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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
6.GW

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143/430

第143話「リード」

(いいよ、落ち着いて瑛太。お前の球は簡単には打たれない。俺も全力でリードするからさ)


 落ち着いてリードを取る堤。4番大滝の思考の裏をかいたリードに、きりきり舞いになる大滝。


(あれ……さっきよりもエグイ球放ってるイメージが……)


 そんな堤、知念の白銀バッテリーの前に、大滝は三振に倒れる。


「ふぅ……(まっ、俊也のリードがあってこの程度じゃ、僕もまだまだかな)」


 続く山口も難なく凡打に倒す知廉学園バッテリー。


「……初回の一点」

「まあ、今宮が上手かったね。でも彼が出ないと、クロ高はほとんど得点できないだろうから、確実に抑えていこう」

「そうだな……」

「大丈夫。安心しろよ瑛太。今宮さえ抑えれば良しってのがわかっただけデカいって」


 知念を励ます堤。その裏、知廉学園の攻撃が始まる。


「さあ、それよりむしろ、問題はここからだよ。あの新田を打ち崩さなくちゃいけないんだから」

「なあに、ヒット一本で勝手に崩れてくれるピッチャー相手に“打ち崩すって表現は適切じゃないぜ」


 先頭打者の阿井真人が向かう。知廉学園内指折りの成績優秀者な彼は、新田の様子をよく観察していた。


(ブルペンでは絶好調――いや、既に最高潮を迎えていると見た。こういうピッチャーは、マウンドに立った時の自分の投球のギャップに苦しみ、自滅する……)


 そう踏んだは良かったが、阿井は、その次の新田の初球に驚愕する。


(え?)


 新田が投げたカーブ。これを見て阿井は気づく。そもそもの前提が間違えていたことに。


(……そうだ。そもそもこいつは……ブルペンで最高潮を迎えていない。のに、あの変化球を投げていたってことか?)


(ナイスボールです新田さん。こっからどんどん上げていきましょう)


 金条のサインに、新田は頷き、二球目を投げる。


(まっすぐ!)


 左打席のど真ん中に来た直球――と思って阿井はバットを振ろうとする。しかしインコースに切り込んでくる球。思わず引っ込めた。


「ストライークッ!!」

「え!?」


 阿井が直球だと思った球は――シュート。


(左打者の胸元に抉り込むシュート。初見じゃ手が出ないね。その次は、外にカーブを僕だったら投げさせる。タイミングを取らせないまま三振に取れるよ、阿井程度なら)


 金条のリードは、そんな堤の予想と奇しくも当たっていた。新田が外に投げたカーブに、振らされるように三振した阿井。


(くっ……そったれッ!!)


 続く二番打者、内山田元。彼のバットコントロールも、新田の変化球を上回ることはできない。


(なんつーカーブだ)


(……僕だったら、一度見せた球――二種類の変化球(カーブ、シュート)に直球をアクセントにして仕留めるかな)



 堤の予想通り、同じリードを取る金条。曲がる球にまったくタイミングが合わず、カーブ、シュート、ストレートの三球で仕留められるのだった。



「2アウト!」

「たった6球……いいペースだ」


 ベンチも新田の好調ぶりに安堵の様子を浮かべる。続く3番打者、井崎中が打席に立つ。白銀世代の左バッター相手でも、新田の投球は衰えを知らない。


(アタルはどんな球への対応力もある。だからこそ、初見の変化球を見せて振らせてみるのが一番かな?)


 またしても堤の予想通り、初見のスライダーを流し打ちする井崎だったが、浅く上がる打球。レフト佐々木がしっかりとつかみ取り、アウトにした。


「ナイスピッチです、新田さん!」

「いやあーでも、井崎が初球合わせてきたのはびびったね。さすが全国レベルのバッターだ」

金条と新田は微笑み合いながらベンチに戻ってくる。ベンチはそれを大声で歓迎する。


「さすがです! 新田さん!」

「さんきゅ」

 古堂が水を持って駆け寄ってくる。新田はさわやかに笑いながらそれを受け取る。




「いやあ、ほれぼれするよね。あのピッチャー」


 知念が悪態をつきながらつぶやく。


「どうした?」


 堤はそれが不思議だ。


「あんなに良いコントロールと変化球を持ってて、僕よりストレートが早いと来た。あんなの、ずるいよ」

「まあ、あの黒鉄と競り合う投手だからね。住友、松下、茅場みたいな凄さのベクトルが違う投手じゃなきゃまあ下に見られるよ」


 堤の言葉に、皮膚の上だけでは同意する知念。


(まあ、僕がそこに肩を並べられるピッチャーなのかってのが、そもそもの疑問なんだけどね。どうせ堤だったら、新田をどうやったらもっと活かせるだろうか、しか考えてないだろうし)




 二回表、知念の投球の前に、伊奈がフォークを打ち返すが、サードゴロに倒れる。


「悔しいな……追い込まれちまってからフォークはしんどいって」


「……なるほど……俺のリードと似てるかもしれない」

ネクストから、凡退した伊奈を見て金条はつぶやいた。その言葉に疑問を抱く伊奈は、打席に向かう彼をじっと眺めていた。



(まず、アウトコースにストレートで様子見。僕の打撃成績から見れば一番それが妥当)


 見送る金条。ファーストストライクを知念バッテリーに与える。


(そして、低めに変化球。カーブかスライダーだろう。フォークはさっき伊奈への決め球に使ってるから、あまり見せたくはないはず)


 スライダーを投げる知念。打ち返す金条。ファウルになる。


(んー、これがキレ具合か……。なるほど……じゃあ、次は……インコースにストレート。変化球にタイミングを合わせた俺のタイミングをさらに狂わせて振り遅れさせるのが目的だ!)



 金条の目論見通り、投げ込まれるストレート。打ち返す金条。タイミングのバッチリ合ったセンター返し。井崎の目前に打球が落ちる。


「おおっ、金条がヒットだ!」

読み合いに勝利した金条を祝福する声。しかし、次の佐々木と新田は続けず、2回表を終える。


「金条、凄いじゃん」

「いや、多分堤さんのリードと俺のリードが似てるんだと思う……。こっちもリード変えるなりの工夫しないと、全部読まれてもおかしくないかもしれない」

「だな……。まあこっちがわかるってことは向こうもわかるってことだ」

金条の言葉に今宮が納得した。


「まあ、リードはお前に任せる。俺は俺のピッチングで応えて見せる」

「ありがとうございます。頼りになりますね」

「……ああ、エースだからな」


 新田の背中の1を見ながら、金条はキャッチャー道具をつけていく。


「大笛! 打てよ!!」

「任せろ!!」


 知念と堤に言われ、大笛はバットを握りしめる。


(そう……知念と堤……二人は凄い選手。だが、打つことに関しては俺たちの方が圧倒的に上なのである!)


「ならば、負けられないだろう!!」


 新田の初球、スライダーを大振りで迎えに行く大笛。


「!!」


 彼の予想を大きく上回る変化量。空振りする大笛。


「っし!」

金条のミットにもしっかりと収まっている。


「なん……と?」


 構えなおす大笛。次はシュートを内角に切り込ませる。避けるように体を仰け反らせた大笛だったが、逃げるようにストライクゾーンに入る変化球。ストライクになる。


「か、簡単に追い込みやがった……」


 ネクストバッターの嶋は、新田の投球を見て震えあがる。


「次だったら、ストレートを振らせたいところだけど……僕は相手が大笛だったら、まったくタイミングの合ってなかったスライダーを一球外すね。そして、スライダーを意識させたところで、ストレートを投げ込む」

「堤ぃー相手のキャッチャーと自分のリード比べるのやめなよー、だから打てないんだよ」


 ショートの秋島に言われ、堤は顔を赤くした。


「それもそうか……打てないんだよなあ、俺」



 しかし、堤のリードと金条のリードは一致しなかった。新田が投げたのはストレート。振り遅れた大笛が、ライト方向に打球を飛ばす――が、十分長打である。


「なんで右バッターのときにこんなに下がらなきゃいけないんだよ!」


 ライトの小林がしっかりと下がって打球を掴む。アウトになる大笛。


(むぅ……変化球にだいぶ意識を持っていかれたな)


 その後の嶋をサードゴロに、相田を三振に倒し、2回も凌ぐ新田。未だノーヒットの知廉学園。


「新田すげえな……」

堤が言う。


「だね」

知念が返す。


「でも、お前の方がもっと凄いってとこ、見せていこうよ」

堤がまた言う。


「……だね」

知念はまた返す。


 3回が始まる。


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