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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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36/408

第36話「それぞれのエース」

 福富商業VS黒光高校の試合は2回表――福富商業の攻撃へ。先頭打者は投げてはエース、打っては4番の高月広嗣。白銀世代である。

(甘いところはスタンドに運ばれることも考えないと……新田さんは甘いところ投げる心配は無い分、打たれた時のダメージを人よりも感じやすいから心配だ)

金条が要求した初球、低めのナックルは空振りする高月。

「勝負してこいよ!! オラァ!!」

煽る高月。にやりと笑っている。

(こらえてくださいよ新田さん……)

続いては外角低めギリギリのカーブ。新田ならそこに投げてくる――そう信じて要求した金条。しかし高月はこれを打ち返す。

(嘘だろ!?)

打球は田中と今宮の頭上を超え外野へ。センター山口の前に打球が落ちてシングルヒットとなる。長打を狙っていたのであろうか、高月は悔しそうな顔を見せた。

(畜生……微妙に芯外された。打球高めに打っといてよかったぜ)


 続くバッターは、5番後藤陸。古堂の話ではバッティングも上手いらしく、白銀世代らしい成績は残しているらしい。高月の後に彼が控えているというのは、かなり大きい。

(どこ投げても打たれそうなほどのヒッターだし、長打防ぐためにも外角低めもしくは内角低め――)

初球のシュートを打ち返されはするも、単打に抑える。ノーアウト1.2塁のチャンスを作られてしまう。

(新田さんならこの下位打線、三振に抑えられるはず。バッター集中で行きましょう!)

金条のサインに新田も頷く。

(よし)

打席に立つのは6番サード射場俊太。一年生である。

(やべえよ……荒牧さんと仙田さんを凡退させてるピッチャー相手に俺が打てるわけねえよ)

自分がレギュラーになれたのは、人よりも頑張っていたからだ。と言える自信はあった射場。高月の超近距離ノックを全て受けきった1年は、外野手で投手の寺田も含めて3人だけである。

(でも……俺は粘るぞ……せっかくのチャンスなんだ)

初球、2球目、3球目、4球目、時折ボール球も投げているのだが、全てカットしている射場。高月の全力ストレートを曲りなりにも打ち続けてきた福富のレギュラー陣にとって、見て合わせることは屁でもないといった様子だ。

(うざったいな……敬遠気味に1球投げるか)

新田が遊び玉を1球なげたその瞬間、2塁ベースにいた高月が走り出した。

「スチール!」

ショート田中が叫ぶ。さすがに見逃した射場。

(クソッ!!)

金条が送球して大滝が捕球するが、高月はギリギリのところで間に合い、ノーアウト1.3塁となる。高月は打席に立つ射場に向かって親指を立てた。

(高月先輩……)

射場は三白眼の目を輝かせながら、高月の親指を眺めていた。

(射場、お前ならもっとしっかり打てる……)

高月も視線を送る。新田がなげた6球目――――大きく打ち上げる射場。


 (外野フライか……1点覚悟だな。仕方ない)

センター山口が捕球。浅めだったが、強引に走り出す高月。山口の送球よりも早くスタートダッシュを切った彼は、金条のブロックとタッチをかわし、ホームベースに滑り込んだ。

「っしゃあ!!」

先制点を決めた福富商業。本塁生還を果たした高月は、犠牲フライによる打点を上げた射場とハイタッチをする。

「ナイスフライだ射場ァ!!」

「はいッ!!」

高月の言葉に、射場も誇らしげに答えた。そのまま高月は打席に向かう1年米田に話しかける。

「いいか米田! とりあえず粘れ!! お前ならできる!!」

「は、はい!!」

米田は大声で応え、打席に立つ。

(高月さんは……練習はクソみたいに厳しいけど、こういうときは頼りになるし、ついていきたいって思う。高月さんは、俺が知ってる中で最高のピッチャーで、四番で、キャプテンだ!!)

三振に倒れる米田だったが、フルカウントまで粘り、新田の球数を稼いだ。

「よくやったぞ米田!」

「高月先輩、ありがとうございます」

米田は恥ずかしそうに答えた。高月はにやりと笑った。


 続くバッターは、8番セカンド田口怜央。福富の内野守備の要だ。

「っしゃ打ってけよ田口ぃ!!」

「追加点欲しいぞ!!」

チームメイトが叫ぶ中、高めのシュートを打ち返す田口。新田の右側を抜けていく打球。

(まずいッ!!)

しかし、ショート田中が捕球。セカンドに送球して1塁ランナー後藤をコースアウトにした。3アウトとなる。


 2回表が終了し、福富商業が先制点を入れ、1-0となっている。1点を追う立場のクロ高。

「サンキューな遊」

「まあよ。気にするなよ。あの1点は仕方ねえさ」

「ああ、ありがとう。(仕方ねえじゃもう済まされないんだよな……もっとしっかりしねえと)」

新田は表情を締め直し次は打席へと向かうのだった。


 8番佐々木が三振に倒れ、新田の打席となるが、彼も三振となる。1番バッター田中に打順が戻ってくる。高月のストレートをきれいに打ち返すが、センター仙田の守備に阻まれ、センターフライに倒れてしまう。

「ナイス守備リュウ!!」

「サンキュー」

高月に言われて仙田は軽く返した。


 「福富の白銀世代はレベルが高いな。もしクロ高に勝ってたらあれと打ち合いか」

観客席で呟く一人の男。となりの爽やかな男が苦笑いしている。

「何でお前は俺が打たれる前提なんだよ」

「え?」

観客席で福富商業VS黒光の試合を見ているのは、大坂大磨と江戸川凛之介。先週クロ高が延長13回の大熱戦の末下した秋江工業の白銀世代の二人である。投手の江戸川は、4番大坂の『打ち合い』という言葉が気に食わなかったらしい。

「でもさ、江戸川も打ちたいっしょ? あの高月の球」

「……まあね。それに打者としても投手としても成功しているあいつは、俺にとっては目の上のタンコブでしかない」

江戸川は苦笑いした。

「ショート、セカンド、センターの守備が優れていて、ピッチャーの打球反応もいい。これは死角なしか」

大坂は冷静に分析している。

「(こいつはどうせスタンドに運ぶから意味無いんだよなあ)大坂だったら高月のどの球打つ?」

「……打つのは難しくない。ただフライにならないかは心配だ」

(あ、大坂でもそこはやっぱ気にするのか……クロ高の球威モンスターにやられた影響はあるのかもな)

大坂がこう評する男、高月広嗣によるバッティング――現在2回裏、ツーアウト1.2塁の状況だ。荒牧と仙田の白銀世代二人からヒットを浴びた新田だが、何とか精神を強く保っている。

(こいつさえ抑えれば無失点――そう思うだけでなんとかなる)

新田がなげたスライダーを見逃してストライク。2球目のカーブはボール。

(しっかり見てくるなァ……徹底して球数を稼がせる気か? そんな甘くはないぞ)

3球目のシュートはしっかりとエリアに入っている。高月はそれを打ち返した。予想以上のキレに、しっかりとミートできない。

(くっ!)

サード大滝がしっかり捕球し、そのまま三塁ベースを踏んだ。3アウトとなる。何とか3回は無失点に抑えた新田。

「っしゃナイピ新田ァ!!」

「いいぞ」

「4回は点を入れてやるから安心しやがれ!!」

白銀世代の二年生三人がそう言って新田を励ます。

「サンキューなみんな」

空は曇ってこそいたが、新田の気分は清々しいほど晴れていた。



 4回表、先頭打者は今宮陽兵。

(1番の要警戒選手になるわけだが、逆にこいつを抑えこめば勝てる希望が湧いてくるってんだ。夏とは違ってどんな球もヒットにする化物バッターも、フェンスの端からやばいレーザービーム投げるやつも、ドデカイアーチ放つ化物スラッガーもいない。こいつさえ抑え込めば……)

高月は、大きく息を吐いて初球を投げた。低めのストレート。ストライクゾーンにギリギリ入っている。

(わ……厳しいところ入れてくるなあ。さすが後藤の配球……)

今宮は唸る。2球目は、内角ギリギリに入っているシュート。

(こいつはやべえ……狙い撃ちもできそうもない)

3球目、カーブが飛んできた――

(カーブならワンチャン、ワイド広く使ってきそうな後藤のことだ、きっと……)

外角低めのカーブを打ち返した今宮。

「す、すげえ今宮さん……!!」

古堂がベンチで声を震わせている。今宮はバットを置いて一塁ベースへ全力疾走し、ヒットとなる。

(配球読んどいて良かった……。ボール球だったのかな、何にせよ、高月のコントロール甘くて、ストライクゾーンに入ってくれて助かった)

今宮は渋い顔をした。3番山口がバントをする。今宮は悠々と二塁ベースに到着し、1アウト2塁となる。



 「……3番がバント。意外や意外。でもそれは、クロ高の長打力の無さも伺わせる。せいぜい長打打ってくるのは4番大滝くらいか」

観客席から大坂が呟いた。江戸川が苦笑いする。

(それでも……俺は9点取られてるんだよなあ。今のクロ高の持ち味は上位打線を中心にした、単打による『繋ぐバッティング』だ。1番から9番バッターまでがアホみたいに打ってた夏とは違うわけだ)


 打席に立つのは四番大滝。先ほどの打席では三振に倒れているが、1点を追う立場である以上、四番としてここで打たなくてはならない。

「お願いします」

打席に立ってバットを二度ホームベースに叩く。

(今宮さんはどうして外角低めのカーブを打てたんだろう。配球読んでたのかな)

初球、内角に外れるボール。ギリギリだったため、大滝はスイングを空振りしてしまう。

(くっ……)

「……初球打ちは得意だったんじゃなかったのか?」

キャッチャー後藤が大滝を煽るように呟いた。

(くっ、この配球あっての高月広嗣さんか……コントロールが良くないピッチャー相手によくやる……)

2球目、外にギリギリ切り込むシュート。ストライクゾーンに入っている。

「……追い込まれたぜ? ふらないの?」

追い込まれた大滝に、後藤はささやき続ける。

(上等だ……!)

追い込まれた状況、大滝はにやりと笑ってみせた。

スチール(Steal)……盗塁を短く言った言葉。内野陣同士の指示に使ったりする。

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