森のエルフと、エレガントに交渉ですわっ②
「ああっ、もう、なーんで私が、こんな小汚い森の中を彷徨わなくてはいけませんのー!? もう、うんざりですわー!」
そんなこんなで、コロちゃまを連れて北の森へとやってきた私。
ですけれど、入り込んでものの一時間ほどで、私はおもいっきり不満の声を上げてしまったのでした。
空気はジメジメしているし、地面はデコボコ荒れているし、虫はいるし、汗もかいてきたし、もうほんっと最悪ですわ!
「どっちに進めばいいのかもわからないし、似たような景色ばかり! ああんもう、早く帰りたいですわー!」
「お嬢様、どうか機嫌をお直しください。お疲れでしたら、私の上にお乗りになられますか」
なんて私が不満をぶちまけていると、気を利かせて、そんなことを言ってくれるコロちゃま。
まー、この子はゴツゴツの体をしているのに、なーんて心が優しいのかしら。
どっかの陰険執事とは大違いですわっ!
「ありがとう、コロちゃま。でも、高いところからだと素材を見落としかねないから、大丈夫ですわ。不満ばっかり言って、ごめんなさいね」
「滅相もございません。偉大なるお嬢様にこのような場所を歩かせてしまい、私も申し訳ない気持ちでいっぱいでございます。……そうだ、少し休憩いたしませぬか。どうぞ、これで汗をお拭きください」
そう言うと、コロちゃまは体のどこから、清潔なハンカチを取り出し、すっと差し出してきました。
「あら、気が利いてますわね」
「ありがたきお言葉。それと、こちら水筒にございます。どうか、こまめな水分補給を」
「あら、ありがと。ずいぶんと手回しがいいですわね、コロちゃま」
水筒を受け取って軽く口をつけながら、感心してそう声をかける私。
中身はよく冷えたハーブティーになっていて、乾いた喉に染みわたります。
ほんとこの子、下手な人間より優秀ですわね、なんて思っていると、コロちゃまが岩の顔をにっこりさせてこう言いました。
「すべて、執事クロフォード殿が用意してくださったものです。さらに、お嬢様に関する注意事項もたくさん教えていただきました。執事殿は、お若いのに優秀で、かつお嬢様にたいそう心酔しているようで、感心するばかりです」
「……あやつが、私に心酔、ですって!? 冗談でしょう、あれは本当に、毎日毎日お小言と嫌味ばかり! 本当にろくでもないやつですわ、あのガキは!」
と、コロちゃまの言葉に怒り心頭の私。
あやつの心無い言葉に、私が日々どれほど傷ついていることか……!
するとコロちゃまは恐縮した様子で、大きな体を縮こませました。
「これは、大変失礼いたしました。……ですが、そうお思いならば、どうしてクロフォード殿を執事としてお側においておられるのですか?」
「ふん。仕方ないのですわ。あれは、元々別の方に仕えていたのです。でも生意気だと、ずいぶんとシバかれていまして。それで私が引き取ったのですわ」
そう、異国の生まれであるクロは、目つきが悪いとか反抗的だとかで、よその貴族に暴力を振るわれていたのでした。
私はそれを見かね、あやつを元の主人から引き取ったのです。
「だというのに、あやつは私に感謝するどころか、毎日毎日生意気な態度ばかり! 私のことが嫌いなのよ。でも私も引き取った責任があるから、しゃーなしで側に置いていますの。あいつのほうも、きっと行き場所がないから私についてきているだけですのよ。ほんとにもう、どうしようもないですわ!」
これはもう、いわゆる一つの腐れ縁。
嫌でも一緒にいるしかないのです。ああ、私ってなんて不幸なのかしら!
なんて私が嘆いてみせると、それにコロちゃまったら、妙に優しい目でこんなことを言ったのでした。
「なるほど。執事殿が、あれほど熱心にお仕えする理由がよくわかりました。お嬢様と執事殿は、お互いを信頼しあっているからこそ、立場を越えて気さくに付き合えているのですね。素敵にございます」
「……あーた、私の話、聞いてましたぁ!?」
どこをどう聞き間違えたのか、的を1kmぐらい外したことを言い出すコロちゃま。
もう、言語を理解する能力が錆びついているのではなくて!?
もう、このこの! と、コロちゃまの体をぽかぽかと叩くふりをする私と、申し訳ありませぬ申し訳ありませぬと言いながら、なんだか嬉しそうなコロちゃま。
はあ、まったくもう。
……しかしこの子、本当に性根が穏やかで、こうして一緒にいると落ち着きますわね。
うっとおしい森の探索も、この子とならどうにか我慢できますわ。
なんてことを考えながらテクテク歩いていると、その時、コロちゃまがさっと視線を森の奥に向け、そして緊張した声を上げたのでございます。
「お嬢様、私の後へ!」




