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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
49/405

第49話「反対側」

 クロ高VSハッ高が、白熱した戦いを見せる最中、別の球場では三浜高校VS鉄日高校の戦いが繰り広げられていた。

「先発の宮城臨……未だ無失点で6回表を投げ抜きました。0-6、鉄日高校6点リードです」


 三浜高校の白銀世代は、4番打者の坂東剛治郎と、三番打者の三島竜太みしま りゅうたのみだ。先発の柴川辰也は、県内でも屈指の左投手ではあるが、白銀世代には数えられていない。

「……辰也、まだ行けるか?」

「ああ」

坂東に声をかけられ、柴川は頷く。シュートとカーブだけでベスト4まで上り詰めたのだ。相手が鉄日だと言えども一歩も引く気にはならない。

「見てろよ……テッ高」


 打順は6番打者から。彼の名前は斑鳩瞬いかるが しゅん。元は京都府のシニアチームに所属していたが、福井県の強豪校、鉄日高校に呼ばれた男だ。セカンドを守っている。


 柴川の初球、シュートを打ち返した斑鳩。打球は三遊間を転がる。

「っし!」

ショートが打球を拾うが、斑鳩は既に一塁ベースにいる。内野安打だ。

(しゅ、俊足だなあ……)

柴川は汗をぬぐってランナーを見た。7番サード、島田瑛太しまだ えいたをゴロに抑えるが、斑鳩に進塁されてしまう。

(下位打線はクロ高と同じくらいのレベルかな……?)

続く8番キャッチャー迫田茂さこた しげる、9番で投手の宮城を凡打に抑え、6回裏を凌ぎきる。


 7回表、クリーンナップから始まるこの回は、三浜高校にとって最後のチャンスであるといっても良い。

「黒鉄を出し惜しみしたこと後悔させてやるぜ」

打席に立つのは三番打者の三島竜太。宮城のカーブをいとも簡単に打ち返し、出塁する。

「宮城、気にするな……。どうせ白銀世代が相手だ。仕方がない」

セカンドの斑鳩が投手の宮城に声をかける。彼も頷き、次のバッターに切り替える。

「HAHAHA! ここで登場! 俺はBANDO! IZANA、お前をここで打ち崩す!!」

4番の坂東が大きな声で叫ぶ。宮城はその煩さに思わず耳をふさぐ。

(一年生だからって馬鹿にしているんだろ……白銀世代だからって調子に乗るんじゃねえ)

宮城がボールを――投げた。

(暗黒世代とはもう二度と呼ばせねえ!!)

初球チェンジアップ――少し高めに浮いていく。坂東はなんとも思っていない様子で初球をスタンドに叩き込んだ。

「うおおおお!!」

坂東はダイヤモンドを駆けながら叫ぶ。宮城は帽子を深くかぶると、大きく息を吐いた。



 しかし、彼はチェンジアップの失投から調子を崩し、結局もう一失点を浴びてしまった。

「7回、よく投げ抜いた。ラストは調整も兼ねて黒鉄だ」

乾健太郎いぬい けんたろう監督が宮城と黒鉄に声をかけた。

「うっす。アイシングしっかりしとけよ宮城」

「……はい」

7回を投げ、被安打は4。一年生投手、宮城臨の、高校野球初めての失点だった。



 8回表、鉄日高校の攻撃は1番バッター、センター四方和也よも かずやから始まる。彼も、滋賀県から来た県外推薦選手である。

「なあ、柴川ってそんなに打つの難しくなくね?」

「ヨモさぁん……いくらなんでも自信過剰すぎですよ」

四方が笑いながら打席に向かうのを見送るのは、三番打者の木口諒真。四方は平然とヒットを打つ。盗塁と、続く2番バッター本田清行ほんだ きよゆきによる送りバントで、1アウト三塁のチャンスを作り上げた。

「リョウちゃん、ここは打たなきゃヨーさんガチ切れするからねえ」

斑鳩がにやにやしながら木口に話しかけた。

「わかっていますよ」

三番ライト木口諒真。彼もまた、県外推薦選手。四方と同じ中学、同じシニア出身だった。

「うらっ!」

一年生に見合わぬ力強いスイング。センターの頭上を越えていく打球。三塁ベースにいた四方をホームに生還させ、自分も二塁に進む。

「おおっと! 一年木口のタイムリーツーベース!!」

「鉄日のほうが圧倒的ですねえ。まだ一回攻撃が残っているとは言え、三浜は苦しい戦いになっています」

柴川は瞳孔を開いて、流れる汗もそのままに立ち尽くしていた。

「続いてのバッターは、4番ファースト、地村洋ちむら よう。鉄日高校の主砲です。今日既に4打点。注目が集まります」



 (もう……嫌だッ!!)

柴川の投げたストレートを、地村は平然と打ち返した。スタンドに入る打球。とうとう3-9となった。

「再び6点差に戻したーっ!!」


 この試合を見ていたクロ高マネージャーの小泉彩。地村のホームランに絶句する。

(す、スタンドまで軽々運んじゃった……)

坂東とは対照的な、物静かな選手――それでも、バッターとしての実力は高い。


 8回裏が終了しても鳴り止まないスタンドの歓声。そう、この9回表、今大会初めて登板する選手が登場するからだ。

「きたっ!! 黒鉄だ!!」「俺はこいつを見たかった!!」「こいつを引きずり出すとは、三浜も大健闘じゃねえか!」

野球ファンたちは沸く。

「く、黒鉄……」「ついに出やがったかぁ……」

他の高校の選手たちは絶句する。

「きゃー!! 黒鉄くんよぉ!!」「こっち向いてー!!」

黄色い声援も飛ぶ。

(やっぱ……小豆くんあたり連れて来るべきだった……一人じゃ情報量多すぎて処理しきれない……)

小泉も黙り込む。――――薄い茶色の頭髪は、ナチュラルモヒカンのように自然な立ち具合を保っている。がっしりとした肩幅、筋骨隆々とした体つきなのに、その背の高さから細身に見える体躯。福井県内の白銀世代の中で『最強の投手』と呼ばれている鉄日高校の絶対的エース、黒鉄大哉が現れたことで、この球場の空気がガラリと変わった。


 「……んー、良いねえ。やっぱ」

黒鉄はマウンドの上で大きく息を吸い、大きく息を吐いた。

「さあ、行くよ」

黒鉄の言葉と共に、鉄日高校野手陣の表情がガラリと変わる。


 初球、ストレート。先頭打者をピッチャーフライで押さえ込む。

「……調子は良さげだな」

乾監督は腰を落としてベンチの隅へと移動した。

「宮城、あいつ良く見とけよ」

「はい……」

宮城も無言で黒鉄を見ている。2番打者も三振に抑えた。そして3番打者、三島をサード島田の捕球ミスで出塁させてしまうが、黒鉄は高笑いした。

「ははは! わりぃ瑛太。打たれちまったぜ」

「す、すまんわりぃ!!」

島田もすかさず謝る。

「いいってよ。俺だって、目の前のこいつと戦いたかったからよ」

黒鉄は、視線を前に向けた。目の先には、坂東剛治郎が立っている。

「ふははは!! 最強エースのDAIYA! お前と勝負がしたかったぜェ!!」

高笑いしているのは、坂東も同じだった。


 黒鉄は、肩をリラックスさせて、初球、ど真ん中にストレートを投げた。坂東は平然と打ち返す。

「うぐぉりゃあああ!」

大声と共に飛んでいく打球。しかし、浅く飛んだ打球は、センター四方のグラブの中にしっかりと収まった。

「アウト!!」

(DAIYA……届かなかったか……)



 結局、3-10という圧倒的な点差で鉄日高校が三浜高校を下した。今大会初登板した黒鉄大哉に注目が集まっていた。

「黒鉄くん、次に対戦する相手に一言」

記者に言われて、黒鉄はこう返した。

「……ハッ高だったら……柏木くん。コールドは覚悟しておけよ。あと、レイモンド、お前を最初に三振に抑えるのは俺だからな。……クロ高だったら……静、せいぜい頑張れよ」

「(こんなに相手選手を煽って良いのか?)ってことは、黒鉄くん、明日先発するってことですか?」

「そうですね。でなきゃ何のためにここまで温存してきたのかわかりませんし。まぁ楽しみにしていてくださいよ。夏の因縁は、絶対に返しますから」

黒鉄はカメラと記者に向かって、満面のさわやかな笑みを見せた。

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