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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
11.暗黒世代:秋大会
398/407

第398話「黒鉄の影」

 9回のマウンドに立っても、宮城イザナは変わらない。


(いつだって全力投球。俺の方が……できる!!)


 5番嶋田は初球からガンガン振っていく――が、依然としてキレも球速も衰えを知らない宮城の球に当たる気配すら見えない。


「ストーライッ!!」


 3球目、早くも追い込まれた嶋田。


(後悔しないったって……んなもん、高校球児である以上、結果が出ねえと後悔するんだよッ!)


 3球目のストレート、アウトローの難しい球を無理矢理打ち返した嶋田。浅いレフトフライに倒れる。


「1アウトォ!!」


 マウンドで叫ぶ宮城。鉄日ナインも同じように応える。


(全国にはすげえ選手がいっぱいいると思ったが、意外にも県内に伏兵はいるもの。『黒鉄の影に隠れていただけ』のエースか)


 この後、宮城はヒットを浴びつつも、守備にも助けられる形で抑え抜いた鉄日高校。3アウトとなった瞬間のクロ高は、あっけなく感じていた。


「ダメ……だったか」

「結局最後まで宮城臨を打ち崩せなかったな」


 観客席の観客たちは冷静だった。「鷹戸が下げられてなかったら8回に点が入っていた」という者もいたし、「鷹戸が指を痛めてなかったら2点目、3点目が入っていなかったのでは?」と疑問を呈する者もいた。


 古堂は整列しながら空を見上げている。観客たちが自分たちを讃える声も聞こえてくるが、多くは勝者を讃える声だった。


(ああ、悔しいな……俺が点取られたわけじゃないのに……)


 負けている状態で登板する者の避けられない運命。味方が点を取れなければ負けるのである。しかし、鷹戸が悪いか、と言われたらそこまで悪いわけでも無い投球内容。


「コドー、鷹戸……負けたのは俺ら野手のせいだ。自分を責めんなよ」

「あ、ああ……」

「悪いな、調子が狂ったことにもっと早く気づいていれば……」

「それも言いっこなしだ」


 鷹戸の背中に大滝が手を添えた。審判の声と共に、頭を一斉に下げた。


 黒光高校 2-3 鉄日高校



 鉄日高校、決勝戦進出。黒光高校、準決勝敗退。





 こうして、決勝進出と共に秋の北信越大会への切符を1番乗りで手に入れた鉄日高校。


「大滝真司……北信越大会、一足先に行ってるぜ。またやり合おう。次は打たれない!」

「ああ。次はオレたちが勝つ!」


 宮城に声をかけられ、頷く大滝。そして宮城は古堂と鷹戸にも視線を向けた。


「鷹戸も、古堂も、今日はおこぼれで勝てたようなもんだから……投げ勝ったなんて一切思っちゃいないから」

「イザナ……」

「でも、オレたちは負けたと思っている。でも……今日のところは、だ」

「決着は、ちゃんと北信越大会でつけよう。3位決定戦、上がってこいよ」

「ああ」

「じゃ、またな……レイ」


 球場を後にしたクロ高の面々。すぐにミーティングが開かれる。


「敗因は主に準備不足。私含め、だ。想像以上に宮城臨みやぎ いざなが投手として完成されていた。黒鉄大哉の影で、あそこまでの投手が出来上がっていることを、研究しきれなかった私のミスだ」


 絹田監督はこう言うが、誰も『監督のせいだ』などとは思ってなどいない。試合に出た者はそれぞれ、自分を責める場面を思い返す。


(1番なのに1ヒットは足りねえだろ……どう考えてもよォ)と林里。

(やっぱり、点が絡む場面での凡退が多い。セカンドゴロばっかりだった)と伊奈。

(右手負傷のときに思い切って交代をするべきだった。クソッ……何が、『チームを勝たせるためのエゴ』だ。そのエゴでチームを負けさせてどうする)と鷹戸。

(ソロホームランを打っても、満塁の場面で打てなかったら意味がねえ。まだまだメンタルが弱いな俺は……)と大滝。

(ノーヒット。5番で使ってもらってくるくせに何なんだ俺は……)と嶋田。

(やっぱり、球種が多いピッチャーが苦手だ。9回にヒット出すまでに2三振してるようじゃ……流れには乗れない)と森下。

(投手の調子が悪いときこそ、キャッチャーのリードの見せ所だろ……バッティングも全然ダメだし……)と金条。

(結局打てたのは、あのストレート狙いの一本だけ……。もうそのタネはイザナに割れちまった。8回でホームに帰れなかったし)と佐々木。

(俺が序盤で代えられたのは打てなかったからだ)と田中塁。

(代打の場面でセカンド正面ゴロは弱いだろ……せめてもっと左右に振らないと……)と佐藤。


(ストレートは大分良くなってた。でも、変化球を狙われたらポテンなり何なりで簡単に外野に運ばれてしまう。鷹戸の後ってことも考えて、もっとキレのある球を投げていかないと、簡単に読み合いに負けてしまう。これ以上球種を増やしたら解決する問題でも無いだろうし、一個一個の変化球の質を上げていこう……)


 古堂がそう思いつつも、すぐに顔を上げる。


「監督、3位決定戦は明後日ですよね!」

「ん? ああ、そうだ」


 古堂に問われ、咄嗟に答えた絹田監督。そして、思い出したように呟く。


「今年、北信越大会に行けるのは3校。つまり、次の3位決定戦に勝てば、まだセンバツへの道は残される。相手は初巾もしくは秋江工業」

「鉄日への研究不足が負けた原因なら、やっぱりちゃんと研究しましょう。福富商業のエースが寺田だったから既に研究してた分、なんとか勝てたけど、鉄日の宮城イザナは練習試合とは大きく変わっていたので」


 金条が続けた。


「この後の試合、初巾VS秋江工業、見たいです」

「お願いします!!」


 金条の言葉に合わせ、全員で頭を下げる。絹田監督はゆっくりと頷いた。


「バスの手配だけ部長に頼んでおく。ダウンをしっかりとしておけよ。何よりも、明日に疲れを持ち越さないように。鷹戸は病院に行くぞ」

「はい」


 鷹戸のみ別行動となり、クロ高メンバーは次の準決勝二試合目――初巾VS秋江工業の試合を観戦することになった。

 当然、勝者として、鉄日高校も同じ事を考えていた。



「ヒロ、さすがにどっちが上がってくると思う?」

「うわムズいなあ」


 山本の問いに沢口は迷う。


「んまー、正直、柏木、白里バッテリーが残ってるのは大きいわな。秋ベスト4に残った秋江工業、初巾、黒光、鉄日の中では、唯一夏ベスト8だけど……」

「そういう意味では、夏は初巾も秋江もウチも、クロ高に負けたわけでありまして」

「……秋工は……かなり強いぞ。準々決勝の昂大高校戦、バリ面白かったし」


 木口が割って入ってくる。


「エース峰竜児……球速は最速149キロ。秋江工業の大型エース。コントロールはまだまだ乱雑だが、エリアに決まり始めたら手がつけらんねえ」

「……うちの高松に近いタイプか?」

「ならうちの相手じゃねえか。あ、でもやべえのってキャッチャーの万賀翔平だろ?」

「正直、アイツが入ってなかったら秋江工業もここまでのチームにはなってねえよ……。全体的に峰を除いて小ぶりだしな」

「まあ、それもそうだな」


 彼らが座るところを見つけ、並んでいるところで、ちょうど目の前をクロ高の面々が通る。


「あ、お前らも偵察か!?」


 朗らかに山本が問うのを、「おい」と静かに制する泉中。咳払いを一つして、「すまん」と謝る。


「いや、合ってる。気にすんなよ泉中」


 これには代表して金条が返事をする。


「鷹戸いないじゃん。……やっぱりケガだった?」


 木口が問うのを、「ノーコメントで」と顔の前でバツ印を作って答える伊奈。「それが答えじゃん」と沢口に突っ込まれる。


「そっちも宮城いないじゃん。赤河も、月守も。どこ行ったの?」

「あー。彼らは戦闘民族なので、練習しに帰ったと思いますよ……あはは」


 林里の質問に対して苦笑いの泉中。どうやら偵察をしに来たのは、キャプテンの泉中と、木口と、山本、沢口、迫田の5人だけらしい。


「そっちは大所帯だね。さすが、良いチームだよ」


 迫田は皮肉をぼそっと呟く。


「俺らの近く空いてるし、せっかくだから一緒に見ていこうぜ」


 山本の提案に、目を見合わせる金条ら。


「ま、悪いことは何も無いだろ」


 そういう伊奈の言葉にみんな頷いた。鷹戸以外のベンチ入りメンバーがずらっと並んで初巾高校VS秋江工業の試合を見守る。



 絹田監督の車内は、ケガをした疑いのある鷹戸と、マネージャーの小泉が座っていた。


「鷹戸くん、まだ痛みあるの?」


 小泉に問われて、一瞬返答に迷う鷹戸。後部座席に二人で並んでいる。今思い出すと、この距離で小泉と話すことなど、今まで無かった。


「いや……大丈夫。ずっと冷やしてたから……」

「そうだよね。でも、焦っちゃダメだよ。3位決定戦、投げたいだろうけど」

「……」


 図星を突かれた鷹戸は黙ってしまった。この沈黙の雰囲気に耐えられるのは、普段から鷹戸があまり喋らないからである。


「すまん、待たせた」


 缶コーヒー1本と、ペットボトルのお茶を2本持って絹田監督が現われた。ペットボトルを小泉に渡して、運転席に座り込む。


「あ、ありがとうございます」


 ほら、鷹戸くんも、と言わんばかりの小泉からの目線を受け、鷹戸も「あざす」と静かに礼を言う。


「鷹戸、痛みはあるか?」

「いえ、今はだいぶ引いてます」

「どのみち3位決定戦は投げさせないぞ。その上で聞く。痛みはあるか?」

「……」


 わかりやすいな、と呆れ笑いを浮かべる絹田。


「まあ、俺もケガを隠して登板したことがあるからお前の気持ちはわからんでもない。でも、そのせいで選手生命は凄く短くなった。それに……ケガ隠して登板して、今日みたいにコントロールミスして負けたら、どうする?」

「……!」


 目を見開く鷹戸。


(それは……チームを勝たせるためのエゴじゃない)


「ここ最近のお前の完成度は、去年の秋を凌ぐものだった。甲子園でジャイロボールのキレも増して、コントロールも安定してきていたんだ。大丈夫だ。ここ一週間ほど様子を見たらすぐに復調する。北信越大会では投げてもらう予定だ」

「はい!」

「頑張らないとね。鷹戸くん」


 運転席の絹田監督と、隣に座っていた小泉に励まされる鷹戸。ここに来て急に悔しさがこみ上げてきた。


(なんで俺は……いつも自分のことばっかりなんだ……)


 今日の試合は、間違いなく自分のせいで負けた――ほかの誰かがそんなこと一言も言っていない。おそらく、本気でそう思っているクロ高の選手など、誰一人いない。それをわかっていても尚、そう思わざるを得なかった。自分のせい、と大声で叫べたらどれだけ楽だっただろう。みんなが責めてくれたら、どれだけ楽だっただろう。心の中に蟠りを抱えつつ、鷹戸は病院へと向かう車内でずっと左拳を握りしめていた。


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