↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢の領地改革 ~お錬金術の力で、寂れた田舎を大・復・興! ですわっ~  作者: モリタ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/20

それは、まるで……

「はあ、ふう……。りょ、領地の村はまだかしら……」


 王都から旅立って、はや一週間。

 荒れ果てた、道とも呼べない道を慣れない徒歩で歩き、私たちは我が国の領土の、最北端に位置する土地までやってきていました。


「もう、うんざりするほど歩きましたわ……。ていうか、本当にど辺境ですわねぇ~! こんなところに、本当に人間が住んでおりますの!?」


 時は昼過ぎ、春の暖かい日差しが降り注いでいるのはありがたいのですが、周りは見渡す限り山と荒れた草原で、人の住むような場所にはとても見えません。

 権利書によると、ここら一帯と、そこにある村が我が家の領地らしいのですが……。


 するとそこで、大荷物を背負って後をついてきていたクロが、息を切らしながらこう言いました。


「はあ、はあ……。ち、地図が正しければ、もう見えてくるはずです、お嬢様。あと少し、ご辛抱を」

「……それはいいですけど……。あなた、本当に大丈夫ですの? クロ。疲れ切っているのではなくて? やっぱり私も荷物を持ったほうが……」


「いいえ、お嬢様にお荷物など、間違っても持たせられません!」


 私の言葉に、背筋をスッと伸ばし、硬い表情で応えるクロ。

 そう、クロは私に荷物を持たせまいと、たった一人で旅の道具すべてを抱え込んでいるのですわ。


 さすがに可哀想になって、何度も荷物を分けるよう言ったのですが、毎回この調子ですの。

 私のため、というより、執事としてのプライドがそうさせるのでしょうけども、ほんと、妙なところで真面目な子ですわ。


 まあでも、慣れない旅でしたが、クロが色々とやってくれるおかげでどうにか耐えられました。

 テントでの初めての野宿も意外と平気でしたし、クロが作ってくれた料理もそう悪くはなかったですし。


 ただ、お風呂に入れないのだけは困りもの。

 領地についたら、いの一番に汗を流したいところですわっ。


「あっ、見てください、お嬢様。向こうに、村らしきものが見えました。おそらく、あそこが目的地です」

「わっ、ほんとですわねっ! 村よ、村ですわっ!」


 小高い丘を登ったところで、ついに草原の向こうに建物らしきものが見えてきました。

 ああっ、ついに我が領地へとたどり着いたのですわっ!


 自然と足速になり、希望を胸に村へと急ぐ私たち。

 だけど、そこに近づけば近づくほど、私たちはどんどん不安になっていくのでした。


 なぜならば……村のすぐ近くだというのに、周囲の土地が荒れ放題になっているからなのですわ。

 元は畑だったらしき場所には雑草が生い茂り、放置されていて、道もガタガタでとても人通りが多いようには見えません。


 さらには、遠目に見える村の建物はどれもボロボロで、まるで廃墟のよう。

 村を守るために積まれていたであろう石壁も崩れ落ち、土台だけが残り、周囲には人影がなく、物音と言えば吹きすさぶ風の音のみ。


 そして、私たちが茫然とした表情で村の入口にたどり着くと。

 そこには、今にも崩れ落ちそうな木の看板に、かすれた文字で『マルカス村』とだけ書かれていたのでした。


「……」

「……」


 それを前に、ただただ言葉を失う私たち。

 そして、しばらく茫然と立ち尽くした後。


「こ、これが、我が領地唯一の村、マルカス村……。めっ、めっ……めっちゃくちゃ、寂れてやがりますわ~!!」


 と、私は絶叫してしまったのでございます。


「お嬢様、気をしっかりお持ちください」

「無理よ、もう無理! こんな大変な思いをして、一縷(いちる)の望みに賭けてここまで来ましたのに、当の領地がこんなひどい有様だなんて! こんな貧相な村から、税金なんて取れるわけがありませんわー!」


「はい、お嬢様。本当に名前の通り、まるでカスみたいな村ですね……」

「それ、言う!? あーたが! 私が言葉を飲み込んだのに! わーん、もうおしまいですわよぉ~!!」


 などと、泣き叫ぶことしかできない私。

 無駄っ! すべて、無駄だったのですわぁ!

 そりゃあね、薄々わかってはおりましたけど。


 領主に放置されているような土地が、豊かなわけありませんでしたわ~!


「落ち着いてください、お嬢様。なにはともあれ、入らない事には話になりません。まずは村に入って、村人を探しましょう」

「うっうっ、わかりましたわよ……。でも本当に、こんなところに人が住んでいるのかしら」


 そんなことを言い合いつつ、村へと足を踏み入れる私たち。

 すると村には陰の気が漂っていて、あちこち雑草だらけ、まるで活気がありません。


 ほんと、すでに廃村になっていると言われても、納得してしまうぐらいの廃れぶりですわ。


「あっ、見てくださいお嬢様。一応、人はいるようですよ」

「あら、ほんとですわ! ……とはいえ、ご老人ばかりですわね……」


 村の中心らしき場所まで行くと、ようやく数人の人影が。

 だけどどれもご老人で、ヨボヨボと歩き回っていて、なんとも覇気のない様子。

 とはいえ、ようやく領民と出会えたわけで。


 第一印象は大事ですわよね、と私は咳払いを一つ。

 気分を入れ替え、そこらへんに座っていたお婆さんに、笑顔で語りかけたのでございます。


「こんにちは、お婆さん。良い天気ですわね」

「あんれま、こりゃどえれえ美人さんだなや。こんなクソ田舎にようこそ。旅人さんかえ? 珍しいねえ」


「おほほ、美人だなんて、そんな本当のことを。褒めてもなんも出んですわよっ。……こほん。旅人ではありませんわ。私、この土地の所有権を持つお貴族、バーンシュタインの者ですの。恥ずかしながら、戻ってまいりました」


「……はえ?」


 私がそう挨拶をすると、お婆さんはそうつぶやいて、そのままフリーズいたしました。

 そして、やがてその表情がじんわりと驚愕に変わっていき……。


 次の瞬間、なんとお婆さんは、とんでもない大声で叫んだのですわっ!


「ば、ば、ば……バーンシュタインじゃあああああああ!! の、の、呪われた貴族が戻ってきた! わしらに復讐するために、バーンシュタインが戻ってきたぞおおおおおおおおおお!!」


「うわ、うっさ!?」


 あまりの声量に、思わず耳を塞いでしまう私。

 えっ、ていうか、今、なんて言いました?

 呪われた貴族!? 復讐!?


 一体、どういうことですのー!?


「なっ、なんじゃと!? 悪魔のバーンシュタインが戻ってきたじゃと!?」

「たっ、大変じゃあ! この村に、とどめを刺しに来たんじゃ!」

「にっ、逃げろおおおお! 魂を奪われるぞっ! 逃げるんじゃああああ!」


 しかも、その声を聴いたお年寄りたちが一斉に騒ぎ出し、さっきのヨタヨタした動作はどこへやら、脱兎の勢いで逃げ出し、家屋へと飛び込んでいったではありませんか。


 そしてバタンバタンと一斉に戸締りをし、あっという間に辺りには私たち以外、だーれもいなくなってしまったのでした。


「な、な……なんですの、この態度!? 悪魔がどうとか、魂を奪われるとか、どういうことですのー!?」

「うーん。どうも、お嬢様は村人にたいそう嫌われているようですね。いわゆる、招かれざる客というやつです」


 あまりの出来事に愕然とする私と、冷静にそんなことを言うクロ。

 ほんっと、失礼しちゃいますわ!


「そもそも、おかしい話ではあったのです。領地を持ちながら、統治せず放置しているというのは。もしかしたら、バーンシュタイン家とこの村の人々の間には、過去に何かあったのやもしれません」


「なにかあったにしても、失礼が過ぎますわ! こちらが丁寧に挨拶をしているというのに! もう、片っ端からドアをノックして回ってやろうかしら!」

「そんなことをしても、いたずらに村人を怖がらせるだけですよ。とにかく、今夜の宿だけでも確保して、いったん腰を落ち着けましょう。考えるのはその後です。お嬢様も、お疲れでしょうし」


「……宿、といっても、それらしき建物は見当たりませんわよ」


 通りをぐるっと見回してみたけれど、どれもボロボロの民家ばかりで、お店の類は見当たりません。

 そもそも、旅人が珍しいと言っていたから、人が来るような土地でもないのでしょう。


「お嬢様、ならばかつてバーンシュタイン家が住んでいた屋敷を探してみましょう。領地と共に家の権利書もありましたので、もしかしたらまだ残っているかもしれません」


「そうですわね……。屋敷に、なにか使えるものが残っているかもしれませんし」


 クロがそう言うので、重い足取りで村を探して回る私たち。

 だけど、そうすると村人たちが家の窓を少しだけ開けて様子を見てきて、近づくと慌ててバタンバタンと閉めるので、気分が落ちること落ちること!


 ほんっとうに、失礼な奴らですわ~!

 げんなりしながら、それでも歩いていくと、村のはずれに、三階建ての大きな建物が見えてまいりました。


「こんな村に似つかわしくない、立派な建物。おそらくあれがそうでしょう」

「……立派……? 私には、デカい廃墟にしか見えないのですけれども……」


 そう、それは見事に荒れ果て、壁にはびっしりと植物のツタが走り、あちこち窓は割れ、ひどい有様でした。

 庭には雑草がみっしりと生え、立派だったであろう門はサビだらけ、しかも外れかかってキイキイ音を立てているではありませんか。


「ひっどい有様ですわねえ……! どれぐらい放置されていたのかしら」

「三十年ほど前からのようでございます。お嬢様のおじいさまの代、そのあたりでなにかあって、バーンシュタイン家はこの村を捨て、王都に移り住んだようですね」


 まあ。おじいさま!

 私のおじいさまは、王都で財を成し、我が家繁栄の礎を築き上げたお方。

 ですが私が物心つく前にお亡くなりになっており、ちゃんとお話したことはありませんでしたが、とても聡明な方だったとうかがっております。


 まあ、結果としてその財は、お父様がたった一代で食いつぶしてしまった形になるわけですけれども。

 そうか、かつておじいさまがここを治めてらっしゃったのね。


「では、こちらはおじいさまのお屋敷だったのね。よく三十年も無人で残ってましたわねえ」

「そこは、さすがに貴族のお屋敷ですから。基礎がしっかりしているのでございましょう。さあ、権利書とともに屋敷の鍵もありましたので、開けて入ってみましょう」


「別に扉を開けなくとも、窓が割れてるから、どこからでも入れそうですけどね……」


 そんなことを話しながらも、クロは薄汚れた玄関扉に、錆びついた鍵を差し込みました。

 何しろ古いものですから、なかなか回らずしばらく苦労しておりましたが、やがて鍵穴がゆっくりと動き出し、ギギギと不気味な音を立てながら扉が開きます。


「開きました、お嬢様。こちらで間違いないようです」

「はあ、まあよかったですわ。私、早く横になりた……うぷっ!?」


 扉を引いたクロに促され、主人として先に入る私。

 ですが、足を踏み入れた瞬間、足元からぶわっとホコリが舞い上がり、私は思わずお下品な声を上げてしまいました。


「なんですの、これ!? もんのすっっっごいホコリですわぁ~! 嫌っ、嫌っ!」

「おお……ホコリがこんなに。これは掃除のし甲斐がありますね」


 鼻をつまんで逃げる私と、妙にキラキラした目で中を覗き込むクロ。

 ああ、そういえばこの子、掃除が趣味でしたわね……。


「お嬢様、床は思いのほかしっかりしていて、底が抜ける心配はなさそうです。さすが良い素材を使っていますね。ですが万一を考え僕が先に歩きますので、どうぞついてきてください」


 そう言って平然と中に歩を進めるクロと、仕方なくハンカチで口元を覆い、後に続く私。

 はあ、こんなところ、本来は入りたくもないですわ。


「案外、雑草は中まで入ってきていませんね。というか、三十年放置されていたわりにはまだ綺麗というか。村人が時折、手入れをしてくれていたのでしょうか?」

「バーンシュタイン家をあんなに嫌っている村人が? ありえませんわ」


「うーん、それはたしかに……あ、ここがリビングのようでございます。お嬢様」


 扉をくぐったクロがそう言って、私も中を覗き込むと、そこにはだだっ広い部屋がありました。

 中には意外と家具が残されていて、かつては素晴らしい名品だったのでしょうけども、もう汚れまくっていて見る影もありませんわ。


「ひどい有様ですわね……。なにか、使えそうなものはありまして?」

「うーん。どうも、かさばる家具だけ捨てて、有用な物は持って行ったようです。もしくは、三十年の間に盗まれたか」


 まあ、そうでしょうねえ。

 正直、そんなに期待していませんでしたわ。


「とりあえず、お嬢様がお座りになられるよう、この部屋だけでも掃除いたします。しばらくお待ちください」

「そう。なら、私は一人で家の中を見て回りますわ。もしかしたら、金目の物があるかもしれませんし」


 私がそう言うと、クロはわざとらしく目元に指を当て、泣き真似をしながらこう応えました。


「うっ、うっ、まさかお嬢様の口から『金目の物』なんて言葉を聞く羽目になるなんて……。没落って、こんなに悲しいものなんですね」

「しっ、仕方ないでしょう!? お金がないと、生きていけないって学んだのですから! 私だって、本当は嫌ですわよっ!」


 それに私が慌てると、クロはすぐにけろっとした表情をして、こんなことを言いやがります。


「冗談です。……ああ、それとお嬢様。これをお持ちください」

「あら? なんですの?」


 そう言ってクロが差し出してきた物。

 見てみると、それは古ぼけた指輪でした。


「この家の鍵と共に隠されていた指輪にございます。バーンシュタイン家の家紋が彫られておりますので、おそらく当主であることを示す指輪かと」

「ふーん……。パッとしない指輪ですわねえ。宝石の一つもついておりませんわ」


 その青銅色の指輪には、たしかにバーンシュタイン家のものである、バラをかたどった家紋が刻み込まれておりました。

 着けてみると、これが案外私の指に馴染み、着け心地も悪くないですわ。


「ご主人様が逃げた今、バーンシュタイン家の家督(かとく)はお嬢様のもの。その威厳を示すために、どうぞお使いください」

「ふーん。まあ、指輪を取られて指が寂しかったことですし、とりあえず着けておきますわ。じゃあ、行ってきますわね」


「あ、お待ちを。どうか一人でフラフラ歩き回って、怪我をしたりしないでくださいね。手当てをする羽目になるのは、僕なので」


 こっ、このガキッ……!

 自分が子供のくせに、人を子ども扱いしやがって~! ですわっ!


「ほんっとうに小憎たらしいですわねぇ~……! 見てなさい、我が家の隠し財産を探し当ててきて、ビックリさせてやりますからっ! ふんっ!」

「はいはい、期待しないで待っております」


 などと、私を完全に舐め腐っているクロに見送られて、リビングを後にする私。

 そのままドスドスと各部屋を見て回りますが、どこもホコリだらけのくたびれた家具が残されているばかりで、金になりそうな物などなにもありませんわ。


「うーん、タンスの裏に、金の延べ棒とか挟まってないのかしら。もう、シケてますわねえ!」


 なんてあちこち探ってみても、やはり生活の足しになりそうなものはありません。

 ああ、それにしても、我ながらなんて浅ましい行いなのかしら。


 虚無感とかいうやつが、ガンガンぶち上ってきやがりますわー!


「はあ。王都で毎夜、優雅に踊り狂っていた私が、今やど田舎で家探しする身分とは……。泣きたくなってまいりましたわ」


 なんて独り言をつぶやきながら廊下を行く私。

 するとそこで、この館の奇妙な点に気付きました。


「あら……? おかしいですわね。この廊下、行き止まりになっておりますわ」


 そう、とある廊下を進んだところ、先にはドアの一つもなく、単純に行き止まりになっていたのでございます。


「構造の関係で、こうなっているのかしら……。それにしても、妙な造りですわ」


 なんて、廊下の突き当りに何気なく手を当ててみる私。

 すると、その瞬間。

 予想もしなかった、驚くべきことが起こりました。


 なんと、指に着けていた当主の指輪がピカッと輝いたかと思うと、次の瞬間、目の前の壁がゴゴゴと動き出したではありませんか!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。