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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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37/408

第37話「Switch!」

 1アウト、一塁。2ストライクノーボール。遊び玉3つの余裕がある分、バッテリーにかなり有利な状況だ。しかも、凡打に倒れれば、ゲッツーで一気に四回の攻撃を終える可能性だってある。こんな状況でも、打者の大滝は笑っていた。

(最高じゃねえか……1点追う立場、でもホームランが出れば一気に逆転。中盤戦に入る今だからこそ、しっかりここで流れをかっ攫っていきてえ)

高月の高身長から繰り出される重い球質のストレートはスタンドに運べるだろうか……。一抹の不安が頭の中をよぎった。放たれたカーブを見送る。

「ボール!」

ほっと一息つく大滝。後藤がここでストライクゾーンへの配球を狙っていたのは確かだが、高月のコントロールに助けられた。

「どうするかな……君はホームラン狙いでしょ? ってことは、甘い球はスタンドに放られる。こういうとき、一番いいのは何かな……?」

後藤のささやき戦術が大滝の思考回路を乱していく。

(どうしたもんかな……こういう場面って、普通に考えてストレート投げてくるのかな……でもこういうとき、金条だったらその裏を掻いて2球連続カーブとか普通にありえる)

高月の投げた5球目――ゆっくりと山なりを描くボールを大滝は打った。

「(カーブ打ちやがったか!!)サード!!」

後藤が腰を浮かせてサード射場に指示を出すが、鋭い打球に射場は反応できない。

(なんつーパワーだッ!!)

レフトの捕球と共に、今宮は一気に二塁ベースを蹴って三塁ベースを狙う。

(いいバッティングするじゃん大滝……勝負強いじゃねえかッ!!)

スライディングで三塁ベースに足をつけた今宮。セーフとなる。


 「く、クソッ!!」

高月は苛立った様子だ。しかし、5番伊奈を三振に抑える。

「タイムお願いします」

キャッチャー後藤がタイムを取る。内野陣をマウンドに集める動作と共に、ファースト米田、セカンド田口、ショート荒牧、サード射場が集まる。

「ンだよ……俺がこの程度でへこたれるとでも?」

高月は不機嫌そうだった。

「高月、お前は打つ相手にはとことん良い勝負ができるし、良い球を投げるが、打てない相手だと、手を抜くだろ。俺にとってはそれが危なっかしくて仕方ない。クロ高の6番バッターのキャッチャー、金条は、チャンスでそれなりに打ってくる。めちゃくちゃ打ってるイメージもないし、小技使ったりとか、配球読みに頼っていたりとか、色んなことしてるせいでお前が過小評価していないか心配なんだ」

「そうか……でもそういう小ワザ使う系相手なら、俺の球は超有効だろうが」

「だから心配しているんだよ。お前のその自信は武器でもあるし、枷でもある。気をつけてくれよ。あと射場! 強打者相手のときは深めに守る。前の練習でやったこと、忘れてたら勝てる試合でも勝てなくなるぞ。逆に次は浅めに守る。絶妙なところに打って内野安打で出塁することのある打者だからな」

「あ、はい!」

「ちぇっ……わーったよ。(後藤はいらねえところしっかり良く見すぎなんだよ。一年の六番バッターとか絶対大したことないわ)」

6番バッター金条との勝負を始める高月。初球のストレートを打ち返される。

(はぁッ!!?)

セカンド田口の、ジャンプして伸ばした手よりもさらに高い位置に打球が飛ぶ。ライトが浅く守り、ショートバウンドの打球をしっかり捕球するも、今宮はホームベースに還った。

「っしゃあ!!」

金条のタイムリーヒットで同点に追いつくクロ高。高月の苛立ちはここに来てマックスになった。

「おい後藤!!」

「そうだな。俺も正直彼のことを見誤っていたようだ。高月の球威にしっかり堪えられるパワーは無かったが、上手く飛ばす技術は持ち合わせていたってことか……」

再びタイムを取る後藤。追加点を取りたい7番バッター小林からすると、少々苛立ちが募る。

(徹底してやがる……白銀世代のキャッチャーか……)


 「今のは俺のミスだ。わりぃな高月」

「あ、ああ……」

「次、しっかり抑えていこう」

「ああ」

福富商業バッテリー二人の宣言通り、クロ高の7番、小林を三振に抑え抜く。

(くっ……勝ち越しはさせてくれないかッ!!)


 その回の裏、福富商業5番キャッチャーの後藤陸が先頭打者である。新田の顔にも警戒の色が見える。

(初球スライダー!!)

後藤はしっかりミートさせて打ち返す。新田の顔が悔しそうな表情に歪む。しかし、ここに来てセカンド今宮がダイビングキャッチでアウトに仕留める。

「……うわ」

少々引き気味にベンチに戻っていく後藤。

「どんまいです後藤さん! あの守備は頭おかしいですって!!」

続く6番バッター射場が励ます。しかし、彼の打席は三振で終わってしまう。続く7番米田も三振に抑え、4回の投球を見事三者凡退に抑えてみせた新田。

「っしゃあ、ナイピ静ァ!」

「今宮もナイスキャッチだぜあれ!!」

「新田が好投してるんだ。バックが応えないでどうするってんだ!!」


 盛り上がるクロ高ベンチ。渋い顔をする、秋江工業白銀世代の二人。

「……俺らはマジで賢かったかもな。ずっと秋の間クロ高を研究して、あの二遊間に飛ばすのは危険だって結論に至れたのはデカイ」と江戸川。

「まあ俺からしたら関係なかったけどな」と大坂。

上背が無いため、高い打球こそ届かないクロ高二遊間の田中と今宮であるが、低い打球なら大概は捌いてしまうこの二人のことを、県内随一の鉄壁と言う。

「……あれ、秋江工業の大坂さんと江戸川さんですかぁ?」

観客席に座る江戸川と大坂に話しかけたのは、キャップを深く被った少年。

「……えっと……お前は?」

「あ、どーも。俺はハッ高のピッチャー、柏木っす」

「柏木って……柏木邦也かしわぎ くにやか!!?」

先に驚いた様子を見せたのは江戸川凛之介。ぴくりと反応する大坂。

(柏木って……ハッ高の1年ナックルボーラーかぁ)

二人の視線を、一身に浴びながら、柏木は満足そうな顔をみせた。

「柏木って先発じゃねえの? 今ハッ高試合してるんじゃないの?」

江戸川が問う。柏木は笑っている。

「大丈夫ですよ。正直リリーフの阿佐間さんでも十分戦えますし。藤崎高校は道中さえ抑えればどうってことないってコジローが言ってましたからね」

(阿佐間といいコジローといい、わからない名前を出してくるとはこいつもうざいやつだねえ)と大坂

(……ふざけた野郎だ。互いにフルメンバーでぶつかり合ってる福富と黒光をよそに……)


 5回表、佐々木を三振に倒す高月。雄叫びをあげる。

(先頭打者を三振に抑えてあんだけ叫ばれたら、打てる自信無くなるって……)

新田がそう言いながら打席に立つ。高めのストレートを打ち返すが、レフト寺田の守備の前に阻まれる。


 (2打席もやられて……俺は本当に1番バッター張れるのか?)

そんなことを思案しながら打席に立つ田中遊。今日はノーヒットだ。意気込んでバットを構えたところで、投手の交代となる。

『ピッチャー、1番高月くんにかわりまして、9番寺田くん。レフト、9番寺田くんに代わりまして、1番高月くん』

ここに来て、福富名物のスイッチピッチャーを起用してきた。先ほどまで目立たない左腕、寺田礼二をマウンドにたたせる。

「左投手かよ……」

「どう? 田中がこいつの投球を体感するのは初めてなんじゃねえの?」

「ああそうかい……(んなこといちいち考えてる暇ねえっつうの! 俺は打たなきゃならないんだよ!!)」

後藤のささやきに対して、無関心を貫こうとする田中。


 寺田の投げた初球。高めのパームボール。ゆっくりと落ちてくる球に、タイミングが合わない。

(ぐう……)

右打者から見ると、左投手のリリースポイントは見えづらい。田中は左打席に場所を変える。

「……やっぱそーくる? クロ高屈指のスイッチヒッターの実力見せてもらおうかな」

(うるせーんだよ後藤)

2球目、ストレートを打つが、ファウルとなる。そして、3球目。田中は右打席にまた戻した。低めに投げられた球。

(もらった……!)

バットを振ったところで曲がり始める。左打席に立つ田中の外角低めに沈んでいくスクリューボールだった。

(っざけんなよっ!!)

強引に打った田中だったが、打球はしっかり飛ばず、荒牧に捕球されてアウトになる。

(あっ……スクリュー当てられちゃったっ……)

寺田は、田中をしっかりと目に焼き付けている。5回の攻撃が終了したクロ高。5回裏、福富商業の攻撃が始まろうとしていた。

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