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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
11.暗黒世代:秋大会
396/408

第396話「チームを勝たせるエース」

(バントだろ)

(バントだな)

(バントしてくれたら良いからな)


 味方ベンチも、相手ベンチも、ノーアウト一塁の状況で打席に立つ9番の古堂が送りバントをしてくると踏んでいる。ただ一人――それを絶対に許さないと意気込んでいるのは――古堂と同じポジションの、宮城臨。


 初球、迫田のサイン通りにストレートを投げ込むが、想像以上の球速に迫田は驚く。


「ストーライッ!!」


 古堂は外れていると思って思わずバットを引いてしまったが、アウトローに決まった絶好球。1ストライク取られてしまう。


(コドーはあと8回、9回と投げてもらわなきゃいけない……無理に打ちに行ってピッチングに影響が出られても困る)


 林里はネクストからじっと見つめつつ、声をかける。


「慎重に行けよ!! 下手に打ちに行ってゲッツーが一番無しだからな!!」


 当然、絹田監督からバントのサインは出ているが、ネクストサークルから大声で「バントだ」と言うのも変な話。林里の声に頷く古堂。


(やっぱり……イザナは負けず嫌いだ。さっき、佐々木をねじ伏せに行ったのも、なんとなくわかるよ)


 普段は察しの悪い古堂だが、宮城の意図を読み取る。2球目をバントしに行くが、打ち上げてしまう。


「ファール!!」


 ガシャン、とバックネットに当たるボールの音。


(そんなに勢いのある球……8回でも投げられる、余力あるっていうアピールか? 無駄な体力使うなよ)


 迫田はチェンジアップを要求する。宮城に肩を酷使させないためだ。首を横に振る宮城。


(迫田……俺はレイにとって“まぐれですら”打てないくらいのピッチャーになった、って……知らしめてやりたいんだ。ど真ん中ストレートで押し切るッ!!)


 迫田は次にスライダーを要求。これも首を横に振る。


(ってことは……これか?)


 フォークも違ったようで、迫田はため息をつく。


(打たれんなよ。っていうか……まあ、バントすらさせたくないってことなのか?)


 ようやく出たストレートのサインに笑顔で頷く宮城。


(うらっ!!)


 投げ込まれた速球は、おそらく140後半が出ていた――が、古堂はバットにボールを当てる。


「打ち上がった!!」


 ファウルゾーンの方に打ち上がった打球。キャッチャーの迫田が追うまでもなく、3バント失敗でアウトになる。


(くっ……力で押された……)


 悔しそうに宮城を見据える古堂。宮城は古堂を見ながら息をゆっくりと吐く。


「イザナ、ナイスピ!!」


 セカンド山本が大声で後ろから声をかけるが、宮城はほぼ無反応。


(チッ……打者としてのレイを抑えたって別に何の旨味も無いってのに。ムキになっちまった)

(ったく……何で古堂黎樹相手にそんな全力で投げるんだよ)


 宮城の負けず嫌いに呆れる迫田。1アウト1塁となる。


(送りバントできなかった。クソッ……)


 古堂は悔しそうにベンチに戻るが、絹田監督から声をかけられる。


「古堂。気持ちを切らすな。相手がお前相手に熱くなってくれているのはむしろ好都合……。何、点を取るのは上位打線の仕事。お前は次の回のピッチングがある」

「はい!!」


「コドー、8回と9回行けるか?」

「ああ、問題ないよ」


 金条の言葉に答える古堂。「ピッチングしとく?」と問われるが、首を横に振る。


「……ここで点を取ってもらわないと、9回のウラも無くなる。少なくともあと1点。俺は10回も11回も投げられるから……」


 1番林里が打席に立つ。


(コドーがピッチングで……佐々木が守備とバッティングで流れを作ってくれた。相手が宮城臨だからって何だ。こういうところで出塁してチャンス作るのが、俺の仕事だろッ!!)


 ベンチでめったに動かない絹田監督、ここで奇策に出る。奇策とは言いつつも、何度も練習してきて、林里に対する信頼あってのサインプレーだ。


(バントエンドラン……俺も生き残るッ!!)


 宮城が投げた一球――スタートを切る佐々木。


(タカシが盗塁ッ!? いや、迫田なら刺せるッ!!)


 背後で慌ただしく動く内野陣を気にせずストレートを投げ込む宮城。林里はバットを傾けたまま、ボールにバットを当てた。目を見開く宮城。


(プッシュ気味の三遊間ッ!! でもショートは盗塁対応で追えない!)


 キャッチャー迫田はマスクを外して叫ぶ。


「赤河ッ!!」

(俺かッ!?)


 前に出ていた足に無理矢理ブレーキをかけ、方向転換するサード赤河。ほぼ真横に一歩ステップを踏み、打球に追いつく。このとき、完全にホームに背を向けている体勢でボールを拾わざるを得ない。


「二個無理ッ! 一個ッ!!」


 ショートの声に反応して身を翻し、ファースト送球を行う赤河。鋭いボールがファーストに投げ込まれる。


「ショーバンッ!」


 深く守っていたセカンド山本がカバーに走りながら叫んだ。ファースト月守は左足を件名に伸ばし、ファーストミットを前に突き出しつつ、ショーバンを上手く捌いて送球を受け取る。頭から滑り込んでいる林里と目が合った。


「……さすがにセーフだろ?」

(見事)


「セーフ!! セーフ!!」

「っしゃああ!!」


 一塁ベースに手を置きつつ、叫んだ林里。ゆっくり立ち上がった後、ベンチに向けてガッツポーズを取る。


「よくやったザト!!」


 ベンチからも彼のナイスプレーを讃える声。宮城はマウンドから遠巻きにその光景を見ている。


「わりぃ、捕り方悪かった」


 サードから赤河の声。はっ、と気づいて振り返る宮城。


「全然大丈夫。まだ1.2塁」

「ああ」

「ホーム踏まれなきゃ点入らないから」


 その二人のやりとりを見てタイムを取るのは、キャッチャーの迫田。ホームに駆け寄ると、空気を読んでショートやセカンド、ファーストも集まってくる。


「宮城、わかってるとは思うが、点を取られたら同点だぞ」

「ああ。大丈夫。俺は10回でも11回でも投げられる」

「そういう問題じゃなくてだな……」

「わかってるよ。クロ高相手に3失点は結構ヤバい。黒鉄さんが実証済だろ」

(ほんと……黒鉄さんの影に隠れてこんなに図太かったのか)

「しかしどうする、2番伊奈、3番はおそらく途中出場の佐藤、そして4番の大滝……。3番はともかく、なかなか強力なバッターが続くぞ」


 月守の言葉に頷く山本。


「そりゃクロ高も勝ちに来てるから、誰かには打たれるだろ。でも、ホームベースは踏ませない。それで行こう」


 宮城が強引にまとめる。ため息をつく迫田。


「良いのか、こんなんで」


 ショート沢口も呆れている。しかし、その顔の笑みを隠せない。


「良いも何も、監督が動く気配無いなら、それで動くしか無いだろ。建太、前の打球チャレンジして、ゲッツー狙って行けよ」


 迫田が山本に指示を出す。頷く山本。


「月守、一二塁間抜かれるなよ。んで、ヒロ。多分引っ張っては来ないから、セカンド方向ゲッツーシフトでOK。三遊間は赤河カバーよろしく。バントは俺が処理する」

「おっけー」

「ま、迫田の指示通り動くわ」

「ふん……何、この状況、俺らがバカスコ打ってりゃ今頃10-2だったことを思えば、野手の責任だろ。俺らがやらないでどうする」


 最後の赤河の言葉に笑ったのは、エース宮城。


(いや、3点あれば十分だ。俺はチームを勝たせるエースになる)


 2番伊奈が迫田に頭を下げると、迫田は「よし」と呟いてホームに座った。


「俺を打ち取る方法でも見つけた?」

「まあな」


 伊奈は流し方向に極端に敷かれたシフトを見て笑う。


(んなもん、引っ張ってくださいって言ってるようなもんじゃねえか)


 得意の右打ちを防がれていると感じている伊奈。そして、そのシフトをさらに有効にする、宮城の精緻なピッチング。インコースの変化球を丁寧に投げ込む。ツーシームを打ち返すが、ファールになる。


(多分、こういう詰まらせる変化球を、インコースにずっと投げ込んでくる、と見た)


 当然、中には厳しい一球もあり、ボール球も嵩む。そうして迎えた6球目、フルカウント。


(これしかないだろ)


 インコースのフォーク。対応しようとカットするところの、空振り狙いの一球。迫田のリードに頷く宮城。構えた位置に投げ込む。


(ここまでインコース投げてきてインズバはねえだろッ!! これは変化球ッ!!)


 フォークを打ち返した伊奈。インローの球を引っ張る。


「サードッ!!」


 赤河が飛びつく――が、グラブを弾く打球。ファウルゾーンの黒土に滑り込む赤河。


「カバーッ!!」

「ファール!! ファール!!」


 審判の声を聞いて、自身が触った場所がファウルゾーンの上だったことに気づく赤河。


「っぶねえ……」

「よく飛び込んだぞ赤河!」


 おうよおうよ、とゆっくり立ち上がる赤河。宮城と迫田はお互いほっとする。


(伊奈の野郎……引っ張ってきやがったか)


 伊奈はゆっくり息を吐いて構え直す。迫田と目が合う。


(次はどんな球だ? 俺はどんな球でも打つぜ)


 迫田は宮城にチェンジアップを要求。


(……これしかないだろ。相手は伊奈聖也。こいつを止めたら……2アウトで途中出場の佐藤。止められる確率がかなり上がる)


 ネクストの佐藤は祈るようにしゃがみこんで宮城を見ている。


(伊奈が打てなかったら……2アウト1.2塁で俺……)


 佐藤がじっと見ている中、宮城はゆっくりと頷いて構えた。7球目――チェンジアップを投げ込む。


(ぐっ……マジかッ!!)


 ぐっと右膝を堪え、バットを止めた伊奈。


(手を出せば打ち損じるッ!!)


 見送った伊奈――判定はボール。フォアボールで出塁となる伊奈。振り返って佐藤の方を見た。


(頼んだぞ佐藤)


 ここで途中出場している佐藤が打席に立つ。1アウト満塁。打席でのルーティンをして、投手をじっと見つめた。


(宮城臨……福井県内で見たら最高級のエース。全国区の投手とこんなに早く対戦できるなんて……俺は恵まれてるッ!!)



 鉄日の内野陣は落ち着いて前進守備を取る。


 初球、強烈なスライダーがインコースに滑り込んでくる。手が出ない佐藤。初球ストライクを献上する。


(あれを打とうと思ったら、左バッターの俺は……引っ張るしか無い)


 2球目、チェンジアップが投げられる。引っ張ろうとしていた佐藤は派手に空振りしてしまう。


(ダメだろ……守備がダメダメで1軍に上がれなかった俺が、バッティングでも役に立てなかったら、終わりだろーがッ!!)


 3球目、三振を取りに来ていると踏んだ佐藤は、アウトローの球を強引に打ち返す。


(抜けろッ!!)


 ランナー全員がスタートを切る。打球はセカンド山本の正面で強く跳ねた。


(ここに来てイレギュラーッ!?)


 視界の端で宮城が目を見開く。いつもの守備位置なら容易に対応できるバウンドだった。


「んなッ!」


 顔の正面に飛んできた打球を、咄嗟の反応でグラブに当てる山本。そのまま右掌に落としてキャッチ。ホームに投げた。


(何で捕ってんだよッ!!)


 一塁に走りながら佐藤は目をつむり、頭から滑り込んだ。ホームでは迫田が身体を前に伸ばして捕球。フォースアウトで三塁ランナー佐々木をアウトにする。佐藤と同じく頭から滑り込んでいた佐々木だったが、間に合わず悔しそうな表情を見せる。


「迫田ッ! 投げるなッ!」


 宮城が叫ぶ。ホームゲッツーを狙って一塁に投げようとしていた迫田。叫び声に反応すると同時に、三塁から飛び出している二塁ランナー林里の姿。


(おっと……危ない危ない)


 依然として満塁のクロ高。2アウトの場面で、続いて4番大滝が打席に向かう。


(林里に帰られても、一塁をアウトにするべきだっただろうか……)


 迫田は自身の判断を一瞬迷った。少し後悔すらしていた。打席に立つ大滝真司が、それほどまでに大きく見えていた。


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