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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
6.GW
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153/420

第153話「アツさ」

 息が詰まるような重圧に耐えながら、大滝真司は打席に立つ。グラウンドがやけに広く見える。


「ふぅ……」


 大きく息を吐いて、目の前に立つ松下巧介を見据える。


(ここで打ったら本物だ)


「さあ、気づけよ……お前自身の“才能”に」


 山口はネクストから呟いている。バットを素振りしながら――


(アウトローにスライダーで。様子見ってやつですよねー)


 村松はサインを送る。松下は頷いて、投げ込む。逃げていく球に対して、大滝は食らいつくようにバットを外角に振り込む。一塁線を切れてファウルになる打球。しかし、しがみついてでも打ち返そうというその気概に、ベンチは盛り上がった。


「初球からいくじゃねえか! いいバッターじゃん!?」


 芝と伊東が中心となっている。


(打てよ……大滝ッ!!)


 伊奈や古堂も、ベンチから祈るように見つめている。


(チームのみんなが……俺の一振りに……期待しているッ!)


 松下が投げ込んだストレート――ノビがあまりに余って、高く浮いてくる――


(もらっ――)


 間違いなくミートした打球。芯を食って、打球は遥か高くへと打ちあがる。


(も、もらったッ!!)


 大滝は最低でも犠牲フライになる高さを確信した。三塁ランナーは今宮。多少の無茶は愛嬌できると判断した。


(た、高めに浮いた松下サンの最速ストレートを……叩かれたッ!!)


 村松は焦っていた。松下のストレートは、早すぎるがゆえに芯を食ってしまうと逆に飛んでしまうことを知っていたからである。



 センター中島はゆっくりと後退して打球を追う。


(高さは余裕だよなあ……ん?)


 フェンスにぶつかる中島。打球はそのまま、自身の真上を通過していく。


「あ……入ったッ」


「ぎゃ……逆転……」

「ま、満塁……」

「よ、四番の……」

「ホームランが出たぞッ!!」


「うおおおおおおおッし!!」


 クロ高ベンチが沸く。大滝の打ち上げた打球は、見事スタンドインし、逆転満塁ホームランとなった。


「5-4か……」


 塚岸はサードで座り込む。


「松下さぁん、大丈夫っすかあ?」


「大丈夫だ……問題ない」

「まあ、最悪俺らで点返せるから、安心してればいんじゃね?」


 浦部が松下の元に駆け寄って肩を叩く。


「こういう日もあるって……だろ?」

「だな」


「松下サン!! ナイスボールなんで、どんどん投げてきてください、あれは事故です」


 村松も気にしていないと言った様子で声をかける。



 そんな松下が調子を崩すわけもなく、続く山口と伊奈を完璧に抑え、何とか6回を終えた。



「こんなにいいバッターがいるとは……暗黒世代も、すっかりと侮れんくなったなあ」

「そうっすよね」

松下の言葉に、右の拳をぎゅっと握る塚岸。さっきは簡単に凡退した彼だったが、今になってそれをしたことを後悔している。


 味方の援護を受け、鷹戸のピッチングにもキレが戻りつつあった。松下が長打を見せるも、後続をシャットアウトし、無失点にする6回裏。しかし、対する桐陽学園も、下位打線を確実に三者凡退にしとめ、7回表を無失点で切り抜ける。


「鷹戸が粘ってる。後半戦、戦い抜くぞ」


 今宮の言葉に、全員がうなずく。7回裏の守備――打席には1番中島が立っている。


 変化球を織り交ぜながら、簡単に追い込むクロ高バッテリー。調子が上がってきているのか、鷹戸の顔は、どこか笑っていた。


(もう、こうなった鷹戸は止められない。この回投げぬいて、気持ちよくコドーに交代してやろうッ!!)



 鷹戸のストレートは本日最速の151km/hをたたき出し、中島を三振に切って取る。


(勇吾さんが簡単に三振した――つうか、松下サン並みのストレートじゃん)


 続く村松も、セカンドフライに倒れ、2アウトになる。


「……5-4だろ。俺が打って聖也が返せばいいじゃねえか」

「……浦部――」


「ケガ明けの合宿――最後の試合を負けて終わっていいわけねえだろ」

「……だな」


 鷹戸と浦部が対峙する。


(この人は、最初こそ綺麗に打ち返されたけど、リードを少し工夫すれば簡単に打たされてくれる印象はある。ミート力高くてパワーもあるから、読まれてどかんとやられさえしなければ……)


 低めに集めた投球。2ボール1ストライクになったところで投げたストレートに、しっかりと合わせて打ち返す浦部。


(これが――桐陽じゃい!!)


 引っ張った打球はセカンド今宮の頭を越え、ライト前に落ちる。綺麗なクリーンヒットだ。


「しゃおらッ!(お膳立てはしてやったぜ……聖也)」



 4番、岡田聖也が満を持して打席に立つ。


(3番浦部さんに比べたら、三打席連続ヒットで良いイメージなんかまったくわかないけど……ここで代えられるのはどうしても嫌っぽいな、鷹戸)


 金条は鷹戸の表情ですべてを察し、初球、勝負に出る。


(インコースにジャイロボールだッ!!)

球はジャイロ回転をしながらノビていき、一気に岡田の手元までやってくる。


「うおりゃああああ!!!」


 フルスイングで応える岡田。


 バットとボールがかすめる音。打球は高く上に上がる。

「上!」


 金条がベンチからの声に合わせて首を上げた刹那、金網フェンスのなる音。打球はそのまま真っすぐ落ちてくる。


(なんて打球の速さだ)




「尾月監督――」

「どうした、松下」


 ベンチにて、監督である尾月に対して、松下が話しかける。


「俺、この試合完投させてください」

「……ふん、初めからそのつもりだが」

「……どんだけ点取られても、俺らが逆転するまで……投げ続けます」


(岡田や浦部に影響されて、松下も珍しくアツくなってやがる……。夏大前に良い所と試合が組めたもんだぜ……なあクロ高。お前らのアツさはどっからきてるんだ?)




「おせーッ! 鷹戸!!」

「負けんじゃねえぞぉおおお!!」


「打てよ岡田ァ!!」

「四番の実力見せてくれェ!!」


 両サイドのベンチから声が飛び交う。


(神宮大会前に故障してチームに迷惑かけまくった。だから……夏は恩返しをさせてくれッ!!)


 ツーシームを振りぬく。三塁線ギリギリを強く跳ね、ファウルになる。


「くっ……これもファウルか」


「仕留めきれェ!」

「タイミングあってきてるぞぉ!」


 盛り上がる桐陽学園のベンチに、岡田も気合を入れなおす。


(よしッ……)


(何でこんなに熱くなってるんだか……)


 鷹戸は一人冷静だった。金条が構えたアウトローの落ちるジャイロボールに、首を縦に振って投げ込む。


(ケガ明けの春……誰よりも不安だったけど、監督は代打でも、後半の守備だけでも、チャンスをくれた。この合宿でも……ヒットが出ない試合でも、誰も文句言わずに……俺を四番に置いてくれて――感謝してもしきれないぜ、桐陽学園!!)


 流して打ち返す。打球はするどくライト線を飛んでいく。小林が滑り込む――が取れない。


「くっ!」

「ファール!!!」


「あっぶねえ……」


 今の打球には、お互いが肝を冷やした。


「ドンマイライトぉ!」


 ファースト伊奈が後ろを振り返って声をかける。そして、他の野手たちも、声を掛け合っていく。


「次は打ち取れるぞッ!!」

「ああ!!」


 鷹戸も自然と周りに合わせて昂っている。ここで金条のサインを見て、鷹戸は強く頷く。


(本当に粋な捕手だな、お前も)


(いいチームだなッ……クロ高ッ!!)


 フルスイングで投球に応える岡田。ワンバウンドの低い投球――スプリットに空振りした。


「ストライークッ!」


 三振に倒れる岡田。悔しさの中にも、どこか清々しさを感じる彼に、誰も文句をいう者は無かった。



「ナイスピだぞ鷹戸ぉ!!!!」


 田中が叫ぶ。

「ええ、まあ……金条が相変わらず冷静で助かりましたよ。インにリードしたときは肝を冷やしたが」

「すまんすまん。お前の球ならいけるって思ってさ」


円陣を組み、今宮が口火を切る。

「とりあえず、流れはだいぶもらった――こっからの後半戦、守りつつ、攻めつつ、点を稼ぎつつ、勝つ!」

「うしッ!」


「コドー、次からだ」

「はい!!」


 投球回数7に対し、失点4。鷹戸遥斗はここで降板した。



 8回表、先頭打者は今宮。


「この回、今宮さんから回ってくること多いっすよね」

「ラッキーなことこの上ないがな」

佐々木と小林が話している。


「んで、どうなんだ? 佐々木。打てそう?」

「いえ、全く……タイミング取るだけでてんやわんやです」



 しかし、上位打線はもう、松下をとらえ始めている。


(じっくり時間かけて、一球一球集中してれば俺でも打てるッ!!)


 今宮はしっかりとアウトコースのストレートを打ち返す。タイミングをばっちり捉えた打球は右中間を強く跳ねた。


「回れッ!」


 ランナーコーチが回す。一塁を蹴って二塁を狙う今宮。ライト原が捕球して二塁へ送球する。


(刺せるだろッ!)


 スライディングする今宮。セカンド工藤の腕の合間を縫うようにベースに足を入れた。


「うおおっ! ナイスライッ!」


 クロ高ベンチは盛り上がる。


「いや、原も工藤もナイスだ。相手がうますぎた」

「それはあるけど、悔しいよ」


 悔しがるセカンド工藤。ショートの浦部が励ます。


「次とりゃあええ」



 続く小林をフォアボールで出塁させてしまう松下。これには村松も少し気がかりになったところがあり、タイムを取る。


「松下サン、フォアボールなんて珍しいやないですか」

「ああ。だが、俺の中で何か掴めそうではある。このままいかせてはくれないか?」

「わかりました。エースの要望にお応えするのが、キャッチャーの仕事なんでね」



 松下の燃える目を見つめながら、村松はマスクをかぶりなおす。


(ほんなら、松下サン……つかめそうな何かとやら、見せてもらいましょーか)



 田中が打席に立つ。先ほどはタイミングをばっちり合わせたヒットを打っており、自信もつけていた。そんな彼に放たれる――松下の初球――


 振りかぶって投げる動作に入ろうとしている松下。そんな彼を見据えながら、タイミングを取る田中。白球が松下の手から放たれる。


「!?」


 瞬時に鳴り響くミット。


「ストライク!」

「は、はええ」


 155km/hのストレート――田中のアウトコースギリギリに突き刺さる。全く手が出なかった田中。


(ここに来て……こいつ……)


「やっと……つかめたぞ」

手応えを感じ、右手拳をグーパーする松下。ネクストに座る大滝も、目を見開くほかないのであった――


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