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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
11.暗黒世代:秋大会
402/406

第402話「図太さ」

 5回表、秋江工業の攻撃は7番楠成から。下位打線相手に苦戦するものか、と柏木はストレートとカーブのみという強気のピッチングを見せ、三者凡退に抑えた。


「うーん……なかなか俺以外にナックル使ってくれないねェ」


 万賀が笑うと、「嫌みですか」と1年の8番レフト松野篤人まつの あつとが笑いかける。


「んなこたねえよ。使ってくれなきゃせっかく練習した意味がないだろ、って話よ」

「……まあ、そういう意味では使ってくれた方が嬉しいですよね」


 万賀の言葉に同調する遠藤九佑えんどう ここのすけ。彼も1年でありながら秋江工業の新戦力として数えられている。


「行けるか竜児くん」

「はい、もう反省は十二分にしました」


 頭を下げる峰。「よし」と万賀が答える。


「一旦ナミカちゃんのことは忘れろ。今日勝てばナミカちゃん憧れの鷹戸くん超えですよ、と」

「はい!!」


 5回裏、先頭は7番根古屋修司ねこや しゅうじ。初巾高校の監督を務める根古屋栄ねこや さかえの息子である。


(監督は柏木さんに謎に厳しい……まあ、期待する気持ちがあるんでしょうねきっと……)


 峰の低めに決まるストレートをしっかりと待って打ち返す。三遊間に切れるように打球がカーブしながら飛んでいく。


「おおッ、綺麗な流し打ち……」


 これには思わず打たれた万賀も驚く。続く8番瀬尾に送りバントされるも、9番柏木を三振に倒し、2アウト2塁となる。


(上位打線に繋いだ。錨さん頼みます)


 二塁ベース上で祈るように打席を見つめる根古屋。1番の錨は打席で背筋を伸ばした。


(さすがにそろそろ打たないとな……)


 初球、峰のストレートインハイに来た球を見逃す錨。万賀の構えている位置が変わっていないという情報から、峰がずっとど真ん中に投げ続けようとしている、というのはなんとなくわかっていた錨だったが、実際に打つとなると話は変わってくる。


(それに……ほんのりと暴れ球なんだよな。狙い球絞りにくいったらありゃしない)


 それでも、アウトコースに流れるようにシュート回転した一球を狙い撃つ錨。


(上手いッ!)


 ショート畑中が飛びつくが三遊間抜けていく打球。


「レフト詰めて来いっ!!」


 万賀の叫び声よりも早く、レフト松野は走ってきていた。三塁前、膨らんで走る根古屋は、サードランナーコーチと目を合わせた。


(行ける?)

「止まれ!!」


 レフト松野の前進守備により、ホームは狙えなかった根古屋。なんとか2番鈴木に繋ぐ錨。


(邦也の調子があんなのは、今に始まったことじゃねえ。とにかく、2回に万賀にホームラン打たれてなきゃ調子狂ってねえんだよ。というか、万賀以外にほとんど打たれてねえのになんでアイツはあんなに不機嫌なんだ? 一応まだ同点だっつの……)


 2番鈴木も、柏木のことを気にかけながら打席に向かう。


(ナックルは投手のメンタルがもろに出るっていうしな。リリースが少しでも変わればまるで役に立たない棒球になる。それを一つの武器として完成させてるんだ。邦也は凄いよ……)


 マウンドに立つ峰を見る鈴木。


(まあ、あの背丈……速い球。才能の塊だわな。うちは虎次郎以外みんな小柄だし、“巧い”って思うのも、修司くんと智尋くらいだな。どっちかというとみんな根古屋監督の魔改造で一芸特化したような人ばっかだよな)


――思い出すのは1年で入学したときのこと。既に黄金世代、白銀世代が話題となっていた中で、自分たちの代で話題にあがるような選手は、当然ながらいなかった。中学時代、最後の年は硬式だったら東区シニアの鷹戸、湖畔シニアの大滝、都辺シニアの朝地、鉄松シニアの氷室。軟式だったら第二中の宮城、香堂中の万賀、三高中の泉中。いわゆる“ネームバリューのある選手”が居ない代だった。


「鉄松シニア出身、柏木邦也」

「豊島中出身、白里虎次郎!」

「大垣一中でキャプテンやってました、鈴木多一郎です!」


「めっちゃ名前イチローじゃん、守備位置は?」

「ピッチャーとライトでした!」

「イチローじゃん」


 入部当初は先輩たちにいじられていた鈴木。同じ中学から来た錨、そして同じ外野手だった権田とつるむようになった。


「タイチローはキャプテンやってたけど守備キャラだったよな」

「うるせー、でも肩は一番強かったから!」

「でも遠投は柏木に負けてチーム2位だもんなァ」

「良いんだよ。アイツだって鉄松シニアでやってたんだぜ? んなことより錨も大概守備キャラだっただろーが」

「良いんだよ、俺はまだ足があるから。白銀世代の先輩にショート本職の人いないらしいし、ショートならレギュラー狙える……。レイモンドさんがコンバートしたら終わる」

「それはどのポジションもそう。しかし、タイチロー、俺ら外野は大変だよな」

「権田ァ。お前はわかってくれるよな。レイモンドさんと一緒にノック受ける辛さ。才能の違いをまじまじと見せつけられるよ」


 ため息をつく権田と鈴木。そのまま自主練習に向かうと、根古屋監督が練習の様子を見に来ていた。既に指導してもらっているのは、投手の柏木。隣で2年の阿佐間も聞いていた。


「邦也、何教えてもらってるんだ?」


 権田が鈴木に問う。


「……なんだろうな」


 後に錨を通じて白里虎次郎に教えてもらった情報によると、ナックルを教えてもらっていることが判明した。「根古屋監督ナックル教えられるのかよ」と、部室内がざわついた。


「お、俺も教えてもらいてえな」

「お前投手じゃないんだったらいらないだろ」

「いや、ほしいだろ。ナックルボール」


 鈴木はひどく劣等感を覚えた。


(ああやって……チャンスを掴んでいくんだろうな。暗黒世代ってオレたち言われてるけど、別に監督はオレたちのこと見捨ててるわけじゃないし、虎次郎はもうベンチ入り候補だし、1年でもやれるヤツはやれるんだよな結局……)


 錨は得意の守備をアピールし、秋にベンチ入りを果たす。そして、ずっと一緒に外野で頑張ってきた権田も、弾道を上げたバッティングが得意だということを見いだされ、秋にベンチ入りを決めた。


「権田、最近調子良いじゃん。めっちゃ打つようになったな」

「ああ。とにかくマン振りでカチ上げろっていう根古屋監督からのアドバイスのおかげだわ。打ち損じても強烈なドライブがかかって抜けるようになった」

「錨も足と守備でショート定着しそうだし、なんだで俺らの代、頑張ってるよな」


 ナックルの投球、および捕球をひたすら鍛えたことで、柏木、白里バッテリーが2年バッテリーを差し置いて秋にスタメン入りを果たしたほか、コンタクトヒッターとして力をつけた中路麟。そして、からっきしだったバッティングを鍛えてもらった鈴木もまた、春頃からチーム内で頭角を現すようになった。


――


(コントロールが苦手な柏木にナックルを教え、リードが苦手な虎次郎にナックルの捕球を鍛えさせた。……なのに柏木の野郎……変なこだわりでそれを封印しやがって。いくらなんでも虎次郎がリードしないからってやりすぎなんだよな)


 根古屋監督は、柏木を大層認めていた。だからこそ、ナックルを投げないといういわゆる『舐めプ』をしている柏木が気にくわないのである。


「柏木、お前の良さは……負けず嫌いなところもそうだが、ナックルを武器だと信じて突き通す図太さだと思っている」

「……」


 根古屋監督は、ベンチに座っている柏木に語りかけた。小言を言われると思って耳を傾けようとはしていなかった柏木だったが、思わず目を見開いた。


「図太くいけや。誰にもマウンド譲る気ないんやろ」

「……はい」


 鈴木は、7球粘って8球目のストレートを打ち返す。


「おっ、二遊間抜けるッ!!」


 立ち上がった初巾ベンチ。しかし、ここは――セカンド上月が飛び込んで、打球をグラブに収めている。


「っしゃァ取ったぞ!!」


 トスしてショート畑中が受け取り、ファーストランナーをフォースアウトにして3アウト――勝ち越しのチャンスがあった初巾だったが、ここは無得点で5回裏を終える。


(しかしまあ……なんでアイツらは……才能の塊みたいな感じなんだろうな)


 鈴木はベンチに戻りながら、走ってベンチに戻っていく秋江工業の選手たちを見ていた。6回表に入り、ショート畑中が打席に入る。1番バッターとして3度目の打席に入る。








(ナックルそろそろ投げるだろ……うちの峰も、6回から変化球解禁だしね)


 柏木は初球からナックルを投げ込む。しかし、“ナックルがそろそろ来る”と読んでいた畑中はバットを振ることなく見逃す。ボールはストライクゾーンに入るが、特段焦る様子を見せない。


(大丈夫。バットを出す角度を少し下からにすれば、内野の頭を越えられる)


 秋江工業がこの日のために行ってきたナックル対策――それは、バットの角度を下からにするスイング。もちろん、そんなことをして本来のスイングを忘れてしまっては元も子もないので、この対策が許されているのは、1番畑中と2番上月、そして5番の遠藤のみ。


(あとはもう、ストレートを捨てて、打席の後ろに立ち、徹底的に流し方向意識。フライ上がっても良いからとにかくパワーで外野に運ぶ)


 コントロールが安定しないという特徴があるナックル。徹底的にほしいところに来るまでバットを振らず、フルカウントまで粘った畑中。


(……よし、今日は審判の判定にも助けられている)


 6球目、柏木は己が意志を貫いた。


(6球連続ナックルかよッ!)


 なんとかバットの先に当てた畑中。後から気づく。


(ボール球じゃん……クソッ)


 構え直して柏木をじっと見据える畑中。柏木は顎を上げ、好戦的な視線を向ける。


(どりゃッ!!)


――図太くいけや。


 ナックルを7球連続で投げてきた。畑中は欲を出してしまった――


(ポイント前でしばけば――打てるッ!)


 手前でゆっくりと揺れ動いて落ちる球――畑中はふと、バットが止まった。


「何だよそれ……」


 柏木は舌打ちを一つ。


「ボール!!」


 審判は「スイングをしていない」と判定した。畑中は腑に落ちない顔を一瞬見せたが、ガッツポーズをベンチに向け、一塁へと歩いて行った。


(追いつかれたとか関係ない……オレたちは、こっから柏木のナックルを打って勝つぞ!!)


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