前に、カーブしか投げることのできなかった柏木など、一切注目されることもなかった。そんなとき、とある監督が彼に声をかけたのだった。

――――紛れもなく、初巾高校の監督、根古屋栄だ。

「俺がお前を、白銀世代超えの選手にしてやるよ」


この言葉をきっかけに初巾高校に進学した柏木。南地区に住んでいた彼にとって、北地区にある初巾高校は遠く、必然的に寮生活を強いられた。精神的に疲れた。

 毎日の練習は強豪校というだけあってかなりハード。甲子園などここ数年逃しているのにどうしてこんなに辛いのか理解ができなかった。肉体的にも疲れていた。何をどうすればいいかもわからず、ただひたすらに目の前に練習についていくだけしかできなかった。


 二年生の白里一哉、レイモンド=アルバード、大槻吉秀といった白銀世代の県内に名を轟かせるバッターも多く、カーブ一本では戦えないことを悟った。

「……クニヤぁ……俺が何でお前を初巾高校に入れたかわかるかよ?」

突然の根古屋監督からの言葉に、柏木は困惑した。何故だかわからなかった。ただひたすらに練習についていっただけの自分に、何ができるのか――。

「お前の肘と肩の柔らかさは、ある変化球を投げるのに向いているんだ。何かわかるか?」

そう、これが……柏木邦也がナックルを覚えるきっかけとなったのだ。

「お前ぁ……黄金世代や白銀世代ですら弱音上げた練習にしっかりついて来ているんだからよ。もっと自分に自信持ちやがれ。なぁに、暗黒世代だからって萎縮するな。お前にはお前の才能がある」


 これが、柏木邦也高校一年生の春だった。そこから、彼は二軍での練習試合で良い結果を積んでいき、ナックルを、そして自信を、自分のものにした。

(俺は……ナックル一辺倒だと言われようが、これが俺の才能なんだよ……! 絶対に抑え抜いてやるよ!!)


 4番大滝の打席、3球連続ナックルを全てストライクゾーンに入れ、大滝を三振に抑えた。

「しゃあ!」

柏木は、自信満々に叫んだ。4番大滝を三振に切って取り、6回の守備を凌ぎ切ったのだ。


 「しっかり武器磨き上げてるじゃねえか……」

レイモンドが後ろからグラブで柏木の頭を叩く。

「レイモンドさん……」

柏木がにやりと笑った。

「自信過剰なのがタマにキズ

ぶっきらぼうに言い切ったレイモンドの言葉に、白里一哉も苦笑いしていた。


 6回裏、鷹戸遥斗は、先頭打者大槻吉秀を三振に切ってとった。

(大したことないな)

去っていく大槻、そして、打席にやってくるレイモンドを睨みつける鷹戸。

「その視線、強すぎるだろ……」

レイモンドは不敵に笑う。鷹戸は強く睨んでいる。

(初球低めにスプリット……慎重に攻めていこう)

ボールになる。空振りはさすがに安易にしてこない。

(さすが白銀世代の4番……大坂さんとか高月さんとはまた違った圧力)

2球目は外角高めに沈むジャイロボール。見逃してストライク。1ボール1ストライクになる。

(よし、カウント一つ取れたのはでかいぞ)

金条は続いて内角低めの外した所にフォーシーム。

「うっ!!」

レイモンドが打ち返すがファウルとなる。外野のスタンドに入っていく。

(軽々と外野に……やっぱパワーも十分にある)

金条は4球目、外角に外したフォーシームを要求。またしても慎重な攻めになる。

「出し惜しみはしないようだな。そして慎重だな」

「……」

金条はレイモンドに言われ、心の中を覗かれたような気がして萎縮してしまいそうになる。頭の中の悪いイメージが次々に台頭してくる。

(ダメだダメだ……鷹戸なら、こいつならやってくれるはずなんだ)

顔を小刻みに横に振ってそのイメージを払拭する金条。2ボール2ストライクと追い込んで入る。

(あと1ボール、有効に使おう。高めにつったジャイロボール。最後にツーシームジャイロの球速差で倒す!)

ノビのあるジャイロボールを高めに外す。しっかりと見て見逃すレイモンド。

(……フルカウント。ラストはツーシームジャイロボールだ!)

鷹戸は頷いて投げた。ツーシームの握りに、ジャイロ回転を足したボール。縫い目が進行方向に向かって回転し、空気抵抗が生まれる。一気に手元で失速したボール。チェンジアップのように球速差を使って――レイモンドを倒す。



 ――――とは行かなかった。レイモンドはしっかりとタイミングを合わせ、本塁打を放った。

「出ましたハッ高の主砲、レイモンド=アルバードのソロホームランッ!! 4点目を入れ、クロ高をさらに突き放していきますッ!!」

(う……マジかよ)

金条は立ち上がる。ソロホームランだったことが不幸中の幸いだったが、鷹戸の様子も少しおかしい。

(ここで鷹戸が下がるとなると……古堂しかいないぞ?)

続くバッターは白里一哉。彼もパワーヒッター。油断すれば追加点を入れられかねない。


 (鷹戸……ここをお前に凌げるか?)

金条が立ち上がってタイムを取ろうとしたそのとき、主審からタイムの声がかかった。タイムをとったのは絹田監督。同時にかかる、ウグイス嬢の声。

『選手の交代をお知らせします。11番ピッチャー、鷹戸くんにかわりまして、18番ピッチャー、古堂くん』

鷹戸も、金条も、今宮ら内野陣も、スタンドで応援していた者たちも全員が驚いていた。


 「ランナーいないとは言え、レイモンドら白銀世代以外からロクに打たれていない鷹戸を替えてコドーを出すのか?」

試合を見ていた江戸川と大坂の二人。今日はもっと大所帯だ。

「ふん……所詮一年にハッ高打線は止められないぜ」

ふんぞり返って座っている高月広嗣。福富商業のエースだ。

「……一年舐めてると痛い目みるぞ。マジで……ハッ高やクロ高は特にな」

腕を組んで険しい顔をしているのは後藤陸。福富商業のキャッチャーだ。

「あっ、金に近い男高月と、ささやき戦術のキャッチャー、後藤だ」

大坂が無邪気に指を刺す。江戸川が制する。

(やっぱ……負けたとは言えど、この試合気になるんだな……)

江戸川がまじまじと見つめている。そんな彼に大坂が話しかける。

「古堂黎樹は強いぞ。この観客が思っているよりもずっと……な?」

「……そうやって自分が三振取られた選手の評価上げて自分の評価相対的に上げようとするのやめろ」


 マウンドに立つ古堂黎樹。鷹戸はその場所を譲ろうとしない。

「鷹戸……」

「……」

「交代だ鷹戸……」

今宮らが声をかけても動こうとしない。古堂がしびれを切らして呟いた。

「……お前だけじゃないんだよ」

古堂の言葉に、はっとその鋭い目を見開く鷹戸。

「クロ高のピッチャーはお前だけじゃないんだよ!! 俺にも目立たせろチクショウ!!」

球場全体に響き渡る声で叫んだ古堂。

「……次は、俺の番だ」

古堂は鷹戸からボールをふんだくると、打席に向かう白里一哉を見据えた。

「……見てろよ白銀世代、暗黒世代なめんじゃねえぞ!!」

また球場全体に響き渡る声を出した。鷹戸は鼻で笑うと、少々諦めた様子でベンチへと戻っていった。

「よしっ、初球厳しく行こう。10km近く直球差あるし、球速差でも十分戦えるはずだから落ち着いて。何より、楽しんでいこう」

「おう!」

金条のアドバイスに、古堂も笑って答えた。

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