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Dr.Kの鼓動  作者: パワプロ58号
6.GW

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137/430

第137話「古堂VS鷲尾」

 岸田の立ち姿に、金条は思い出す。白銀世代と戦うときの緊張感を。


(そうだよな……このチームにもいるんだ、白銀世代)


 鷲尾や鉛野、黒田のように、派手なプレイを見せるわけではないが、堅実に、ただ堅実にヒットを稼ぎ、得点を絡める男――岸田鳴。まさに白銀世代を象徴すると言っても良いようなプレイスタイル。


(長打というよりかは巧打。古堂が一番苦手なタイプだな)


 初球からインローにストレートを要求する。古堂は全力で投げ込む。見逃す岸田。判定はストライク。


(噂通り……初球からガン攻めじゃねえか……)


 続いては、アウトコースにシュート。キレる変化球に、岸田も手が出ない。


「ストライークッ!」

(真ん中からアウトコースに逃げやがった。うっかり手を出してたらセカンドに凡打だ)


 警戒心を巡らせる岸田。そして、金条のサインにうなずく古堂。


(多分、このバッターは俺たちのことをよく研究している。見逃し方でよくわかるさ……。一球目、二球目、予想通りって顔してただろ)


 だったら、と言いたげな顔をする金条。古堂が投げる瞬間、金条は腰を浮かせる。


(次も勝負ストライクだと思うよな――これまでの俺たちを知ってるなら……)


 高めのボール球――ストレートを打ち返す岸田。


(クソッ……三球目で決めてきてもおかしくはないと思っていた――浮いただけか?)


 ライト方向に浅く打球が上がる。


(まあ……手出しちまった時点でこの打席は俺の負けだな)


 小林がしっかりと打球を受け止め、3アウト――岸田鳴をも凡退に抑え、三者凡退で1回表を終えるクロ高。



「ナイスだコドー」


 田中からグラブタッチを求められ、答える古堂。


「金条もナイスリード」


 小林が金条を褒める。


「んで、こっから……ウチが打たなきゃ始まらねえぞ」


 田中は好守備を切り替えるように言った。先頭打者の今宮はもう打席へと向かっている。


「鷲尾ってどんなピッチャーでした?」

大滝が尋ねる。田中らはかつて、白銀狩りに来た鷲尾らと戦った経験がある。

「……どうだろうな……いい変化球を持った鷹戸と捉えるべきか……? まあなんせ……ストレートを軸にいい投球しやがる」


 荒れ球――否、暴れ球とも言えるストレートに、思わず手が出ない今宮。二球で追い込まれてしまう。


(さすがはジャイロボール。手元で加速しやがる)


 しかし、今宮もストレートに目が慣れてきていた。次は確実にタイミングを合わせられる――しかし、そんな彼を嘲笑うかのように投げられたスライダー――芯を外れ、打ちあがる打球。センター鉛野がしっかりと打球を掴んでいた。


「1アウトぉ!」


 鉛野が叫ぶ。鷲尾は返球を受け取るだけで何も言わない。


(当たり前だ)


 続く小林も、変化球を打たされ打ち上げる――レフトフライに倒れた。


(あれ……)


 何か違和感を覚える小林。今宮が問う。


「どうした?」

「いや、思ったより手応え無いなって思って……」

「多分だが……あいつ、手を抜いてる。俺らを『打ち取る』ためにわざと緩い変化球を投げてやがる……」

「確かに、ストレートを研究されてると敵さんは思うだろうし、変化球を軸にピッチングを組み立ててきてもおかしくはないよね」


 山口も会話に入る。そんな中。田中が打席に立つ。


(甘っちょろい変化球なんか、叩き潰してやるぜ!)


 初球からカーブがインローにねじ込んでくるようにストライクに入った。


(わお……いいピッチャーだ)


 田中が気づいたときには、鷲尾の顔が変わっている。


(あんとき仕留められなかった坊主だ……)


 憤りの表情がわかりやすく出ている――ストレートがインハイに決まる。


「ストライークッ!」

(手出るかよ……!)


 そして、続いて投げたのは、アウトローにスプリット。田中は振ってしまう。


(ぐっ、変化球か……!)


 膝を大きく曲げ、低めの球を確実に正面に飛ばす田中。救い上げられた打球は、二遊間を超え、落ちる。


(打たされた――ラッキーヒットだ)


 田中が出塁するも、鷲尾は屁でもないと言った様子で大滝を三振に倒し、クロ高同様無失点で初回を終えた。


「大滝真司……クロ高の四番。どんな球でも確実に打ち飛ばすだけの技術とパワーは申し分ないが、お前はまだ空振りが多い――そんなんで四番張れるほど、野球は甘くねえんだよ」


 鷲尾は息を吐いてベンチに戻り、そのままヘルメットを着ける。2回表、龍宮高校の攻撃は、4番鷲尾からである。


(4番が何たるか……見せてやる)



 金条は初球、アウトコースに外れるシュートで様子を見る。見逃してボールになる。


(さすがに鷲尾のことは警戒しているみたいだな……)


 岸田も顎をさすっている。打席の鷲尾は、見たことも無い左投手を観察していた。


(癖のない本格派風の見た目をしておきながら、独特のサイドスロー気味のスリークォーターから放たれるストレートや変化球。しっかりとノビとキレも十分。暗黒世代のなかじゃ上の方に来るんじゃねえのか?)


 二球目のストレート。内角に切り込んでくる球を見逃す。これはストライク。


(クロスファイア……やはり右打者にはこれを有効に使ってくるな)


 そして、これを見せた上で、金条はカットボールのサインを出す。


(同じコースに全力で来い!)

(おうよ……見せてやるぜ……)


 古堂が全神経を左手の指先に集中させ、縫い目に風をかける――インコースに来る球。振り始めはばっちりな鷲尾のスイング。


(……もらった!)


 動くボールにバットが当たる。三塁線方向に、パワーにモノを言わせて飛ばす。


「ぐっ!」


 サード正面――大滝のグラブは打球に弾かれる。勢いよく跳ね返った打球を、大滝が応間にも、鷲尾は一塁ベースへと駆け抜けていた。


(ちっ……真芯ではとらえられず……か)


 鷲尾自身、先ほどの打った球がカットボールであったことに気付くころ、5番鉛野、6番紫吹の二人が外野フライで倒れていた。


「よしっ、2アウト!」


 勢いに乗る古堂は、続く7番石島を三振にし、鷲尾にヒットこそ許してもなお、無失点で切り抜けた。しかし、その裏――山口から金条までの三人も、鷲尾のピッチングの前に凡退し、お互いに0を付け合っている。


「お前ら、積極的に振りすぎだ。三振取られたくない気持ちはわかるが、だからと言って厳しい球を打ちに行くこともないだろ」

鉛野と遠藤に対して、岸田が言う。


「まあ、ボール球打った俺が言うのもなんだが……」

「いや、岸田の言う通りだ。相手は三振をそこまで狙っているわけじゃねえらしい。鷲尾の打席で気づいたことだが」

「……確かに。ワシオが芯を外された打球を見せたのは珍しいからね。もしかしたらその手の類のムービングボールを持っていて、三振を警戒する俺たちを打たせて取ろうとしていると考えるのもあながち間違いじゃないかもしれん」

遠藤の言葉に、鉛野も重ね、鷲尾は頷く。


「まあどのみち打てない相手じゃないだろ。勝つぞ」


 3回が始まる――粘り打ちに徹した8番灰島と9番藤堂――しかし、古堂のピッチングと金条のリードの前に三振に倒れる。


「鷲尾はほんとに簡単に言うからいやだよ。打てない相手じゃないって……結構いいサウスポーだよ? 彼」


 打席に立つ黒田は、古堂のアウトコースのストレートを初球から打ち返し、流す。


(こういう気迫で攻めてくるタイプの投手は力任せに行かないのが肝……)


 ショートの頭を超える打球。佐々木はしっかりと打球を受け止めるが、黒田はセーフ――ヒットである。


(2アウトなのが凄くもったいないなあ)


 盗塁も決める黒田だったが、次の打者が三振に倒れ、無得点に終わる龍宮高校。



「ナイスバッティングだったぜ黒田」


 鉛野が嬉しそうにハイタッチを求める――が、黒田はそっぽを向いてグラブをつける。


(2アウトから出塁してたんじゃだめでしょ……次は岸田さんからなんだから、点とってもらわないと困るっつの)



龍宮高校ウチは清々しいくらいに実力主義のチームですね……」


 龍宮高校の記録員を務めるマネージャー、岸田凛きしだ りんが幸村監督に困った顔で言った。


「あら、だからあなたのお兄ちゃんがキャプテンやってるのよ。誇りに思ってもいいんじゃないの?」


 幸村監督は、岸田凛の兄である男、岸田鳴を指して言った。

「うちの兄は、あれでもちゃらんぽらんなので……本当は遠藤さんとかの方がキャプテンに向いてると思うんですけど」

「違うわ。やっぱりね、プレイが一流じゃない人の言うことって、みんなどこかで見下すのよ。人間性は優れてるけどプレイはへたくそ――って人も尊敬はされるけど、『野球のことでとやかく言われたくはない』って思う子って絶対いるのよ。みんな何だかんだで野球に関しては野球が一番上手い人に引っ張ってもらいたいもんだったりするのよ。まあ、決して遠藤や灰島がへたくそって言ってるわけじゃないけどね(現に鳴くんは……試合中は恐ろしく冷静だし、みんなをまとめる力はある。勉強はできないし、忘れ物も多い困ったチャンだけどね)」

「……鷲尾くんや黒田くんだって、どこかで他のチームメイト見下してますよ絶対」

「あれぐらいで良いのよ。伸び伸びできるやつには、伸び伸びできる環境を。厳しく戦えるやつには、厳しく戦える環境を」


 幸村監督のお墨付きである鷲尾理知――彼が一番このチームで自由にやっているだろう。しかし、八番佐々木と九番古堂を三振に倒し、早くも2アウトを迎えていた。


「さあ、ここで今宮くんと戦えるかが見ものよ。彼もなかなかイケメンだしね……性格もなかなかエッジが効いてるらしいじゃない」

「……ははは。黒光呼んだ理由も、新田さんがイケメンだったから、でしたっけ?」

「うん! 当たり前じゃない(あんな変化球、全国でもなかなかお目に懸かれないからね……。今回の先発、古堂って子も、なかなかいい変化球を持ってるって噂だし……)」


 今宮は、鷲尾のストレートにいやらしく食らいつき、フォアボールで出塁した。

「なかなか神経使うな……」

少し疲れた様子の今宮。鷲尾は平然としている。


(まあ後を切ればいい)


 続く小林を三振に倒し、マウンドから去る鷲尾。


「くっそ……打てそうだったのにな……球に力があるから……流してみるのもいいかもな」

「おっ、翔馬、なにか発見でも?」

「おう、山口オマエも良く流すからよ。パワーで勝てなかったら、無理に引っ張る必要もないかなって」

小林は山口にそう言って笑いかけ、守備用のグラブを手に取る。


「まあ、次の打席が来るまでに僕らは守備をとにかく徹底して頑張ろう」


 そして4回表――打席に立つのは、白銀世代の岸田。本日二度目の打席である――


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