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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
6.GW
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154/420

第154話「松下巧介」

8回表、ノーアウト1.2塁。クロ高は再三のチャンスを作っていた。打席には3番の田中。カウントは1ストライクノーボール。次に投げられたのは、高めのストレート。


(ぐっ!)


 強くバットを振るが、完全に振り遅れた空振りになる田中。冷や汗をにじませる。


(や、やべえ……)


(もう、もらったよな)


 松下が投げた三球目、低めに外れたシンカー。インローに落ちてくる球で、少し遅く、タイミングが合ったと思って振ってしまう田中――外れたボール球がバットに当たるわけも無く、しっかりとワンバウンドで捕球した村松に背中をタッチされ、三振に倒れた。


「よし……」



 帽子をかぶりなおす松下。投球の勢いでずれているのだ。


(さっきまでは帽子をあんなにいじらなかったのに……松下の野郎、本気で何か掴みやがったか?)


 センターの中島が訝しそうに外野から眺めている――打席にいる大滝も同じだった。


(田中さんがなすすべなくと言った感じの三振……俺はどうする?)


 先ほどホームランを打っている男。バッテリーが警戒しないわけがない。初球、様子見で高めに外した球を要求する村松。しかし、あまりのストレートのノビに、空振りする大滝。


(結果オーライ……さっきの3番の三振が効いてるッ!)


(最低限仕事しねえと……)


 大滝はバントの構えをする――しかし、当たらない。


(バントすら……させてもらえないのか?)


 一気に不安に叩き落される大滝――そのままインコースのストレートに手が出ず、見逃し三振となる。



「このまま三者連続三振は、流れを与えちゃうよね」


 打席に向かう山口。対するバッテリーは、クリーンナップの二者連続三振を受けて、自信ありげな様子だ。


(このまま流れもらっちゃいましょう)


 初球のストレート。インコースに入ってくる速球は見逃す山口。


(こんなの振ったら、当たったとしても前飛ばないでしょ)



 松下が投げる二球目、次は高めに浮いた球。見逃してボール。


(全く……僕は一か所狙い撃ちだってのに……)



 そして投げられた三球目――インコースにシンカー。これはカットしてファウルになる。


(全く……厄介だよ……タイミングがようやくあってきたってところでさあ)


 追い込まれながら、投げられたアウトコースに外れたストレート。これも150km/hを裕に越えた速球である――


(外!? 狙いッ)


 ベースに向かって大きく踏み込む山口。鋭くバットを振りぬく。


(力のある重い球は――逆らわない)



 ライト方向に打球を流す。弱い打球だが、しっかりとライト前に打球が落ちる。


(逸らさないッ!)


 ライト原はしっかりと捕球し、今宮の本塁帰還を阻止した。


「ナイスバッティング!!」

「すげえなあ山口さん」


 満塁の状況を作り出した山口。しかし、松下は全く動じていない。


(次で抑えな、どっちにしろ負けるねん)


 続く伊奈が打席に立つも、ストレートの力押しに負け、三振に倒れる――


「っしゃおらぁ!!」


 ヒットを許してもなお、ピンチをしのぐ松下。取ったアウトは3つすべて三振によるものである。


「なぁんか……ヤバいやつ調子に乗せてしまった感じするなあ」


 今宮がベンチでグローブを手にしながら呟く。それを聞いていた金条。


「打線も乗ってくるかもしれないっすね。様子を見ながら慎重に行こうと思います。……行くぞコドー」

「あったりめえよ」


 古堂はすっかりと準備ができている。速球派右腕鷹戸の次であるが故、タイミングをずらして慎重に攻めていくことをたくらむ金条。


(先頭打者は塚岸――普段はやる気ないけど、やる気あるときはヤバいからなあ……アウトコースで様子見かな)


 アウトコースに構える金条。構えたところに投げる古堂。ミットが鳴り響く。


「ストライクッ!」

(ほぉ……思ったよりいい球やん?)


 腰を少し低くし、バットを構え直す塚岸。


(やる気スイッチ俺のはどこにあるんだろ~?)


 続いて投げられたのは、インコースに切り込んでくるシュート。手が出ない塚岸。


「ストライクッ!」


(ガンガン攻めるじゃん)


 塚岸の思っていることに対し、金条も同感であった。


(古堂の野郎、慎重さが欠けるなあ……もう少し低めに投げてほしいぜ)


(松下サンのあんな球見て……抑える方が無理だぜ!)


 そんな古堂の様子に、さすがに呆れた金条。諦めて投げさせたインコースのストレート。


(アツい球じゃねえかッ!!)


 塚岸は引っ張り込んで打ち返す。ライト方向に深く打球が飛ぶ。


「んなッ!?」


 全員がライトスタンド側を見る――フェンスに強く跳ね、ラインぎりぎりに打球が転がる。


「フェア!」

「クソッ!!」




 ライト小林が拾うも、塚岸は二つを回っている。


(暴走してんじゃねえかッ! 肩なめんな!!)


 小林の鋭い送球――滑りこむ塚岸。ショート田中がカットで受け取る。


「ふん、スリーベースヒットってやつ?」

「んなッ……」


 三塁ベース上から古堂を見る塚岸。


(暗黒世代……着実にどこの高校も強いのが育ってやがる……)


 そして、松下がスクイズを試みる。

(仕掛けてきたッ!!)


バント処理に走る古堂。転がる打球は伊奈の方へ。


「俺がいくっ!」


 伊奈は打球を拾って金条に投げるが、塚岸が上手く滑り込んでセーフになる。


(ふぅ……ま、松下サンの為にも点返したらなな)

(次ッ!)


 しっかりとファーストのベースカバーに走っていた古堂。そこへ投げる金条。バッターランナーの松下は何とかアウトにし、1点を取られるも1アウトを取る。


「っしゃおらああ!!」


 塚岸はベンチに戻ってきてハイタッチを交わす。岡田が塚岸の頭を掴む。


「良いんじゃね。あのスリーベース。俺は泥臭くて好きよ」

「俺もじゃ」

「俺もやな」

浦部と中島も続く。


三年生の先輩たちに褒められ、少し得意げになる塚岸。そんな彼に一言物申す村松。


「やる気出すの遅すぎでしょ。何回凡退してんのそれで」

「るせーなぁ。俺はこれでいいの」


 この塚岸の態度には、さすがの尾月監督も頭を抱えている様子だった。




 しかし、対するクロ高。金条が一応タイムを取ってはいるものの、全く動じていない。


「大丈夫だコドー。持ち味活かしていけ」

「一点勝ってるんじゃねえの? まだ」

「いや、追いつかれてる」

「最終回で勝ち越せばいいっしょ」

「そうですね。コドーの仕事はここをぴしゃりと抑えること」

「そうだな」


 内野全員が守備に戻る。



「さあ、おしてこーぜコドー!!」

「うおっしゃあー!!」


 田中の声に叫んで返す古堂。武月が打席に立つ――が、ボールがバットに当たらない。


(あれ、コイツの球、軌道変!?)


 古堂のスローカーブも駆使し、武月を三振に取る。そして、続く8番原もアウトにし、8回を終えるクロ高。



 9回、尾月監督が腰を上げる。背番号11の男、東山に話しかけようとしていたところだった。


「東山、準備はできていr――」


 バシンとキャッチャーミットが鳴り響く音。


「いや、いい」

立ち上がろうとしていた東山を下げ、尾月監督は腰を落とした。


(まあいい。負け試合でもこいつらなら何か掴んでくるだろう)


先頭打者は金条。


(速い球には見慣れている――凡退してばっかじゃいられない)


 バットを短く持ち、とにかくカットしていく。2ストライク2ボールと追い込まれる。


(いいぞ……カット打法効いてるッ!!)


(んじゃ、松下さん、ここで)


 村松のサインにうなずき、松下はインハイにストレートを投げた。


「うっ!」


 思わず顔を遠ざけた金条。ギリギリに入ったボールに、バットの端が当たる。


「おっ、打ちあがった」


 村松は落ちついて浅いフライをキャッチし、金条をアウトにする。


(下位打線はそこまでっス、落ち着いていけば俄然打ち取れるっすね)


 続いて打席に立つのは、佐々木隆――本日ノーヒットの男である。


(速い球は得意……ってわけじゃあないんだけど、そりゃ曲がる球よりは曲がらない球の方が打ちやすいってだけで……)


 そんな初球。ストレートがアウトコースに入ってくる。ストライクになる。


(うげっ……はええ……)


 完全に自信を無くす彼に、先ほどの山口の打席が勝手に脳内に降りてきた。


(ああ……そういえば……あの人、打ち返すとき、バット引っ張り込んでなかったような……)


 バットを構え直す佐々木。ここで松下は間を取る。


(こいつ……ちょっと面構え変わりやがったか?)


 途端に雰囲気の変わった彼に対し、松下はインコースにストレートを投げた――


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