村人と魔獣と初めてのお暴力⑤
「ギャウッッ!!」
あまりの出来事に気が動転し、飛びかかってきた魔獣の脳天に、勢いよく木の杭を叩きつけた私。
すると、絶叫と共に、魔獣の頭がバカン! と派手に割れまして。
魔獣はそのまま地面に倒れ伏し、ビクビクと震えた後。
それっきし、動かなくなってしまったのでございました。
「……あら。なんか、当たりましたわ」
予想外の出来事に、ビックリしてしまう私。
無茶苦茶に振り回しただけなんですけども、案外当たるものですわねえ。
なんてことを考えていると、そこで背後から、クロの声が聞こえてきました。
「お嬢様! まだ来ます!」
「はっ……!」
言われて視線を向けると、確かに村の向こうから、さらに何匹もの、先ほどの奴と同じ姿をした魔獣たちが駆けてくるではありませんか!
しかも、私を敵と認識したのか、まっすぐこちらに向かってきている!
ここは一旦逃げたほうがよかったのかもしれませんけど、私ったらつい気が動揺してしまい。
慌てて木の杭を振りかぶると、逆に駆けだして、勢いよく奴らを迎え撃ってしまったのですわ。
「イヤー!! 来ないでー!」
「ギャオッ!?」
「来ないでって……言ってるでしょぉー!?」
「ゴッ!」
「いい加減にしないと!」
「オオオオオオン!」
「ぶん殴りますわよおおおおおおおおお!!」
「ガアアアアアアアアア!!」
無我夢中で、杭をやたらめったらと振り回す私。
すると、なんだかゴンゴンと手ごたえがあり、そして。
ふと気が付くと……魔獣たちは、全てその場で息絶えていたのでございました。
「グオオオオオ……」
「あら。案外、勝てましたわ」
断末魔の声を上げて崩れ落ちる魔獣と、それを見下ろしながらつぶやく私。
意外と、魔獣って弱っちいんですのね。
だって、私のようなか弱いレディに、こんなにあっさり負けるんですもの。
すると、そんな私を見ていた村人たちが、茫然とした様子でつぶやきました。
「まっ……魔獣を、あんな杭一本で殴り殺しちまっただ……」
「あ、あんな細っこい腕で、ばっかんばっかん、脳天さ叩き割ってただ……」
「はっ……!?」
そこで自分がした蛮行を振り返り、ドキリとしてしまう私。
「やっ、やだわ。私ったら、はしたない。おほほほほ……」
言いつつ、黒い血のようなものがこびりついたボロボロの木の杭を、ポイッと投げ捨てる私。
ああっ、貴族令嬢たる私のイメージに、傷がついてしまいますわっ!
い、いや大丈夫、まだいける。まだごまかせますわ!
なんてことを考えていると、様子を見ていたクロが、そこで満面の笑みを浮かべて言いやがりました。
「さすがお嬢様。護身術の教師に『筋力が異常なのですが、巨人の生まれ変わりか何かですか?』とか、『すでに私の十倍ぐらい強い人に何を教えろと?』とか、『今すぐ武人になってください。三日で天下を獲れます』とか言われただけあります」
「おだまりっ! あのゴマスリ怠慢教師の話はしないでっ!」
ああ、思い出しても腹が立つ。
高名な方だというから期待していたのに、私が何かするたびに大げさなことを言って、しまいには『自分がこんなにも弱いと思い知らされました。引退して田舎で畑でも耕します』とか言って、一日で来なくなりましたの。
まったく、おべっかにもほどがありますわ。
私のような可憐な乙女が、そんなに強いわけないでしょっ!
今しがた、魔獣を十匹ほど殴り倒せたのだって、たまたまですわ、た・ま・た・まっ!
などと私が憤慨していると、そこで、まだ突っ立っていた村人たちが、さらにこんなことをつぶやきました。
「す、凄いべ……。わしらが束になっても傷一つ付けられん魔獣を、たった一人でバッタバッタと……」
「しっ、信じられんべ……。まるで、神話の登場人物みたいだったべ……」
などと、熱にうなされたように言い合う村人たち。
あら、なんかこやつら、様子がおかしいですわね。
なんて私が思っていると、そこで、予想外なことが起きました。
なんと、村人たちは顔を見合わせると、手にしていた農具を次々に取り落とし。
そして私を取り囲み、凄い勢いで土下座をカマしてきたのでございます!
「えっ、ちょっ、なに? 急に、なんですの!?」
「しっ、失礼いたしましたぁ! まさか、あんなひどいことをしたオラたちを見捨てず、しかも守ってくださるなんて! も、申し訳ありませんでした、領主様あああああ!」
「かっ、神じゃ。この方こそまさに、戦の女神様じゃあ!」
「なんまんだぶなんまんだぶ! おおーありがとうございます、ありがとうございます! 救世主じゃ! バーンシュタインは、わしらの救世主様じゃああああああ!!」
「わしらの愚かさを、どうかお許しください! 今度こそ、今度こそ死ぬまで領主様に尽くしますじゃ! けっして裏切りません! だから、どうか、どうかお慈悲をおおおおお!!」
そして村人どもは涙をボッロボロ流しながら、額を地面に擦り付けて私を拝み始めたのです。
え、なんですの、これ……。
そのあまりの豹変ぶりに茫然としていると、そこでクロがそっとささやいてきました。
「お嬢様。どうやら愚民どもは、お嬢様を排斥するより、利用するほうが都合がいいと判断したようです。だからこその、手のひら返し。本当にろくでもないやつらですが、こちらも利用し返すチャンスかと」
「言い方ぁ! あなた、ちょっとは言い方ってものを考えてちょうだい!? ……で、でもそうですわね、和解できるなら、それに越したことはありませんわ」
そう言うと、私はコホンと咳払い一つ。
村人たちを見下ろしながら、できるだけ威厳のある声を作って、こう告げたのでございます。
「聞きなさい、村人ども。お前たちは、本当にしょーもない。それでも、私はバーンシュタインの名において、お前たちを赦します。お前たちが改心するというのなら、この私が、この村に再び繁栄をもたらしましょう。ですから、今後は文句ひとつ言わず、疑問も持たず、命ある限り全力で私に従いなさい。下僕のように。そう、下僕のように。いいですわねっ!?」
「はっ、ははーっ!!」
……こうして、展開についてこれてないリタが茫然と見守る中、私と村人どもは、劇的な和解を果たしたのですわ。
そして私とマルカス村は、栄光への道をゆっくりと歩み始めたのでございます。
もっとも……それは、決して平坦な道のりではなかったのですけれども。




