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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
11.暗黒世代:秋大会
400/406

第400話「BAZOOKA」

(ま、立ち上がりが悪いのは計算の範囲内よ。相手も初巾。強豪校。春も北信越大会上がってるし、どう考えても強豪との戦いに慣れてるわけで、峰レベルのピッチャーは何人も見てきてるわな)


 秋江工業の正捕手、万賀翔平は落ち着いていた。相変わらずど真ん中に構えるだけ。2番鈴木は初球空振りし、1ストライクを取る。


(まあ、これで良い。5回までは変化球を使わない。相手はエリアに入ってきた球を振ってくれる。うちの二遊間ならゴロ捌いてくれるし、センターにも楠成がいる。センターラインの守備は初巾よりもレベル高いと思うから、この勝負ができる)


 2球目は当てるが、前に飛ばせない鈴木。


「おいおい、タイチロー! お前は構えだけか!?」

「ポイント後ろに! 少しでも見て行けよ」


 ベンチからの声も上がるが、絶妙な荒れ玉に、狙いを定めづらく、結局4球目――2ストライク1ボールで投げられた高めのストレートに釣られる形で空振り三振となった。


(さて……向こうのランナーは……2番のときは動かなかったな。3番中路は長距離バッターではないし、走ってくるだろうな。ま、さっき初球刺してるから、ちょっとためらうだろ)


 3番中路が打席に立つ。万賀はここで『首を振れ』のサインを送る。峰は頷く。


(頷いたらダメだろ)

(そうだった……)


 ブルブルと強く首を振る峰。


(何のやりとりだ?)


 打席で不思議そうに見ている中路。一塁ベースにいる錨に盗塁のサインが出ている。


(まさか……)


 初球のストレートは大きく外れている。見逃してボール。錨は走り出していなかった。


(さすがに根古屋監督もあの首振りでおかしいと思ったか)


 もう一度ベンチサインを出す監督を見る中路と錨。万賀も峰にサインを送っている。


(まあ、走れないよな)


 中路が打席に入り構えると、峰はすぐに投げ込んできた。


(ストレートかッ!!)


 カットする中路。1ストライク1ボール。ここでも錨はスタートこそ大きいものの、第二リードは小さい。


(根古屋監督……鬼だよなァ。盗塁のサイン出した上で1ストライクカットに使わせるって……)


 そして3球目。すぐに投げる体勢に入る峰。


(サイン交換いつした!?)


 錨はそれを見て――走り出す。


(もらいッ!!)


 高めに外れたボール球。空振りスイングをする中路。しかし、万賀は少し腰を浮かせた状態――絶好の送球準備体勢で捕球する。


「もらったぜッ!!」


 荒々しくも二塁に真っ直ぐ飛んでいく送球。一塁走者の錨が滑り込んでいるが――セカンド上月が巧く捕球してタッチしに行く。


(刺されるかッ!)

「うおらッ!!」


 身体をひねってタッチをかいくぐる錨。しかし上月も叫びながら同様に身体をひねり、ベースに触れようとした腕にグラブを当てる。


「アァアウッ!!」


 クロスプレーの現場をのぞき込んでいた二塁審がアウトを宣告。


「うおおおおッ!! 秋工のキャッチャーも負けてねえ!!」

「好戦的すぎるぅ!!」

「万賀くんも負けてねえな」


 観客はまさかの捕手の盗塁刺殺対決に盛り上がっている。2ストライクを献上してしまった3番中路は、4球目を打ち返すが、センター楠成にしっかりと対応され、センターフライに倒れる。


「ふん……『策士、策に溺れる』だよ。老猫監督さんよ」


 万賀はベンチの根古屋監督の方を見て笑った。


(好戦的なやつめ……)


 一人ランナーを出すも、三者凡退に終えるという、初回の初巾バッテリーの意趣返しに成功する秋江工業バッテリー。そして2回表は、その立役者である4番万賀からスタートする。『万賀翔平が強打者である』ということは、もう県内の高校球児には知れ渡っており、中学の軟式上がりの者は、学年が違っても知っているほどだった。


「万賀さんって、あの明豊中のキャッチャーしてた人ですよね? 秋工行っていたとは……」


 初巾の6番センターを務める1年生、柿崎智尋が守備に行く前にレフト権田に話しかける。


「クロ高の推薦が取りやめになった……って話は、俺らの代の中じゃ割と語り草でよ……まあ、実力はあったが、いろいろ噂の絶えないヤツだった」

「へえ……」

「まあ、2年の夏にぽんと現われてベスト4まで登り詰めてやがるからな。当然……そこから4番に座るだけの器はある」


 初球、柏木が投げたストレート――狙い澄ませて打ち返した。


「来たッ!!」



 打ち上がった打球の角度と速度で確信する。スタートを即座に切らない万賀。


「はッ!? ふざけ――」


 振り返った柏木はマウンドを蹴った。


「チッ……やられたか」


 キャッチャーの白里もぼそりと呟く。スタンドに入った打球。4番万賀のソロホームランで先制点を決めた秋江工業。ベンチに戻ってヘルメット越しに頭を叩かれまくる万賀。ネクストで5番遠藤が笑っている。


(翔平さんすげえ……)


 柏木は不機嫌を顔で語る。


(ナックル使うか?)


 白里がサインを送る。


(バカかデブ。こんな1年のぽっと出ごときに使うかよ)


 初球ストレート――カットする遠藤。


(球速は……峰さんの方がよっぽど速い……。伊澄さんでももうちょっと出せるかな?)


 2球目はカーブ。ストレートを待っていた遠藤は引っ張って打ち返すが、ファウルになる。


「ココ! 落ち着け!! ナックルはまだ投げねえよ!」


 ほかの選手たちが叫ぶ――遠藤は頷く。


(1点リードしてる。攻めろッ!!)


 3球目のストレートを見逃した遠藤。しかし、審判の手が上がる。


「ストーライッ!!」

(嘘だろ……)

(バカが……モブに球数使うわけねえだろッ!!)


 柏木はベロを出しながら笑った。同じく1年の6番赤楚をセカンドゴロに、そして7番楠成を三振に倒し、先制点を許すも後続をシャットアウトして見せた。


「柏木邦也……すげえ好戦的なヤツだなァ」


 峰竜児は笑いながらマウンドに向かう。


「はい、峰くん落ち着いて。お前は好戦的になると球が荒れっから、落ち着いていきますよー」

「……ウス」


 上背が180を裕に超える峰は、自分より少し背の低い万賀に宥められる。


「4番白里虎次郎に長打さえ浴びなきゃ、この回は凌げるだろうし、竜児の球なら下位打線は敵じゃねえはずだから、3回まではなんとかなる。とりあえず、4番白里に対してのみ、初球6割くらいで投げ込んでこい。外しても良いから」

「わかった!」

「その後、徐々に出力上げろよ」

「おっけー!!」


 明るく答える峰。


(しかし……これでスイッチ入ったら飛んでもねえ球投げるからな。いろいろな意味で……)


 初巾の4番、白里虎次郎が打席に立つ。彼も彼とて、万賀のことを強く意識していた。


(同じ大型捕手。打撃力にも優れ、肩も良い。壁としての性能も高い。唯一の違いは……ピッチャーをリードできているかどうか……か)


 ベンチを一瞥する白里。ふんぞり返っている柏木を見てため息をつく。


(ま、アイツを御すのは無理か)


 初球、峰が6割くらいの力で投げ込んだストレート。これは見逃す白里。


(なんだ……? 120くらいの力しか出てねえじゃねえか。打てってか?)


 2球目、フルスイングで答える白里。少し速くなった球にタイミングが微妙に合わず、空振りする。


(んー、速くも追い込まれてしまった)


(え……何か次辺りで合わせられそうだけど……外したりしなくて良いんだよなッ!)


 峰は迷いつつも、ど真ん中に構える万賀を信じてストレートを投げる――


「ナイスボール!!」


 万賀が叫ぶ――が、白里は打ち返している。


「セカンド!!」


 振り返って叫んだ峰。グラブを目一杯伸ばすが届かない。二塁ベース側に横っ飛びするセカンド上月。


「クソッタレッ!!」


 ――届かない。センター前に打球が落ち、先頭の白里がヒットで出塁した。


(荒れ玉結構……。しかし……球に勢いと重さがある。あれを長打にできないところが……俺と万賀翔平の差……なのか)


「良い感じだぞ竜児―! ほどよく荒れてる! それで良いそれで!!」

「お、おう!!」


 一塁ベースから白里が見ている万賀と峰のやりとり――一塁手の赤楚が白里虎次郎に話しかけた。


「白里さん、ナイスバッティングです」

「あ、どーも。おたくのキャッチャー良いね」

「翔平さん……あ、万賀さんですね。まあ、あの人は別格ですから」

(ま、後輩からしたらそういう扱いになるか……)


 白里がヒットを打つも、後続が続かず、得点圏にランナーを進められないまま2回が終わった。


「金条……お前は、白里や万賀のようになりたいと思ったことはあるか?」


 迫田が同じポジションの金条に問う。斜め後ろに座っていた返田の顔も見ているので、自分にも問われている、と気づいた返田。


「中学で肩が弱い方だって気づいて諦めたよ。ほら、小学校の時、キャッチャーって不人気ポジションだっただろ、それでやってただけだし」

「俺は……正直、まだ憧れは捨て切れてねえ。でも、今は投手を支える方に力を注ぎたい」

「……俺もどちらかといえばそうだ。白里や万賀に、投手を支える力があると思うか?」


 その言葉にぴくりと反応したのは、伊奈と小豆。


「ストレート要求をど真ん中に構えるだけの万賀。リードせずにただボールを受け止めるだけの白里。これが……果たしてピッチャーを支えていると言えるのか」

「……迫田。あんまり翔平バカにすんなよ」


 伊奈が言うと、ピリッとした雰囲気に突然変わる。


「悪いな、決してバカにしているわけではない。捕手としてのプライドの話をしたいんだ」

「迫田、あんまり内情話すようなこと言わねえ方が良いんじゃねえの?」


 沢口が止めるが、迫田は続ける。


「俺は自我が強い投手をリードする場面が多いから、どちらかというとアイツらみたいな感じの捕手になりがちだ。黒鉄さんのときも、宮城のときも、割とそれで結果を出せている自負はある。ただ……打てる捕手というのは、それだけで投手を支えていられる、そうは思わないか?」

「……悔しいが、おっしゃる通りだ」


 金条はお手上げといった表情だった。


「柏木も峰も見た感じクセはある。宮城や鷹戸ほど突出したタイプじゃないし、古堂ほど乗せやすくもない。そういうピッチャーを御す上で、打撃力というか、野手能力って本と大事なんだよな」

「ああ。実はこの試合、キーマンを握っているのは、キャッチャーだ」


 3回は下位打線を全く機能させず、両チームともスコアボードに0をつけあった。そして、4回表――どちらのチームも先ほどヒットを打つことのできなかった2番からスタートする。


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