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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
1.秋大会
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24/408

第24話「拮抗」

 センター楠成が打球を確認して後退する。ギリギリ届くか届かないかだったが、何とか飛びつく。しかし、グラブの中に打球は収まらず、弾いてしまう。

「だぁ! 惜しい!!」

歯を食いしばってすぐに立ち上がり、打球を右手でそのまま掴んで送球した。伊東が走って三塁ベースを蹴る。今宮も続いて三塁ベースを蹴る。既に三塁ベースにいた彼をホームでアウトにすることはできないだろう。しかし、今宮くらいなら――そう言った想いでセカンド杉が打球を受け取り、中継を果たしてホームへ送球する。

(ぐっ……間に合うか!!?)

ホームの目の前で溝口が立ちはだかる。今宮はブロックをかわしてホームベースをタッチした。

「っしゃああ!!」

吠えた。ベンチにいる選手たちとハイタッチする。4番大滝のタイムリーツーベースヒットで逆転成功だ。


 溝口が大きく息を吐いて立ち上がり、江戸川の方をみた。

「大丈夫だ。次の回、大坂が回ってくる。それに……お前も逆転の一打、打ちたいだろ?」

「ああ。でも、もうこの回に点はやらん」

「よろしく頼む」

続く5番伊奈をショートゴロに抑える。

「ナイス畑中!」

「ありがとうございます!」

(うしっ……)

畑中の言葉。江戸川も手応えを感じている。6番金条には打たれるが、サード大場が体を張って止め、山口、大滝の進塁は防ぎ切った。2アウト満塁の場面で、打席には7番小林。二回表に先制タイムリーを決めている。

(大丈夫だ。お前なら……)

溝口が自信に満ち溢れた表情で江戸川を見る。ストレートのサイン。151kmのストレートが記録され、小林は空振りする。

(ここに来てなんつーストレート……)

そして、2球目のスライダーも空振りする。3球目。落ちるフォークボールで小林を三振に打ち取る秋江工業バッテリーだった。

「っしゃナイスピ!」

「サンキューリード」

江戸川と溝口が互いにグラブを合わせる。5回表2アウト満塁のピンチを、見事凌ぎきって見せた。


 5回裏の始まりを待つクロ高ベンチ。古堂が二年生の坂本に話しかける。

「ああいう本格派のピッチャーこそ、キャッチャーの技量が試されるってよく言われますよね」

「そうだな……」

坂本は気難しそうに顎をさすりながら、ベンチにもどる溝口を見ている。

「マジであのキャッチャーは影の立役者って感じだな。江戸川、大坂と目立つ選手がいながら……」

打席には2番畑中。三塁線ギリギリのセーフティバント。実戦に慣れていない伊東は対応が少し遅れる。

(畜生! あんなにバント処理練習したのに!!)

少し手間取ってしまったことを悔やみながら送球するも、畑中の足が一歩早く、セーフとなる。

「大丈夫です! 落ち着いていきましょう!!」

金条が声をかける。大坂を控えてランナーはなるべく貯めたくない。5番大場は2打席1安打。最悪、敬遠も考えていた。

(次が肝心ですから、頑張りましょう、伊東さん)

続く3番バッター里田を、フォークボールを巧みに織り交ぜ三振に切って取る。

「ナイスです伊東さん!」

「ふー」

伊東が大きく息を吐いて金条から送球されたボールを受け取る。そして来る4番、大坂。新田の投げたボール球からホームランを打った化物だ。観客の歓声も先ほどよりも大きく聞こえる。

「さあ、行こうか」

腑抜け声で金条に話しかける。やるきがなさそうにしか見えない。それでも彼はホームランバッターだ。甘いところに投げれば一発で打ち込んでくる。4-3と1点のリードしか持たないクロ高バッテリーはどうしても慎重に行きたかった。

(逆にここでゲッツーなんてとれたら一気に流れはこっちのものだ。でも……伊東さんは試合にたくさん出ているわけじゃないし、この打席で戦うのはリスキーだな)

絹田監督は動かない。金条が伊東を見ながら、敬遠のサインを送った。

(すみません、ここは敬遠で行きましょう)

金条が眉を潜めながら訴えた。伊東は口を一文字に閉じて頷く。


 観客からのブーイング。大坂はフォアボールによる出塁となった。敬遠である。

「大坂のあの特大アーチみたかったぜ!!」

「しかし、あの二年生ピッチャー、リリーフとして出てきてるんだからもうちょっと頑張れよ。先発の新田も一発打たれて即交代だし……」

「1点差……乱打戦になるのは抑えたかっただろうしなあ」


 秋江工業高校のベンチは全く反応を変えない。むしろ敬遠を想定していたかのようだった。

「あーらら。打てなかったか大坂」

「そりゃ打たせてもらえないだろ。クロ高のキャッチャーは慎重派だ」

「まあその内後悔するよ。うちの5番の力にね」

紅葉監督は、5番大場を呼ぶ。

「いいか、お前の日々のバッティングを見せてやれ」

「はい!」


 「ウチは大坂と江戸川だけじゃねえぞ!!」

5番大場は打席で叫んだ。金条は気にするなという表情で伊東に対して首を振る。

(大場さんがこういう場面で打つバッターだってことは百も承知……でも伊東さんなら抑えられる可能性があるのは間違いなく――)

初球外に外したストレート。大場がバットを振ると、投球が掠ってファウルグラウンド上を鋭く飛んでいく。

「ファウル!」

2球目のフォークは低めのボール、大場はしっかりと見逃す。

(この場面……打てなきゃまずいからな……慎重になっているだろうか? だったら)

金条は高めの内角にストレートを要求した。伊東は頷く。

(お願いします!)

金条のミットに向かってボールを投げた伊東。最高によくノビるストレートを投げたのだが、大場はそのボールを叫びながら打ち返した。

「どうだぁゴルァ!!」

ライト小林が深めに守っていたが、打球はふらふらと風に揺られて小林のグラブの中には収まらずに地面に落ちる。その間にも畑中はホームに一直線で帰る。

(まず……)

走る大坂をアウトに取ろうとして送球。少し逸れたセカンド今宮が捕球し、ホームへ送球するが、タッチは間に合わずセーフとなる。大場のタイムリーツーベース1アウト2塁だ。

「わりぃ、送球逸れちまった……」

小林が右手を立てて今宮に謝る。

「気にすんな!」

今宮は気丈に言うが、彼にとっての気がかりは打たれた投手である伊東、そして大坂敬遠という選択をとった金条の様子についてだった。


 監督がタイムを取る。投手の交代だ。

(マジかよ……)

伊東がブルペンから歩いてくる鷹戸を見て残念そうな顔をした。二点取られたから仕方ない――と割り切れなかった。


 無言でピッチャーミットを突き出す後輩の鷹戸。背番号は11を背負っており背負う数字に関してだけ言えば、自分の方が優っていた。だから、そこしか優っていないという現状が、ただただ悔しかったのだった。

「……リリーフ、後輩に任せんの、心配だわ」

伊東は強がって苦笑いした。しかし、鷹戸は無表情で頷くと、ボールを受け取ってマウンドに戻っていった。

(1年生だからってなめんじゃねえぞ。秋江工業)

鷹戸は、今打席に立っている6番溝口ではなく、大坂大磨の方を見ている。打席に立つ溝口からしたら、心中穏やかではない。

(登板早々打席無視とはやってくれるじゃん……確かに俺だって彼からは打ててないけどさ……)

初球のストレートをしっかりと見る。次のストレートはボール。3球目、ノビるジャイロボールを打ち返す溝口だったが、セカンド今宮がライナー性の打球をノーバウンドで捕球する。

「……ついてねえな」

今宮のファインプレーによって溝口をアウトに仕留める。続く7番志島もゴロに抑えて5回裏の守備を終えるクロ高。


 秋江工業はリリーフ登板してきた鷹戸遥斗を警戒した様子で円陣を組んでいる。

「江戸川、後半しっかりと投げぬけるか?」

「はい」

「奥田も控えている。落ち着いていけよ」

紅葉監督が激を入れる。

「9番鷹戸……あいつは普通に打てるから気をつけろよ」

「ああ」

溝口からアドバイスを受け取り、江戸川は笑って肩を回す。

「今日はなんか打たれてる気がするけど、不思議と疲れていないんだよなあ」


 6回表、8番佐々木から始まる。江戸川のキレのあるスライダーの前に二者が三振に倒れる。1番田中がヒットを打つが、2番今宮が三振に倒れたため無得点で6回表を終える。

 対しての6回裏も、杉がサード大滝のエラーで出塁するも、楠成を三振、江戸川をピッチャーゴロに倒し、そしてここまで凡飛も三振もなかった畑中をも三振させた鷹戸。

「つ、つよい……鷹戸遥斗」

江戸川と畑中は練習試合での鷹戸の投球を見てはいない。それもあるだろうが、やはり白銀世代に数えられる江戸川を討ち取ったのは大きい。勢いづくクロ高は、このまま7回表を迎える。

「……江戸川凛之介、なかなか良いピッチャーだね」

「だな」

山口と今宮が会話する。

「山口……お前あれ打てるか?」

「チェンジアップ?」

「ああ。5回に遊に投げてたろ。投げた瞬間はバッテリーどちらも驚いていたみたいだから付け焼刃程度のものなのかもしれないが……」

「警戒しておくに越したことはない。一応頭の中に入れておくよ」

余計なことを考えると、球速のあるストレートへの反応は少なからず遅れる。しかし、山口なら打ってくれる――そう信じて今宮は山口にこのことを話したのだった。

(頼むぞ山口……)


 黒光4-5秋江工業、という拮抗した試合の中始まった7回表。先頭打者の山口。

(初球はカーブ……)

山口は見送ってストライク。2球目のストレート――切ってファウルとなる。

(ラストチェンジアップ持ってくるかもしれないな)

そして3球目――投げてきたのはスライダー。山口はギリギリのところでファウルに切ってとる。

(……ちっ、これじゃあダメだな)

4球目のストレート……低めに外してボール。5球目のフォークも外してくるが、山口はしっかりと見極める。

(さあすが……白銀世代の3番バッターは違うな。溝口、あれ投げてみねえか?)

江戸川が視線を溝口に送る。溝口は全てを理解したかのように笑ってサインを送る。もちろん江戸川はそのサインに頷く。

(き、来た!!)

投げられたのはチェンジアップ――ストレートが頭によぎっていたため振り始めてしまっていたが、ぐっと足を踏ん張ってこらえる山口。

(俺は……今宮に事前に忠告されてるのに、ここで打てなかったら、ただの馬鹿だ!!)

そう、ゆっくりとやってくるボール球。高めに浮いているので打ち頃の球ではある。ぐっと堪えて打つことができれば――山口の思考回路に従うように体が動く。

(行けっ!!!)

バットを振り抜いた山口。打球はレフトの目の前で落ちた。

「っしゃあ!!」

山口がヒットで出塁した。迎えるバッターは大滝真司――本日既に4打点だ。

「お願いします」

静かにつぶやき打席に立つ。見据える先の江戸川の表情も、先とは違って見えた。

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