森のエルフと、エレガントに交渉ですわっ③
「お嬢様、私の後へ!」
「ほへ?」
警告の声を上げ、そしてそのまま、私をかばうように前に出るコロちゃま。
すると次の瞬間、森の奥からなにかが風切り音と共に飛来し、コロちゃまの硬い体にぶつかって、カンッ! と、甲高い音を鳴らしたのですわっ。
「きゃっ! なっ、なにっ!?」
「何者かに、矢を射かけられております。お嬢様、どうかお下がりください」
慌てふためく私と、あくまで冷静なコロちゃま。
その落ち着きぶりと大きな背中がとっても頼もしくて、私、不覚にもキュンときてしまいましてよ。
やだっ……格好いい……!
「って、そうじゃなくて……何者ですの!? この私にいきなり矢を放ってくるなんて、無礼な! 姿を現しなさい!」
と、コロちゃまの陰から、森の奥に叫ぶ私。
ですがそれに返答はなく、代わりに再び矢が飛んできて、そしてまたコロちゃまの体に弾かれたのでした。
「お嬢様、相手はおそらく、話にあった亜人かと。話してわかる相手でしょうか」
「簡単にはいかなさそうですわね……。でも、力づくで排除は避けたいわ。いいでしょう、私のお貴族オーラで、交渉のテーブルにつかせてみせます」
そう言うと、颯爽とコロちゃまの陰から出る私。
危険ですお嬢様、と止めようとするコロちゃまに「大丈夫よ」と告げ、そのまま進み出て、私は威厳ある声で森の奥へと声を掛けました。
「亜人よ、聞きなさい! 私の名は、アセリア・バーンシュタイン! 栄えある人間のお貴族にして、この土地の正当所有者です! この森を不当に占拠しているおまえと、話し合いに参りました。良い子にしてたら殴らないから、出てきなさい!」
決まった。我ながら、完璧に名乗りを上げましたわっ!
どうです、これほど威厳ある姿で堂々と言われたら、知性ある存在なら応じざるを得ないでしょう!
と、思ったのもつかの間。
なんと、次の瞬間、森の奥から、またもや鋭い羽音と共に、矢が飛んできたではありませんか!
「えっ、なんでえっ!?」
「お嬢様!」
驚く私と、慌ててカバーに入ろうとするコロちゃま。
ですが、とても間に合いそうにもありません。
驚き慌てた私は、必死の思いで、勢いよく右手を前に突き出したのでした。
「はあっ!!」
そして気合とともに、ぐっと右手を握りしめる私。
すると、飛んできた矢は私の手の中にすっぽり収まり、ピタリとその動きを止めたのでした。
「あらやだ。飛んでくる矢って、案外掴み取れますのね……って、そうじゃなーい! あーた、こっちが穏やかに話し合いを求めているのに、矢を放ってくるとは良い度胸ですわねええええええ! 死ぬ覚悟はできてますの!!!???」
と、矢を片手でへし折り、投げ捨てながら叫ぶ私。
がっぺむかつきますわ~!!
などと怒り狂っていると、そこで奥の茂みがガサガサと揺れ。
そしてそこから、人とよく似た背格好をした、何者かが姿を現したのでございます。
「あら、まあ……」
私ってば、それを見て思わずビックリ。
なにしろ出てきた相手は、それはもう、輝くばかりの美少女だったのですわ!
ほっそりとした手足に、美しく白い肌。
輝くばかりの長い金髪に、芸術品めいて整った顔面。
歳は私より若い、十五歳ほどに見えますが、ただ一点、人と違う場所として、そやつの耳はすっと長く、先端が尖がっていたのでした。
「お嬢様。あれはおそらく、森の民であるエルフでございます」
「エルフ!」
コロちゃまが口にしたその種族名には、私にも聞き覚えがありました。
なんでも森の中に住み、人間よりもずっと長い寿命を持つ、この世でもっとも美しい生き物なのだとかなんとか。
なんで知っているのかというと、人間はこのエルフにコンプレックスがモリモリで、人間からエルフになるとか、エルフと恋仲になるお話が世の中には山ほど存在するからでございます。
ええ、ええ。かく言う私も、エルフとのロマンス小説を読んで、キュンキュンしたことがございましてよー!
「本物のエルフをこの目で見られる日が来るなんて、思いもしませんでしたわ……!」
思わずミーハーな声を上げてしまう私。
エルフは高等種族ではあるものの、そのせいか繁殖能力が極めて低く、その数はとても少ないと言われています。
いつ滅んでも不思議ではないと言われているぐらいで、そんな貴重な亜人をこの目で見られるとは、田舎にも来てみるものですわねえー!
なんて私が感動していると、その、動物の皮で出来ている服を着て、青い目をしたエルフが、ついに口を開いたのでした。
「……ありえねーし。あーしの矢を、空中で摑み取りとか。お前、何者? 化け物? マジ、テン下げっしょ」




