↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
6.GW

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
147/430

第147話「悪影響」

 6番の相田が打席へと向かう。


(暗黒世代の投手との勝負って、何げに久しぶりかも。完全無欠で派手な黄金世代でもなく、堅実で隙の無い白銀世代でもなく、一点特化の暗黒世代。こういう勝負の方が燃えるんだよね)


 早いストレートに、タイミングが合わない相田。しかし、顔は笑っている。そして、次のストレートには、もうタイミングを合わせてきている。


(相田は、うちのクリーンナップを除いたら、一番いいバッターだよ。でも、今回は……鷹戸に分があるかな?)


 堤が笑う先には、キャッチャーの金条が座っていた。三球目、低めに構えられたところに投げ込む鷹戸。相田は、甘い所であると確信し、バットを振りぬく。


(あれ?)


「ストライークッ!」


 金条のミットがしっかりと鳴った。低めに投げ込まれた変化球――甘い所から厳しい所へと落ちていったスプリットを空振りし、相田は三振となった。


「うおおおナイスピ!!」


 田中がショートから声をかける。何とか、悪い雰囲気を打破しようと無理に大声を出していることを察した大滝も、一緒に大声を出した。


「鷹戸! 次も頼むぜ!」


(……わかった)


 続く秋島も三振に打ち取り、2アウト1塁の状況を作り出す。


「っしゃあ! すげえじゃねえか。全国レベル相手に二連続三振だぞ」

(ふん、白銀世代でもない奴らばっかりじゃねえか)


 鷹戸が見据える先には、堤が立っている。


(8番バッター。バッターとしての能力は人並みってことか)


(正直、相田も秋島も打てなかったやつから打てるとは思えない。俺は俺なりに、プレッシャーをかけていこう)


 初球、アウトコースに投げられたツーシーム。カットする堤。しかし、打球の当たりは、カットというよりかは、バットの下面を擦った当たり――ほぼ空振りに近いものである。


(さすが、一流の捕手ってだけあって、速い球への対応力はあるみたいだな。でも、バットコントロールは微妙ってところか?)

金条が次に投げさせたのは、高めのボール球。見逃す堤。


(この配球は読めるわ……。問題は次。普通に行けばインコースだけど……)


 金条が投げさせたのは、インコースのスプリット。予想以上に内側に落ちてくる球。むしろボール球だったが、堤は振りぬく。


(当たったッ!)


 詰まったがゆえに弱弱しく、変な回転がかかったまま跳ねる打球はショート前。


「ショート!」


 田中が上手く拾う。


(よしっ、終わりだッ!!)


 送球する田中。ワンバウンドの良い送球。しかし、焦った伊奈。


(捕らなきゃ!)

「駆け抜けろッ!」


 ファーストランナーコーチの叫び声に少し遅れて捕球する伊奈。堤が駆け抜ける。



「セーフ、セーフッ!!」

「!?」


 審判の方を振り返る伊奈。自分の足がベースから浮いていたことに気付く。



(あ……焦ったッ!!)


「伊奈、焦ったって仕方ねえぞ。どっちにせよ2アウトだし、堤を返さなければ一緒のこと」

「……はい」


 今宮に言われ、伊奈は頷く。鷹戸も内野陣も集中力を見せ、次の知念を打ち取り、交代となる。




「こういう場面で打ってこそだ。俺たちの力、知廉に見せてやるぞ」

「新田に勝利、持たせてやりてえ」

「だな」


 今宮、小林、田中の三人は、拳をしっかりと合わせた。そのまま今宮が打席へ、小林がネクストサークルへと向かっていく。


(知念瑛太……変化球さえ無理に打ちにいかなきゃ、十分タイミングは合う)


 初球のストレート。タイミングを取るも、ファウルになる。


(球威……やっぱりさっきよりいい球投げやがるな)


 二球目のフォークを見逃す。知念は苛立ちをもう隠す気も無い。


(新田がいなくなって……勝利を挙げたいとか思ってるんだろうけど、俺たちそんなに甘くねえから!)


 三球目のストレートが内角に鋭く切り込んでくる。思わず手が出ない今宮――


「ボール!」

(っぶねえェ……)


(今日の主審は少し厳しめ……だな)


堤のキャッチングをもってしても、判定はボール。この主審の厳しさに少しは救われている部分のあるクロ高。


(じゃ、次は外角低めに行こうか)


 ストレートを投げ込む知念。しかし、今宮はしっかりとバットを合わせ、振りぬいた。


「!!」


 打球は、ショート秋島の正面。完全な打ち損じの当たり――一塁に送球し、今宮をアウトにする。



「っしゃあ1アウト!」

「功にもやっと見せ場きたね!」

「正面のゴロくらい捕れるわ!」

「そりゃそう。一応強豪校のショートでしょあんた」


 知廉の内野陣にも活気が見えてきたところで、二番小林が打席に立つ。雰囲気にのまれそうになる。


(新田はいない。今宮は出れず……俺が出て田中が打って、大滝が打って点を取るしかないけれど……)


知念の投球は、もう止められない。


「ストライークッ! アウト!!」


 小林は簡単に三振に取られてしまった。



「っしゃあナイスピだ知念」

「当たり前でしょ。どんどんいくよほら」

(乗ってる時の知念だ……残念だけど、もうヒットは出ないよ)


 8回表2アウトランナー無し。この状況で田中が打席に立つ。追い込まれた三球目を打ち上げ、センターフライに倒れる。


(球がどんどん良くなってやがる……コドーにもちょっと似てるのかな……)


 8回の上位打線を黙らせた知念。裏は一番の阿井から始まる。


「4-2だよ阿井。お前が出ないと、逆転は無理だと思うな!」

嶋がベンチから叫ぶ。阿井は右拳を突き出して言う。


「俺もな、この打席で出て、出塁率5割は出さねえと今月の通算出塁率5割超えないんだよ!」

(いや、まだ5月始まったばっかでしょ)


 知念は少し疲れた様子でベンチに座り込み、ドリンクを一口だけ口に含んだ。


(うま……)


 鷹戸の初球を軽く打ち返す阿井。力ない打球がぽんぽんと跳ねる。


「鷹戸! 無理スンナっ!」


 鷹戸の右手側を打球が避けるように跳ねていく。田中はしっかりとバウンドに合わせてショートバウンド捕球をする。一塁を見る田中。


(はやっ!?)


 阿井はもう、ベース目前まで走っている。


(刺せねえッ!)


 スローした。しかし、間に合わない。セーフ――


「ナイスだぜ阿井ぃいいい!」

叫ぶ内山田。


(新田だったら損じてたな。危ない危ない)


 2番の内山田は堅実にバントで送り、1アウト2塁のチャンスを易々と作る知廉学園。


(やるじゃねえか)


 鷹戸は心の中では冷静だった。しかし、その冷静さは、後ろがいないことによる焦りによって無理やりつくられた虚構にも似ていた。




「さすがにまだ二年生……暗黒世代に、この状況は怖いんじゃねえの?」


 三番打者、井崎はそんな鷹戸の状況を見透かしていた。金条も感じていたプレッシャーに、井崎は巧くつけ込んでいた。


「今の俺なら、こんなやつの球簡単に打ち返せる自信しかない」

(はったり……ではない実力は持ってる)



「井崎はチャンスで打つよ。じゃなきゃ困る」


 堤はベンチで一つ上の目線から見ていた。


 その初球、金条は鷹戸にスプリットを要求した。初球から変化球というのは、鷹戸にしては珍しいことである――が、井崎はこれをセンターに真っすぐ打ち返した。


(うますぎかよッ!)


 ショート田中が飛びつく――が届かない。二遊間を抜けるよりも早く走り出していた阿井は、もう三塁を蹴ろうとしている。センター山口が打球に追いつくころには、ホームをめがけて一心に走っていた。


(ふざけるなよッ!)


 山口の送球は良かった。金条も、逸らさないようにしっかりとつかみ取る。しかし、阿井は、その送球を受け取る際のわずかなスキを狙って、大きく回り込んで滑る。左手でホームにタッチした。


「セーフ、セーフ!!!」


 井崎のタイムリーヒット。それよりも評価されていたのは、阿井の走塁だった。


「よく還ったぞ阿井!」

「やるじゃねえか!」


「まあな! 俺がこのチームで一番足が速いんだよ!! 還れなくてどーすんだ!」


 すっかり鼻が高くなった阿井。振り返って一塁ベースの方を見る。


(ナイスバッティンだぜ、井崎)


 拳を井崎の方に突き出し、ベンチへと戻っていった。




「……(フン、ただのまぐれヒットだ)」


 鷹戸の中ではだいぶ切り替えができていた。目前の、大笛というバッターを前にして、先ほどの結果など些細なものにすぎないと、本能的に理解したのである。


(高めは厳禁――徹底的に低めに集めるんだッ!!)


 金条の構えから察した鷹戸も、低めにストレートを投げ込み続ける。4球目、2ボール1ストライクの状況で、動いた。


「逃げたッ!!」


 ライトの小林からの大声。金条が腰を上げ、二塁ベースを見た先には、盗塁をねらって走り出している井崎。


(クソッ、ランナーも厄介な野郎だったッ!!)


 金条の送球はワンバウンドで二塁ベースへ。今宮はしっかりと受け止め、タッチに向かうがセーフになる。


「くっ……間に合わなかったか」

「まあ、この盗塁は保険だよ。さっき見てわかったろ……。俺はどんなに走ったって、大概還れる」

(鷹戸やウチの外野陣を舐めすぎてやがる……確実に新田の交代と、その直後の大笛のホームランが、こいつらに勢いを与えてしまったな……踏ん張りどころだぞ……鷹戸)


 金条も、息をぐっと呑み、続いて低めに構える。


「単調じゃのう……」


 ふと、何を思ってなのかはわからないが、呟く大笛。金条は一瞬、読まれつつあるリードなのではないか、と不安がよぎった。


(大丈夫だ、信じろ)



 金条がふと前を見た先には、鷹戸が堂々と構えている。


(そうだよな……あんなに強気な投手を前に、弱気になる捕手がどこにいるッ!)


 一度構えたところに、もう一度しっかりと構えなおす金条。鷹戸も同じところに投げ込む。


(やはり同じところッ!!)


 大笛はフルスイングで迎え打つ。低めにスイングされたバットに、沈んだ球――ツーシームが当たる。


「どりゃああああ!」


 重い球を、パワーで無理やり高く打ち上げる大笛。まっすぐセンター方向に打ちあがる打球。山口が後退して打球を追う。


(打ちあげすぎたな……僕にもとれるよ……)


 しっかりと後ろから打球の落下地点に入り、ボールをつかみ取る山口。大笛を凡退させることに成功した。


「よぉおおっし!!」


 ベンチから古堂と林里の大声が聞こえた。


(あいつら……)


 金条の顔にも笑みがこぼれる。しかし、目前の鷹戸の表情は、全く変わらない。


(2アウトとは言え、バッターは五番の嶋一徹。良いバッターだもんな)


 鷹戸に再確認させられる形で、再び座る金条。嶋は大笛の凡退を何ともない様子のまま、打席へと入っていく。


(まあ、大笛でも凡退することぐらいあるし……どんなにいいバッターでも7割は凡退するもん。まあ、打てる三割をどこに持ってくるか、ってだいぶ重要だと思うけどね)


 鷹戸が投げた初球。少し浮かれていた、なんてことはない、低めにしっかりと投げられたボールを、掬うようにセカンドの後ろに打ち返した嶋。


(僕だったら、この場面に持ってくる!!)


 井崎はもう、走っている――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。