第130話「球筋」
先攻 開盟学園高校
1番ショート、野淵藍平。2番センター、臼井昇。3番キャッチャー、根津光明。4番ファースト、多田常興。5番レフト、笹田恭平。6番ピッチャー、烏丸智雅。7番サード、都築忠治。8番セカンド、白波永嗣。9番ライト、足立和樹。
後攻 黒光高校
1番セカンド、今宮陽兵。2番ライト、小林翔馬。3番ショート、田中遊。4番サード、大滝真司。5番センター、山口寿。6番ファースト、伊奈聖也。7番キャッチャー、金条春利。8番ピッチャー、鷹戸遥斗。9番レフト、佐々木隆。
「鷹戸の球は重い。外野も前進守備で良い。ポップジャイロ投げるときはサインくれ」
「わかりました」
内野外野が意思疎通をし、グラウンドを野手8人と投手一人が守る。
(ポップジャイロは封印――特に今日の奴らは下から上の球筋に慣れてっから、上からバットを出す意識が根付いているぞ)
鷹戸はイラつきながら、初球、フォーシームをアウトコースに様子を見る。
金条のサインにうなずき、投げる鷹戸。
「ストライークッ!」
審判の声。先頭打者の野淵はバットを構え直す。
「球速ざっと150くらい?」
(ご名答ッ!!)
金条が次に出したのは、低めのツーシーム。打ち返す野淵。強く跳ねる打球だが、セカンド今宮が前進守備ながらしっかりと合わせ、ゴロに仕留める。
「よしっ、ナイピだ鷹戸! それでいい。低めにストレートで押し切ろう!」
今宮の言葉に、全員が応えた。
「よっしゃいくぞ!」
「サード来いサードぉ!!」
「どうでした? あの目つき悪いやつの球」
根津が高笑いしながら、凡退した野淵に話しかける。ヘルメットを外し、少し長い髪を掻きながら、野淵はにやりと笑った。
「烏丸と全然ちげえ。対松下対策にはちょうどいいピッチャーだ」
2番の臼井もゴロを転がすが、ファースト伊奈がしっかりと受け止め、そのままベースを踏んでアウトにする。
(ゴロ転がす意識が徹底されてるな……詰まってもしっかりと振りぬいてる)
「臼井さぁん……野淵さぁん……どうしてどっちとも出てくれないんすか……」
根津が打席に立つ。小林はその瞬間に後退する。
(引っ張り警戒してくれちゃって……たぶん振り遅れるんだけどなあ)
根津は左打席でにやりと笑うと、鷹戸のアウトコースのストレートを見逃す。
(アウトコースには手を出さないのか? こんなにデカけりゃ、得意球だろ?)
金条は色々考えながら、インコースにストレートを求める。しかし、根津はこれを打ち返す。
「ぐはっ!!」
伊奈がライナーを脇腹付近のボディーで止める。しっかりと前に転がした打球を拾いあげ、アウトにした。スリーアウトで交代となる。
「大丈夫か伊奈!?」
古堂がベンチからコールドスプレーを持って駆け寄ってくる。伊奈は右手で安否を伝えると、悶絶した表情でベンチに座り込んだ。
「くっそたれぃ……なんつーライナー打ちやがるんだあいつ……」
(パワータイプの左バッターか……厄介だな)
(一巡目から捉えてきてる……速球対策はどうやらしてるみたいだな)
鷹戸は相手の力量を計り、緊張感をより一層だし、引き締めた。
攻守交代となり、マウンドには烏丸智雅が立つ。
(……1番セカンド今宮陽兵……。だるいバッターやから、初球にスライダーを打たせてしまおう)
スライダーを投げる烏丸。ただでさえ遅い変化球も、アンダースロー独特の軌道で来ると、さらに遅く感じる今宮。
(浮いてくるかと思ったのに……沈むッ!!)
空振りする今宮。
「(こいつも、浮いてくる球には強いタイプか……。しっかりとバットを上から出しているな)智雅ッ!! 何も気負うことはないで! 思い切って投げろ!!」
根津は大声で烏丸に声をかける。対する烏丸は、静かに、淡々と二球目を投げた。
(来るかッ……ストレート!)
浮いてくる球に上から合わせる――しかし、高めのストライクゾーンを外れたボール球。ボールの下面を擦ってしまう。
「センター!」
根津の声を聞いて、センター臼井がしっかりと打球をつかみ取り、今宮をアウトにする。続く小林も、独特の軌道の球にサードゴロに倒れ、続く田中が打席に立つ。
(こいつはパワーもある野淵さんタイプのバッター。簡単には打ち取らせてもらえなさそうだな)
根津は初球、インローに沈み込むシンカーを要求。見逃す田中。
(……シンカーか)
続くストレート、スライダーを見逃し、1ボール2ストライクとなる。追い込まれる田中。
(なかなかいいピッチャーだな。タイミングはもう取れる――はず)
続くアウトコースのストレートに合わせて流し打ちする田中。ライト方向に打球が飛ぶ。
「アダさん!!」
「どっしッ!!」
根津からの声を、独特の掛け声で返し、しっかりと流れる打球を掴むのは、ライト足立。
「どぅおりゃああ!! アウトじゃあああああ!!」
大声で叫ぶ足立。外野からでもよく通る声に、烏丸は少し口元を緩めた。
「初回は両者三者凡退。うちの攻撃はまるで通じていないね」
山口はベンチで険しい顔を見せた。
「仕事しよう。な、大滝」
「はい!」
山口に肩を叩かれ、大滝は返事をした。
二回、4番の多田が打席に立つ。全員の顔つきが変わる。
(チームの中心選手で白銀世代。先頭は出したくないが……)
金条は初球、スプリットを要求。鷹戸は低めにしっかりと投げるが、見逃す多田。
「ボール!!」
(そりゃそうか……初球は振らないよな普通)
次はアウトコースに沈むジャイロ。沈む球を打ち損じてファウルになる。
(沈んだか……変な回転をしていたが……狙って投げているなら大したもんだ)
多田は鷹戸を認めた上で、続いて、スプリットを空振りする。
(ストレート投げてこないな……追い込んでから見せる気か?)
最後、インコースに投げたのは――スプリット。空振りする多田。三振である。
「ストライークッ!!」
「常興が三振しやがったか……」
これには野淵も驚いている様子だった。多田は悔しそうにベンチに戻ってくる。
「変わったリードをしやがるやつだ。下手に読み合いすると食われるぞ」
「……(多田さんがそこまで言うって相当だな)」
多田の言葉に、烏丸は頷いた。
笹田はストレートを打ち返すが、ピッチャーライナーに倒れ、続く6番、烏丸が打席に立つ。
(ジャイロボール使いか……見ていて飽きない球だ)
烏丸が初球を見逃す。鷹戸は平然と烏丸を睨みつける。
(……球は速くないくせに、アンダースローとそこそこの変化球だけで勝ち上がろうなんて考えが甘いんだよ……)
鷹戸は不機嫌だ。そのまま、インコースにストレートを投げ込む。バットを振りぬく烏丸。しかし、弱弱しく打球は、鷹戸の右手側を跳ねていく。
(ふん、そんなに打ちたいなら野手やってろ)
鷹戸が不敵に笑った後、ショート田中がしっかりとつかみ取り、烏丸をアウトにした。
2回裏、大滝が打席に立つ。
(仕事……。そして、俺の練習の成果を見せるときッ!)
初球のストレートを打ち返す大滝。右中間に上がった打球だが、ライトセンターのちょうど間に落ちる。
「アダ、頼んだッ!」
「どっせーい!!」
センター臼井の言葉を聞き、ライト足立がそのままカットにボールを返す。
(……ん……流し打ちしようとしたのか? 失敗してたけど)
根津は大滝を見ながら思案した。
(遅い球でも、しっかりと待って合わせることができるバッターとみた)
そうやってバッターを分析した根津だが、次の山口を見て、さらに思考を膨らませる。
(見た目は細いから、アベレージヒッター。ミートが上手いんだろう。インコースやローに厳しく攻めて、思い通りに打たせないことが大切。)
根津は初球からシンカーをインローに要求。烏丸は要求通りの所に投げ込む。
「ドンピ!」
「ナイスボールだッ!!」
内野陣からも声が上がるほどのナイスボール――山口は見逃すほかなかった。
(へえ……意外とコントロールはいいんだなあ)
山口が感心している中、烏丸は平然とした様子で次の球を投げようとしていた。
(こいつが慣れちまう前に……仕留めるッ!!)
インコースにスライダーを投げ込む烏丸。手が出ないと思われた山口――のバットが傾く。
(5番が送りバントかッ!!)
(そういえば井達もそんなこと言ってたなクソッ!)
ファースト多田とサード都築がチャージする。烏丸は完全に一歩目が遅れていた。大滝を悠々と送り、1アウト2塁のチャンスを作り上げる。
「……クリーンナップだろうと堅実に点を稼ぎに来る。たとえそれが……もっともミートが上手く、信頼されている選手だとしても、自分自身を過信しない――それがクロ高だ。だけど、問題はこの後――さきほどまでの堅実さは一転、点が取れると思ったらガンガンしかけてくるぞ……」
開盟学園の井達監督は、向こう側ベンチの様子を見ながら顎をさすっている。
(次の伊奈は変化球に強いバッター。秋予選ではあの黒鉄からタイムリーを打ったらしいじゃないか。となると、烏丸みたいな軟投派は……格好の餌食になりがちか?)
初球アウトコースのボール球で様子を見た根津。伊奈に動きはない。
(エンドランとかしかけても面白そうじゃね? 変化球狙い撃ちで)
伊奈はランナーの大滝に目配せする。
(仕掛ける気か……伊奈)
(先制点欲しいっしょ)
烏丸が構え、投球動作に入ると同時に大滝は大きくリードを取る。伊奈は俄然変化球狙い。
(遅い球だから、ストレートでもタイミングは十分間に合う。問題は……変化球が俺の予想以上だったときだよな)
シンカーが投げ込まれるが、伊奈はしっかりと合わせる――しかし、一塁線を切れる打球。
(ちぃ……くっそ)
悔しそうにする伊奈。しかし、そんな様子を見つつも、根津は出し抜かれたような気がして気が気でない。
(仕掛ける気満々じゃないか……やだねえやだねえ)
次に烏丸が投げたのは、スラーブ。この試合で始めて見せた変化球――伊奈はしっかりと合わせ、右方向に流し打ちする――
「ふっ!!」
セカンド白波がショートバウンドの打球を上手く捌く。
「サード!!」
大滝の走塁よりも早い送球。サード都築が送球を受け取って大滝をタッチし、アウトにした。
「くそっ!!」
「惜しいッ!!」
「2アウトだ。思いっきりいけ、烏丸!!」
セカンド白波の好プレイもあって、一気に波に乗る開盟学園。この後の金条も凡退にし、2回の守備を凌ぎ切る。
「ふん……知れてやがる……」
勢いを持っていかれても、なお動じない男が、ここにいた。
「所詮次は下位打線だろ。さっさと倒してやる」
鷹戸遥斗であった――




