表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
PR
35/408

第35話「白銀世代」

「ナイスボール」

試合会場でのアップは、先週の秋江工業高校との試合のときよりも緊張感があった。

(今回……相手は白銀世代が4人。こないだは最悪江戸川と大坂さえ抑えれば何とかなりそうだった打線だったが、今回はそうも行かないな)

今日先発の新田静。静かに伊東とキャッチボールをしている。

「新田、今日の調子はどうよ?」

「絶好調。そんなに暑くもないし、今日は投げ抜けるかもな」

秋空は曇っていて日差しはなく、とても程よい気温となっていた。

「まあ、俺も控えてるんだし、鷹戸や古堂もいる。思い切って投げろよん」

伊東の言葉に新田は笑って返事をした。一方、野手陣の方が軽い打撃アップに入る。

「高月の球は江戸川よりちょっと遅いくらいだ。その代わり身長高いから高低差に気をつけろよ!!」

今宮が叫ぶ。高低差があって、ノビもあって、重い球。それが福富商業のエース、高月の投球である。

「いやだねえ。俺はああいう球威系は苦手なんだよなあ。パワー無いし」

田中はそう言って笑っているが、鷹戸の球を打ち返せる打撃力があれば上等だ――と古堂は思っている。

(今日は白銀世代が多いし、先輩たちも気合入っているだろうなあ)

実際に、今宮、田中だけではなく、山口、小林、そしてベンチにいる芝や坂本など、ほかの二年生たちも意気込んでいる。


――ふっ、まあいいさ。静ちゃんを始めとして、今宮に、田中に、山口。クロ高の白銀世代はほかの高校に比べて大したことないっていうのは県内みぃんな承知済みだし。


 これは、三浜高校との練習試合の後に、鉄日高校のエース、黒鉄大哉に言われた言葉である。新田はこの時を待っていた。

(江戸川と大坂は倒した……。こうやって福富の白銀世代を上回れば、黒鉄の野郎に二度とあんなクチ聞けなくさせてやれるんだ)

投球練習にも一際気合が入る。女房役の金条が笑っている。

「新田さん、ナイスボール!!」

絶好調の新田。これなら勝てる――――と気分を高潮させるのだった。




 30分後、プレイボールとなる。


 オーダー

 黒光 1番ショート、田中。2番セカンド、今宮。3番センター、山口。4番サード、大滝。5番ファースト、伊奈。6番キャッチャー、金条。7番ライト、小林。8番ライト、佐々木。9番ピッチャー、新田。

 福富商業 1番ショート、荒牧。2番ライト、宮口。3番センター、仙田。4番ピッチャー、高月。5番キャッチャー、後藤。6番サード、射場。7番ファースト、米田。8番セカンド、田口。9番レフト、寺田。


 マウンドに立つのはエース高月。福富商業の白銀世代である。打席に立つのは、1番ショート、田中。黒光高校の白銀世代である。

「お願いします!」

田中が打席に立って叫んだ。初回から点を奪って主導権を握りたい。

(1番ショート田中遊……。対して力は無いが、足も早くて鋭い打球……。しっかりミートさせないようにすりゃ、打球は飛ばずにピッチャーゴロ……)

初球のストレートをど真ん中に投げた。田中は思わず振り抜く。

(初球ど真ん中とか舐めてんのかっ!!?)

真ん中に打ち返す田中。高月の前でバウンドするが、上手く姿勢を低くしてミットの中に収める。

(げっ、打球反応はやっ!!?)

田中が全力疾走するも、高月は冷静に対処して一塁へ送球。アウトにしている。


 「どんまいです田中先輩!!」

古堂がベンチから叫んだ。続くバッターは2番セカンド、今宮陽兵。

(こいつには要注意……つうか何投げても打ち返すよなあ)

初球ストレート。球威に負けてファウルとなる。

(あれ……江戸川でもかなり球威ある方だと思ったんだけど……さすが『金に近い男』だぜ)

今宮は冷静に見ながら笑う。2球目のカーブを緩く打ち返した今宮。

(げっ……)

流し打ち方向に飛んでいく打球はファーストの頭上をギリギリ超えて落ちていき、ヒットとなる。しかし、高月は続く山口と大滝を三振に押さえ込む。


 絹田監督は上位打線三人と大滝を集める。

「高月の球、実際に体感してみてどうだ?」

「重いです。なんつーか。鉄球みたいな」と田中。

「思ったところに飛ばないですね。緩急もつけてきますし」と今宮。

「……えっと、手元でノビてきますね」と山口。

「え……内に切り込むシュートにやられました。(何もわからなかった……何でこんなに見ているんだよ先輩たちは)」と大滝。

「そうか……お前たちが打てない限り、うちの打線はノっていかない。初球から振るのは控えて、しっかりと見つつ、甘いところに来た球を打っていけ。見た感じではコントロールはそこまで良くない」

「はい!」


 1回裏、福富商業の攻撃。先頭打者は1番ショート荒牧鉄平。マウンドに立つのは新田静。

(こいつはリードオフマン……いかなる状況にも合わせて打ってくるから……初球内角厳しいところへスライダー!)

左手から放たれたボールが、右打席に立つ荒牧の体のすぐ近くに切り込んでくる。

「ストライク!!」

ギリギリストライクゾーンに入っている。荒牧は口を開いたまま動かない。

(あれ……何じゃこりゃ、絶対外れてるだろ今の)

2球目……外にギリギリ外れたボール球を振る荒牧。

(マジかよ……ギリギリ外せるのかこいつ……噂通りのチートコントロール)

3球目……低めに外したカーブ。さすがに見逃す。

(しっかりと見極めねえとな……。ヒロが初回無失点に抑えてるんだ。俺らが初回から点取ってやれば主導権を握れるっ!)

4球目……ギリギリ外に入ったスライダーを、打ち返した荒牧。新田は打球に反応して振り返る。

「セカンッ!」

今宮が打球に対し、前進してすぐさま捕球。一塁に送球してアウトにする。

「っしゃッ!!」

今宮と新田がガッツポーズ。荒牧は悔しそうにベンチに戻る。

(二遊間強いんだよなあ……打球高く飛ばさないときついぞ)

2番宮口を三振に倒し、迎えるは3番バッター、仙田竜平。

(荒牧と宮口を凡退に抑えたってところを見る限り、やっぱベスト8以上は強いな。だがこいつは低めが得意。俺にとっては相性抜群だ)

新田も、仙田を見据え、ボールを握る。

(こいつを抑えられるかどうかが序盤の肝……金条の要求通り高め中心に)

金条が要求したのは、高めのカーブ。

(高めに……うりゃ!!)

カーブが弧を描いてど真ん中に入る。仙田は初球を見逃した。

(ほほう……真ん中か……)

2球目は低めにギリギリ外れるシュート。見逃してボール。

(やはり緻密なコントロール。低めだろうと容赦ないな……だからこそ都合がイイ!!)

3球目……カーブ。次こそ低めと思っていた仙田だったが、予想以上に落ちてこない。

(た、高めなのか!!?)

高めをすくい上げるように打ち返した仙田。扇の中で舞う打球は、新田のピッチャーミットの中に収まった。

「アウト!」

主審の声。3アウトでチェンジとなる。


 「ナイピ新田!!」

後ろから田中が声をかける。新田は笑って応える。

「ナイス配球チェンジだったな、金条」

「ありがとうございます」

今宮に声をかけられ、金条は笑った。


 「仙田がやられたか……」

福富商業の監督、内刈雅也うちがり まさや。激太の眉毛を持つこの監督は、少々この状況に憤りを覚えているらしく、上位打線三人に対して鋭い視線を向けていた。

「監督、クロ高バッテリー、配球をこの試合に向けて変えてるみたいですね。仙田からやられたのもそのためかと」

監督に意見を呈したのは、後藤陸。白銀世代のキャッチャーである。

「そうだな。あと、あの二遊間は鉄壁だ。極力高めの打球だ。いいな」

「はい!」

「この回の守備切り替えていけ!!」

「っしゃあ!!」



 2回表。クロ高の攻撃。先頭打者は5番伊奈聖也。

(この人の投球は凄い……そしてバッティングもすごいんだろうな)

伊奈はそんなことを考えながら打席に立つ。実際に彼のストレートを体感してみて思うのは、球速よりも、キャッチャーミットから響いてくる音――つまりは球威だ。

(鷹戸とどっちが上なんだろ……)

しかし、追い詰められたところで投げられた直球を打ち返すも、ピッチャー高月のミットの中に収まり、捌かれアウトとなる。

(しゅ、守備うまいなこの人……)

続く金条を三振に、小林をレフトフライに押さえ込んだ高月。2回裏、彼はベンチに戻った後、すぐに打席へと向かう。


 「おい見とけよ1年!! 新田こいつからどうやって打つか今から教えてやるからよ!!」

高月が叫びながら福富商業のベンチを見る。新田など相手にしていないといった様子に、新田は笑った。

「可愛い後輩の前で三振して恥かくんじゃねえぜ?」

煽った新田の初球、投げたのは――ナックルだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ