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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
11.暗黒世代:秋大会
394/408

第394話「うちの正義」

 6回裏、ノーアウトランナーなし。1-2と、点差は少ないが、1点のリードを許しているクロ高。鉄日高校の次のバッターは、本日2本のヒットを放つ、月守遥。4番赤河のホームランを見て、俄然やる気が上がる。


「行けよー!! お前ならやれる!」


 ベンチからは月守を後押しする声。一方、クロ高ベンチは、絹田監督が古堂に何かを語りかけていた。


「うちの正義はなんだと思う? 古堂」

「うちの正義……」


 古堂は頭に疑問符を浮かべた。


「鷹戸が変わったのはお前のおかげと言ったな、古堂。お前が毎日心掛けていることは?」

「誰よりも早く練習を始めること……です」

「ほかに」

「絶対にケガしないようにすることとか、いつでも全力出せるように本番を想定することとか」

「思ったより多いな」


 絹田監督は笑った。


「とまあ、お前のストイックさに、少なからず影響されてるんだよ、鷹戸は」

「……!」

「古堂に言ったとわかったら、鷹戸は怒るかもしれんな」


 合宿の時のことを覚えているか、と古堂に問う絹田監督。


「横ブレが多かった鷹戸の球の原因は、オーバースローになりきれていないフォームにあった。肉体改造のし過ぎで、肩回りの柔軟性が低下していたせいなんだがな。だが、鷹戸はフォームを矯正した。その際に、お前の話をした」

「ああ、俺が超朝練で反復練習を毎日繰り返しているから……」

「ああ。見事、練習試合、秋大会と、フォームの矯正を完遂してくれたわけだ。だが……それだけじゃない」


 ふとグラウンドを見ると、5番月守がヒットを打っていたのが見えた。フェンス直撃の二塁打でまたもやピンチを迎えている。それでも、声をかけ続けるベンチ。次のプレーの確認をする内野陣。ポジショニングの調整をする外野陣。


「もともとクロ高は、福井の田舎の山奥。気質が荒いのが少ないのもある。でも……」

「でも?」


「真面目さと謙虚さで、才を磨くことに余念がなかった黄金世代。そんな彼らに憧れ、畏れ、小粒ながらも、自分だけの道を切り開いた白銀世代。そして、埋もれはしても、そうやってストイックに取り組み続けるクロ高の理念を信じて曲げなかったお前たち。そして甲子園に出場したことで入ってきた、一年生という新たな才……」


 武者震いが起きた古堂。目前では、6番山本のバントを、金条が確実に処理していた。


「クロ高は、ストイックでないと生き残れない魔境なのかもしれないな。それで、今年のチームはお前がその潮流を作り上げた。鷹戸も、ほかのやつらも、それに乗せられる形で努力している」

「めちゃくちゃ光栄です」

「だから……残りの3イニング……頼んだぞ」


「はい!!」


 1アウト3塁で鷹戸は息切れをしているが、7番迫田に対して厳しいコースのストレートを投げ続ける。コントロールに少々乱れがあることを見抜いた迫田は徹底して見送るが、2ストライクのカウントになった3球目、ついに手を出す。


「打ちあがった!!」

「オーライっ!!」


 三塁線切れて打ちあがった打球を追うのは、ショート林里。スライディングしてフェンスに激突するが、膝と足首をうまくクッションにして、即座に立ち上がった。


「ファール!!」


 打球はフェンスに当たったのちにグラブに入ったと判定されてしまい、ファウルとなる。


「惜しいぞザト!」

「いけるいける!!」

「鷹戸! 抑えてるぞ!!」


 三振を取りたい金条は、インコースにスプリットを要求する。迫田がカットしにくることも想定して決めた一球。鷹戸はうなずいて――投げた。


「ボール!!」


 高め、少し危ないところにすっぽ抜ける形の一球となった。迫田は腰を引いて避けた。2ストライク1ボール。右手をグーパーする鷹戸。


(限界近いのか……? 鷹戸)


 金条はストレートを要求。鷹戸はアウトローに投げ込む――腰が引けながらもなんとか打ち返す金条。ライト方向にフライが打ち上がる。


「ライトォ!!」


 マスクを取って立ち上がる金条。三塁ランナー月守は打球の落下点にライト森下が入ったのを確認し、ベースに足をかけた。


「アウト!」


 一塁審がライトフライのフライアウトを宣告。それと同時にスタートするサードランナー月守。


「金条!! 行けるかッ!?」


 カットを介さずにライト森下からの送球を受け取る金条だったが、後ろを振り返った途端に月守の足が滑り込んできていた。


「セーフ!! セーフ!!」


 3点目が入る鉄日高校。1-3で2点のリードを取られるクロ高。エース鷹戸、三失点目。8番沢口に対してもなんとか粘りのピッチングを見せ、アウトにした。


「ナイスだ塁」

「あざす!!」

「鷹戸よく投げた」


 ベンチに戻ってきた9人。絹田監督はそれぞれに声をかける。


「よくやった、塁。良い反応だったぞ」

「あざす!」

「……よし、鷹戸……あとはレフトに……」


 絹田監督は鷹戸の右手を見て言葉を止めた。


「お前、いつ……」


 咄嗟に右手を背中に回した鷹戸。しかし、彼のそれを小泉が回り込んで右手首を掴む。


「は、腫れてる……人差し指です! 小荒井くん、コールドスプレー! 河中くん氷嚢ひょうのう、鷹戸くんの肩と手に2つ作って!」

「はい!」「はいッ!」


 ベンチが慌ただしく動き始めた。


「……古堂、次の回から行くぞ」

「はい」


(レフトを下げて古堂にするか……しかしそれでは上位打線とクリーンナップがつながらなくなる……。この2点を追う状況……守りには入れない中、鷹戸がいないとなると打撃力は著しく低下する……)

「俺行けます!!」


 2年の佐藤が手を挙げた。


「……内野……か。よし、わかった」


 そういう間にも4番大滝が打席に向かう。


「……大丈夫。この回で追いつくからよ、な、嶋田、森下!」

「はい!」

「まずは大滝さん、お願いします!!」


(とりあえず……この攻撃次第だ。ここで追いつくなら守備力を担保するためにも宮地。追いつけないなら打撃力に特化して佐藤……)

「コドー、9番に入れ。塁、今日は1安打。よくやった」

「はい……」


 選手たちの葛藤を踏まえつつゆっくりとベンチに座った絹田監督。隣に鷹戸を座らせる。


「いつだ?」

「わかりません。多分、アドレナリンが出てて……くそっ……コントロールミスしてるってわかった時点で気づいていれば……」

「痛みが出たのは?」

「7番……迫田に危ないボール投げた後です。腫れてるのに気づいたのも多分そのとき……」

「……まあ、そうだろうな。よく冷やしておけよ」


 鷹戸の元に、金条がやってくる。


「もしかして、泉中の打球……ピーゴロで抑えたときか?」

「……まあ、当たるとしたらそのときくらいか」

(何で気づいてやれなかった……、キャッチャー失格だろ)


「金条」


 絹田監督が金条に声をかける。


「気づいてやれなかった、は……大人の責任だ。お前は古堂をサポートする仕事がまだ残っているだろう」

「は、はい!」

「そして鷹戸……お前は鉄日打線相手によく投げた。どのヒットも、打った相手を褒めないといけないようなものばかり。もう少し、ストレートの回点の質にこだわっても良さそうだな」

「はい……」


 打席の大滝は、そんな落ち込むベンチの様子を見ながらも、2ストライク2ボールの並行カウントから、2球粘るというバッティングをしていた。


(宮城臨、もう7回だってのに、直球も変化球も質が落ちない……。ほんと、良い投手だ。そんなヤツと……5回まで1-1で投げ合えて、タイムリーまで飛ばした鷹戸……。ああ、アイツがあんなに一人でやれてんのに、4番の俺は何してるんだ……)


 7球目のフォーク……グリップが投手の方を向くかどうか、というところでバットを止めた大滝。判定はボール。ここでフルカウントとなる。


「……まあ、飲めよ鷹戸」


 ベンチでは鷹戸にスポーツドリンクを渡す林里。


「大丈夫だ。コドーは頼りになる男だぜ……。佐藤だって今、めちゃくちゃ打席見てる。宮城臨の球の研究を今日ずっとしてたんだ。まあ、こう言っちゃあなんだが、ベンチにいるやつって、ピッチャーじゃなくてもみんな準備してんだ。落ち込むなよ。クロ高は控えだから弱いなんてことは無い……って、みんなに信じさせてくれ」

「ザト……」


 俯いていた顔を上げる鷹戸。


「去年だって、俺ら、そんな顔して一緒にベンチにいたろ? お前はそうじゃなかったかもしれないけど」

「フッ……それもそうだな」


 鷹戸の表情に笑みが見えたところで、ほっと安堵の表情を浮かべる金条。


(そうだ……クロ高は全員強い。ベンチのメンバーでも、スタメン組も、みんなここまでストイックにやってきたんだ)


 そのとき――8球目、快音が打席から聞こえた。


「まさか!?」


 ベンチの一番前で宮地が叫んだ。「入れッ!!」と伊奈が叫ぶ。大滝は、視線を高く上げ、バットをゆっくりと投げた。そして、ゆっくりと一塁へと走り出す。その光景をじっと見つめる金条と鷹戸。


(けど……やっぱ4番……お前の代わりはいねえよ大滝……)


 スタンドに入ったボール。7回表、ノーアウトランナー無し――4番大滝のソロホームランで、1点差に追いついたクロ高。


(見てたかよ鷹戸……クロ高は……エースだけのチームじゃないって、少しは言えるよな)


 ホームに戻って両腕に力を込め、黒土に向かって叫んだ大滝。感情を爆発させる彼の言動に驚くチームメイト。


「大滝が叫んだ!」

「ははっ、甲子園でも叫んでなかったのに!」


 ネクストの嶋田とハイタッチする大滝。


「追いつくぞ、いや、追い越すからな!!」


 ベンチにも指を差し、嶋田と森下に声をかけた彼は、そのまま鷹戸のところへと向かった。


「決勝もある。ゆっくり休んでろよ」

「……フン、ナイスバッティング」


 鷹戸が左手を出してハイタッチを求めた。大滝は「サンキュ」と答え、同じく左手を出し、パンッと掌を合わせて快音を鳴らした。

 5番嶋田はゆっくりと打席に入り、宮城臨を見据えた。


(さあ、この人からどうやってもう1点取るかだけど……内野陣も守備堅いし、どうやって打つかな)


 何かと色々考えている嶋田。そんな光景を見守る森下。


(行けよ嶋田……負けるなよ)


 そんな彼とは違う表情でマウンドを見つめる古堂。


(イザナのやつ、ホームランを浴びたか……でも……)


 迫田がミットを構える。そこにドンピシャで投げ込まれるストレート。


「ストーライッ!!」


 審判の叫び声。古堂はゆっくりと息を吐いた。


(イザナはそれだけじゃ崩れない)


 2球目、嶋田が打ちに行った中で投げ込まれたシュートが、バットの根元に当たってファウルとなる。そして、3球目――もう一度投げ込まれたシュート。今度はインローの厳しい箇所。手が出せない嶋田を見逃し三振に倒した宮城。


「悪いけど、逆転劇は見させてあげないよ」


 まるで映画のヒールのような笑みを浮かべた宮城。6番森下は肩をぶるっ、と震わせた。


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