レッツ・お錬金術! ですわっ①
「……は!? 私!?」
私に錬金術を使えという、コロちゃま。
それに私は、驚きの声を上げてしまいました。
「はい。お嬢様は、偉大なる我が創造主様の血をお引きになられたお方。必ずや、錬金術を扱えるはずでございます」
「むっ、むっ、無理ですわよ! こう見えて私、すっごい不器用で、習い事を身に着けるのにも、人の何倍も時間がかかりましてよっ!? こう見えて!」
「お嬢様。こう見えても何も、お嬢様が不器用なのは見た目通りでございます」
「お黙り、クロッ!! と、とにかく、私には無理ですわよっ! 絶対無理!」
ああ、思い起こされるのは失敗の日々。
ピアノは絶望的だと見放され、ダンスは教師に逃げられること数十回、護身術の教師に至っては一日で来なくなる始末。
そんな私に、コロちゃまのような複雑怪奇な物体を生み出す技術なんて、扱えるわけがありませんわー!
「お嬢様、ご安心ください。いきなり難しいことをする必要はありませぬ。こちらに、我が創造主様がお残しになられたものがありますれば」
そう言うと、なんとコロちゃまは自分のボディに手を差し込み、中からずるりと何かを取り出したではありませんか。
なんだろう、と思って見てみると、それは革張りの古ぼけた本でございました。
「……? なんですの、これ」
「これこそは、我が偉大なる創造主様がお残しになられた、錬金術の手引書にございます。いつか我が子孫が戻ってくるようなことがあれば、これを与えよと命じられ、その時まで守るのが、我が使命にございました」
んまあ、錬金術の手引書ですって!?
それを受け取り、驚きながら開いてみると、その最初のページにはこんなことが書かれておりました。
『我がバーンシュタイン家と錬金術の未来を想って、これを残す。正しき意思によってこれが用いられ、この地に再び繁栄をもたらすことを祈る』
そして、その後にはおじいさまの署名が。
そうか、おじいさまはいつか我が家が窮地に立たされた時のことを考えて、このようなものを残してくださっていたのね……!
しかも、自分を追い出した土地が再び繁栄することを望むなんて。
おじいさまったら、なんて出来たお方なのかしらっ。
「……しょうがないですわね。おじいさまがここまで気を使ってくださっていたんですもの。その錬金術とやらにチャレンジぐらいしないと、バーンシュタイン家の名折れというものですわ」
「おお……。そう言ってくださると信じておりました。私も、長く待ち続けた甲斐があったというものです」
私がそう言うと、感極まった様子で膝をつくコロちゃま。
この子、本当に感情が豊かで、まるで人間のよう。
こんな存在を生み出せるなんて、お錬金術って本当に凄いですわ!
なんて私が感心していると、それまで黙って話を聞いていたクロが、そこで口を挟んできました。
「試してみるのはよろしいのですが……おい、ゴーレム。具体的に、錬金術で何を作れと言うんだ」
「はい。そこのお嬢さんは、先ほど、作物の実りが悪くて困っているとおっしゃっておられました。ならば、それを良くする道具がないか、その手引書を探してみてください」
「はいはい。どれどれ……?」
言われるままに本のページをめくる私。
すると最初の項目に、それらしきものを見つけました。
「これかしら。ええと、名前は『スーパー栄養剤』……?」
「お嬢様。それは、どういう品なのですか?」
「うーん、説明によると、畑に撒けばみるみる土がよみがえり、作物が健康かつ早く育ち、虫除け病よけにもなる、錬金術の基礎にして至高とも言える品なんですって。……書いてることは、なんだかご立派ですけど……でも、スーパーって部分がちょっと安っぽいというか、なんともインチキ臭いですわねえ……」
なんて私がちょっと呆れていると、それを聞いたリタが、ガバっと立ち上がりながら声を上げました。
「ほ、本当に!? 凄い、本当ならとんでもなく凄い物ですよ、それ! そんな凄いものが作れるなら、本当に村の作物を救えるかも……!」
そして、目をキラキラと輝かせるリタ。
ですがそれに、現実主義者のクロが口を挟みます。
「……本当に、そんなもので作物の実りが良くなるのなら、大したものですが。それを作るための材料はなんなのですか、お嬢様? まさか材料がいらないなんてことはないでしょうし、それが入手困難では、意味がありませんので」
「ええと。材料次第で、より強力なものが作れるみたいですけど。一番簡単なものは、クヌア草の穂先というものと、地下水を混ぜるだけでいいらしいですわ。コロちゃま、この材料はありまして?」
「地下水は、地下室の井戸から今でも汲み取れます。ですがそれ以外の材料は、長い年月ですべて駄目になってしまいました。ただ、この屋敷の庭ではいくつかの材料が栽培されておりましたので、もしかしたらクヌア草が残っているかもしれません」
「まあ、そうですのね。じゃあ、さっそく見に行ってみましょう!」
そう言って、そのまま屋敷の裏へと足を運ぶ私たち。
ですけど、そこは……。
「うわあ……。予想はしていましたけど、酷い有様ですわね……」
そう、元は美しく整備されていたであろう屋敷の庭は、隙間なく雑草に覆われ、今や見るも無残な姿になり果てていたのでした。
ほんと、植物って容赦ないですわっ!
「これでは、どれがその材料なのか判別すらできない。そもそも、雑草にやられて枯れてしまっているかもしれないですね」
と、残念そうに言うクロ。
私も、これは駄目なんじゃ……なんて、どんよりした顔で思っていたのですけれども。
なんとそこでリタが、覚悟の決まった顔で自分の頬をパンパンと叩くと、私に向けてこう叫んだのでした。
「私、探します! 領主様、その材料の特徴を教えてください!」
「え? ええと、特徴はここに描かれているようですけども……」
そう言って、私がクヌア草のイラストが描かれたページを見せると、リタはそれをじっと見つめ、こう言いました。
「ふむふむ、高い背丈に、金色の穂先、粒がたくさんついてて……わかりました、行ってきます!」
「あっ、ちょっと!?」
そう言うと、なんとリタは、そのままズボッと深い草むらへと飛び込んでいったのですわっ。




