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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
2.秋大会決勝トーナメント
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38/408

第38話「雨天」

 5回裏、福富商業の攻撃。曇天が立ち込めているが、先発投手の新田は絶好調。本日一失点ではあるものの、変化球のキレは生きており、白銀世代のバッター以外からは一切の安打を浴びてはいない。

「どりゃっ!!」

8番バッター田口怜央――白銀世代ではないが、二年生で守備のうまい内野手である。しかし、彼は新田のキレのあるスライダーに全くタイミングが合わせられず、サードゴロに倒れる。

「怜央、こいつはつええだろ」

「やべえ……当てることすら危ういわ……」

「当てても転がっちゃいますよね」

下位打線の田口、寺田とキャッチャーの後藤がベンチ際で会話をしている。

「まあいい寺田。カーブは狙うな。お前は左だし、内角に攻めてきたシュートを打つんだ」

「わかりました」

寺田が打席に立つ。このチーム唯一の左打者であるから、新田も少し警戒している。

(今日の新田さんなら、寺田くんくらい、抑えられるっ!!)

金条の心の中の通り、寺田を三振に抑え抜いた新田。

「っしゃあッ!!」

叫んだ新田。続いて迎えるのは、1番ショート荒牧鉄平。

(今の新田さんなら……確実に)

低めのスライダー、ストライク。さすがに見逃す荒牧。

(あんなキレる変化球、初球から打てるかっての)

2球目、キレの増したカーブは一切捉えられない。

(ストレート投げないだろうし、ここは変化球一本に絞って……)

そう考える荒牧の思考の裏を掻いたのか、金条はストレートを要求。新田は速球を投げた。

(あっ……!!?)

タイミング遅れて振り抜いた打球は一塁線方向へと流し打ちとなる。ファースト伊奈の頭上を越えると共に、荒牧は猛ダッシュした。ライト小林の捕球。荒牧は一塁ベースで止まった。

(ライトの肩が雑魚だったら走るんだけどなあ)


 (うーん、やっぱり最後は変化球にしておいたほうが良かっただろうか……。タイミングは合ってなかったけど、流し打ちがうまかったのは失敗だったな)

金条が先ほどのヒットを分析する。2番宮口が打席に立つと、すぐに切り替え、新田にサインを送る。初球カーブ。これを読んでいたと言わんばかりに盗塁に走る荒牧。

(カーブは球速が遅くなる……これを利用しやがったなっ!!)

キャッチャー金条が送球しようと腰を上げたところ、そこをバッター宮口がバントでボールをキャッチャーミットに収めさせない。

(送りバント――いやこれはっ!!)

三塁線ギリギリに転がる打球をチャージしようと大滝が走る。バント処理練習はしてきた。新田もベースカバーにサードへ走る。荒牧も二塁ベースを蹴って三塁へ向かう。

(真っ先にサードに送球、送球、送球――)

捕球――そして送球。この一連の流れをしようとした大滝だったが、ミットで拾い上げたボールを右手に持ち帰る際に、取りこぼしてしまう。

(しまっ――)

「大滝!」「ファースト!!」

サードにベースカバーに言った新田からの声と、キャッチャー金条の指示。大滝はファーストに投げるが、伊奈の捕球間に合わず、宮口はセーフとなる。

「うっしゃあ!!」

2アウトまで追い込んだクロ高だったが、荒牧のヒットと宮口の内野安打によってランナー1.3塁のピンチとなる。

「新田さん……すいません」

大滝が申し訳なさそうに言った。しかし、新田はどうってことないといった表情で笑った。

「謝るべきは今じゃない。もし、ここで俺が点を取られ、その点のせいで負けた時にしてくれな」

新田の言葉を、大滝はぐっと噛み締める。

「送球のこと考えるのは捕球してからって、監督いつも言ってたろ」

大滝の胸をグーでトンと叩く新田。


 「……今のエラー、もったいねえな」

大坂は呟く。腑抜けた声だ。

「確かに……」

「レギュラーが失策してるようじゃあ、黒光も終わり近いな」

江戸川に合わせて、初巾高校の一年生エース、柏木邦也も言った。

「(なんでこいつは普通に俺たちと一緒にいるんだ……?)にしても、今日の新田、キレてるな変化球」

「確かに……」

大阪の言葉に、また同調した江戸川。

「あ、雨だ……」

一番に気づいたのは、柏木邦也。曇り空から水滴が、ぽつりぽつりと降り注ぎ始めていた。



 この雨は、幸運にも、変化球主体の新田に有利に働くと思われていた。

「雨が振っている。こういう状況ではイレギュラーな場面も増えるだろう。普段以上に一挙一動に神経を注ぎ込め。このトーナメント勝ちあがりたければ、そこからだ! チーム全員で意識を高くしていけっ!!」

絹田監督がそう言って、最終的に打席に向かう今宮に話しかけた。

「狙いはストレートで。雨天コールドがあるかもしれない。この回で追加点が出せれば相手のメンタルにダメージを与えられるぞ。先頭打者として、キャプテンとして、しっかりこの場面、打て」

「(監督は本当に俺にプレッシャーかけるの好きだな……)はい」

今宮が打席に立つ。ピッチャーは高月に変更していた。

初球高めに外したストレートを見逃す。今宮はにやりと笑う。

(雨のせいか、ノビが落ちてる。打ちやすくはなったな)

「……ノビてないと思ったろ? 次から投げると思うか?」

後藤のささやき戦術がここでも発揮される。

「はっ、生憎こいつの一番の持ち味が直球の球威であるならば、その持ち味を殺しかねないこの雨天に感謝すべきだね」

「ベラベラと……」

2球目のシュートも、内角に外れボールとなる。

「でもさ、変化球キレてると思わない?」

(確かに……?)

打席で囁く後藤。彼の言葉に今宮も息を呑む。

「新田だけじゃないんだぜ、元々の変化球がキレるやつってのはよ」

(なるほどな……こいつの変化球のキレも元々優れている。だから雨になると余計にってやつか)

3球目のシュートがギリギリ外角に入っている。見逃してしまった今宮。

(くっ、今の入っているかよ)

1ストライク2ボール。今宮は息を大きく吐く。ぽつぽつと降り注ぐ雨が目視できるほどの強さに変わり始めた。

(雨、強くなってきたか?)

黒いグラウンドも、雨が染み込んでさらに黒くなり始めている。観客のざわつく声も、応援の声から、雨を心配する声に変わっていた。


 4球目、外角に外れたストレートに手が出てしまう今宮。空振りでストライク。2ストライクと追い込まれてしまう。ベンチも心配の声が上がっていた。

「……今宮がボール球に手を出すなんて、珍しいな」

「焦っているんですかね」

坂本と古堂の同中コンビが会話している。

「……静の好投に応えたいんだろうな」

田中はわかっていた。今宮が感じているプレッシャーを。


 (勝つって決めたんだろ……ハッ高にも、鉄日にも、全国の奴らにも……!!)

5球目のカーブ、今宮が振り抜いた。バットにかすったボールは、インフィールドフライ(内野に打ち上がった浅いフライ)となる。サード射場が冷静に捕球して、アウトとなる。

(はぁっ……畜生ッ!)

ベンチに戻ろうとする今宮の肩を、次のバッターの山口が優しく叩いた。

「プレッシャー、キャプテンだからって全部一人で背負い込むなよ」

「……山口」

「打たなきゃならないのは、僕も同じだからさ」

山口は糸目で細い目をさらに細くして笑った。彼が無言で差し出した拳に、今宮も応える。

「わかった。頼んだ」

背中を向けたまま放った今宮の言葉は、雨の中打席に向かう山口に聞こえていたかはわからない。それでも彼は、不敵に笑って打席に立つのだった。


 (雨が降っているから配球を変えたな。ストレートは外したところにしか投げられていない)

山口は先ほどから今宮の打席をしっかりと観察していた。しかし、福富のキャッチャー後藤は初球からストレートを要求。山口は見逃してストライクとなる。

(な、何……)

先ほどの観察に対して、疑心暗鬼に陥る山口。しかし、それを跳ね除けたのは、彼が感じていたプレッシャーだった。


 2球目に投げられたカーブを、しっかりとミートさせて打ち返した山口。センターの前に落ちてシングルヒットとなる。

「は……」

ピッチャー高月も驚いた様子だった。

「……やるな……目立たないけど白銀世代に数えられるだけのことはある。しっかりミートしてるんだもの。強いよあれは」

「……そうですよね、俺も驚いてますよ。あんなに変化球ミートできるバッター、さすが白銀世代だなって思わされますね」

山口を評した後藤に、打席に向かってきた大滝が話しかけた。

「……でも、雨の中で変化球がキレてますけど、普段の新田さんの足元にも及びませんよ」

「はっ……よく言ってくれるぜ」

後藤が笑い飛ばした。要求した初球のシュート……内角ギリギリに入っているそんな球を、大滝はフルスイングで打ち返したのだった。

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