レッツ・お錬金術! ですわっ②
「あっ、ちょっと!? あーた、そんなことして、大丈夫ですの!?」
クヌア草のイラストを見た後、いきなり草むらの中に飛び込んでいったリタ。
呆気に取られている私たちの前で、ガサガサと草むらは揺れ続け。
そして、やがてリタが手に何かを握って、ガバッと飛び出してきたのですわ。
「あった! これじゃないですか!?」
「えっ!? え、ええと……あっ、ええ、たぶんこれですわ!」
そう、彼女が手にしていたそれはたしかに、手引書に描かれたものと同じ特徴を持った草だったのです。
ただ、絵と比べるとかなりヘタれているというか、やせ細って見えますけれども。
「……これが、本当に錬金術の材料なのか? 正直、僕にはほかの雑草と見分けがつかないのだが」
「大丈夫ですよ、私に見覚えがあります。これはたしかに、クヌア草。栄養剤の基本的な材料でございます。かなり状態が悪いですが、これでもある程度の物を作ることは可能でしょう」
疑うように言うクロに、そう答えるコロちゃま。
ああ、よかった。どうにか、材料だけは手に入ったようですわ。
そして、そうしているうちにもリタがまたガサッと草の間を駆け巡り、同じものを両手いっぱいに抱えてきたところで、クロはまたもや不安そうな顔で言いました。
「なんだか眉唾ですね、こんな草を使って、作物の実りを良くできるなんて。まあ、今は試してみるしかありませんが。それで、ゴーレム、これをどうしろというんだ?」
「はい。まずは地下に戻りましょう。そこに、必要な道具がございます」
そうコロちゃまに促され、てくてくと地下へと向かう私。
その途中、階段の、光る天井を見て目を丸くしているリタに、私はこう声を掛けました。
「リタ、あなた、草の中に飛び込んだりするから、服にいろんなものが張り付いてますわよ。もう、無茶をするわね」
「あっ、すみません、お屋敷を汚してしまって……。へへ。私、田舎育ちなので、あれぐらいはへっちゃらです!」
なんて、むんっと両腕を上げて見せるリタ。
ほんと明るいですわねえ、この子。やることも、完全に野生児ですわ。
まあ……嫌いではありませんけれども。
なんてやりとりをしつつ地下室に降りると、そこでコロちゃまが、かまどの前に置かれたあの巨大な釜を指さし、こんなことを言い出したのでした。
「お嬢様。これこそが、偉大なる創造主がお残しになられた品。その名も、『錬金釜』にございます。これを用い、素材を混ぜ合わせる『調合』を行うことで、素晴らしき道具を作り出す……それこそが、錬金術というものなのでございます」
「……ええ……。材料を釜で混ぜ合わせるって、まるで料理ですわね……。そんなことで、本当に便利な道具ができますの?」
「はい。まずは、やってみましょう。最初は、こちらの井戸で、水をくみ上げるところからです」
そう言って、かまどの脇にある井戸を指さすコロちゃま。
興味本位で覗いてみると、井戸は恐ろしく深く、底が見えません。
「うわっ、深っ! とんでもねえ深さですわね……」
「錬金術の調合には、大地の力が染み込んだ地下水を使う必要があるのです。そのため、こちらはかなり深く掘られております。落ちれば助かりませんので、ご注意を」
「怖っ!? ちょっと、脅かさないでちょうだい、コロちゃま! ……ていうか、これ、まだ使えますの?」
「はい。こればかりは守らねばと、私が整備を続けてまいりましたので。今汲み上げますので、お待ちください」
そう言うと、コロちゃまは井戸についたハンドルをぐるぐると回し始めました。
すると、それに連動して鉄製の錆びた桶が下りていき、やがて遥か下からざぶんと音がします。
そして、やがて戻って来た桶には、地下水がたっぷりと汲まれていたのでした。
「あら、綺麗なお水。ずいぶん透明で、輝いて見えますのね」
「ええ、大地の力が溶け込んでおりますので、輝いて見えるのです。ではこちらを錬金釜に」
そう言って、地下水を釜に移すコロちゃま。
あんなに深い井戸から水を汲み上げて移す作業は相当の重労働でしょうに、コロちゃまは軽々と進めていきます。
「コロちゃま、あなた、手慣れてますのね」
「はい、お嬢様。私は、元々こうやって調合作業のお手伝いをするために生み出された存在ですので。これが本来の役割でございます」
なるほど、そういうことでしたのね。
たしかに一人だと大変そうな作業ですし、コロちゃまのようなお手伝いがいると便利ですわ。
それに、コロちゃまもどことなく楽しそうというか。
久しぶりに自分の仕事ができることに、充実感を覚えているに見えます。
「さあ、地下水の用意ができました。次は、そのクヌア草の処理を」
「あっ、はいはい。ええと、なになに、クヌア草は穂先を切り取り、その部分だけを使用する。また、この状態で三日間天日干しにし、さらに粉末状に砕くことで、効果がより高まる……うわあ、めんどくさいこと書いてますわー!」
「お嬢様、今回はお試しですので、そのままでよろしいかと。出来は悪くなるでしょうが、それでもちゃんと効果は見込めるはずですので」
うへえっと顔をしかめる私と、いちいち甘やかしてくれるコロちゃま。
はあ、コロちゃまがいて助かりますわ。
自分一人だと、とてもじゃないけどやりきれる自信がありませんわっ。
「わかりました。では、穂先だけを釜の中にぱらぱら~っと。で、次はどうしますの?」
「はい、ここでお嬢様が付けていらっしゃる、当主の指輪の出番にございます。それを錬金釜に、垂らすようにして向けて、意識を集中してみてください」
地下水で満たされた釜に、適当にクヌア草の穂先を放り込んだ私。
そしてコロちゃまの指示に従い、私は右手の人差し指に着けていた指輪を、半信半疑で釜の上にかざし、そして下へと向けたのでした。
すると。
なんとなんと、驚くことに指輪がピカッと光りだし、そこから一条の光が伸びて、釜へと降り注いだではありませんか!




