第144話「エンジン」
上位打線――今宮が打席に立ち、知念と対峙する。
(変化球のキレがやべえ。曲がり始めの遅さは新田にも匹敵する)
4球目、2ストライク1ボールの場面で投げられたフォークをひっかける今宮。
(くっ!)
サード内山田がしっかりと捌き、先頭の今宮をアウトにする。
「よぉし!!」
「いいぞうっちー!」
「しぇい!」
盛り上がる知廉。
「……お前はそれでいい」
続く小林に対しても容赦のないピッチングで容易に追い込む。追い込まれたところに投げられた厳しい所を打たされ、ショートゴロに倒れる。
「ナイスピだぜ知念……」
「やっとエンジン掛かってきたかな」
知念の言葉は、嘘ではない。今宮も小林も感じていた。一打席目との違いを。
「さっきより切れるよね?」
「多分な……。調子上がってきたって感じか」
「……参ったね。田中も気を付けないと」
田中も、打席で同じことを感じていた――が、知念の球に合わすことはできない。
「……変化球が、当たらん!」
(ふん……さっき打った感覚が君を邪魔しているのさ……。もう一本打てるとは、思わないことだね)
堤が考えている知念の真の武器――それは、調子の上げ方である。
(一打席目で打ったバッターは、まあ間違いなく、次の打席ではタイミングが合わないだろうよ。それぐらい、知念のボールは変わる――)
田中が三振に倒れ、3回表が終わる。
「ナイスピッチ……知念」
「ふぅ……まあ、堤のリードがようやく効いてきたって感じじゃない?」
知念が堤にいじらしく笑って見せる。
「……知念の球が調子あげてきてるだけだって、いつも言ってるじゃん」
堤もいじらしく返す。お互いにグラブを出し合って、ぶつけあう。
しかし、その回の裏、阿井と内山田を簡単に打ち取る新田。三番で白銀世代の井崎もセンターフライに倒し、またしてもスコアボードに0をつけた。
「よっし!」
「新田さんのエンジンが全開だ……」
ベンチから古堂が感心していた。
「新田が抜けたら、お前と鷹戸……二人であそこまでのピッチャーにならなきゃいけないぜ……」
(そうか……)
芝に言われ、古堂はふと思いを突き詰める。
(新田さんのピッチングを見れることも……もうだいぶ少なくなってきたんだな)
「そうえいば……知廉学園のベンチ、監督いないですね」
「練習試合だからかな? まあ、うちがやることは変わりねえだろ」
ベンチで坂本と林里が話す。打席に向かう大滝を見送りながら、ふと、知念の方を見る坂本。
「アイツ……すげえ。一巡目よりもパフォーマンスが上がってるみたいだし、かなり厄介な相手になるだろうな」
「それはちょっとだるいっすね」
6番打者の伊奈が笑いながらバットとヘルメットを用意する。この回確実に打席が回ってくる彼も、知念のピッチングには興味津々だ。
「まあ……僕らにできることをやるしかない……」
山口はそんな伊奈の肩を軽く叩いて、ネクストサークルへと向かった。
打席の大滝はと言えば、初球のスライダーを空振り、二球目のストレートを見逃して1ボール1ストライクとなっているところだった。
(甘い所は逃さねえよ)
内角低めに投げ込まれたフォーク――決して甘い球ではないが、巧くいなしてセンター前に飛ばす大滝。
(うめえ!)
セカンド嶋が飛びつくが、弾く。
(あれ飛びつくのかよッ!)
シングルヒットになる大滝。しかし、セカンドの守備範囲の広さに、同時に驚いてもいた。
次の山口が打席に立つ。初球、二球目とストレートで追い込む知念、堤バッテリー。
(最後はもちろん……)
(さらに速いストレート!!!)
堤の癖のあるリードに、山口も見事に引っかかり、三振に倒れる。
「送りバントしても良かったかなあ」
悔しそうに笑う山口。伊奈は唇を震えさせていた。
(山口さんを簡単に三振にしやがった……俺に対しても、同じようにくるのか?)
しかし、初球から投げ込まれるフォーク――フルスイングで立ち向かう伊奈。
「ふっ!」
流し打ち方向に綺麗に飛んでいく打球。セカンドの頭上を越えると思われた打球――
「ふんっ!」
後ろに滑り込む嶋。落下点に、ボールより先にグラブが飛び出てきた。
「アウト!」
ノーバウンドで打球をキャッチし、立ち上がる間も無くファーストにグラブトスする嶋。
(マジかよッ!!)
大滝は伊奈の打球が取られるなどとは到底思っていなかった。むしろ、体勢も考えて大きめにリードしていたぐらいである。華麗なグラブトスを目前にして、足の反応がだいぶ遅れた。
「アウト!!」
大笛がトスを受け取り、ランナーの大滝もアウトにする。ゲッツー
「うおおおお!!」
「嶋さんさすが!!」
外野から阿井と相田の叫び声がする。嶋は右手を上げ、それにこたえる。
「いや、凛太郎もさすがの反応だね」
「動体視力が一流だと言ってくれ」
グラブタッチでお互いを讃えあう。
大滝のヒットの甲斐も無く、ゲッツーで4回表を終える。しかし……一見流れを持っていくかのようなプレイに思うが、新田は動じていない。4回裏も三者凡退に切る。
それに対して、5回裏、知念もクロ高下位打線を封じ込めるピッチングを魅せるが、新田はさらにそれを越えてくる――
「ストライークッ、バッターアウト!」
大笛を三振に倒す新田。
「あのゲッツーがあっても、微塵にもダメージを受けてねえ」
「……んだよ……そろそろ突破口見えてもいいころなんじゃねえの?」
嶋が続くが、セカンドゴロに、二年の相田もショートゴロに倒れ、全く突破口が見えない。
「エンジンがかかってきたのは、新田も一緒か」
「止まらねえな」
知念と堤は、新田の突破口が見えないことに少しずつ焦り始めている。
(あんなにぶっ飛ばして最後まで持つわけない。継投目的の試合だとしても……何が新田のパフォーマンスをそこまで上げている?)
しかし、このグラウンドにいる者、ただの練習試合と考えている者は一人もいなかった。だとしても、新田のこの溢れる気迫に疑問を抱く知廉学園の者がほとんどだった。
そして、6回が始まる――




