村人と魔獣と初めてのお暴力④
えっ。
畑に変なものを撒いてないか、などと言ってくる村の老人たち。
それを聞いて、私は思わず、そんな言葉が似合う表情を浮かべてしまいました。
「えっ? やだ、変な物なんかじゃないよ。領主様が作ってくれた薬を撒いたの。錬金術とかいう凄い力で作ってくれたもので……」
雰囲気がおっかない村人たちに、ひきつった笑顔で説明するリタ。
だけど、それを聞いたとたん、村人たちはサッと顔を青ざめさせ、そして次の瞬間、老人とは思えないバカでかい声で叫んだのでございます。
「錬金術……! やはり、そうか! おめえ、なんてことを! この、馬鹿者! 錬金術は、かつてこの村を滅ぼしかけた、邪悪そのものなんじゃぞっ!!」
「えっ……!?」
予想外の言葉に、驚きの声を上げるリタ。
私たちも、あまりのことに、ビックリしてしまいましたわ。
お錬金術が、邪悪ですって!?
「どっ、どういうこと? 錬金術がなんだって言うの?」
「リタ! ええか、よく聞け! 昔、この村がとんでもない大災害に見舞われたことは、お前も聞いておるじゃろう! それはな、ぜーんぶ錬金術のせいだったんじゃ!」
「大災害が、錬金術のせい……?」
「そうじゃ! 錬金術は、この世の成り立ちに反した邪法! 本来そうではないものを、無理やり捻じ曲げる悪魔の技術だったんじゃ! だから、神がお怒りになって、大災害でこの地を滅ぼそうとなされたんじゃ!」
……神が、怒ったですって?
なにそれ、馬鹿らしいですわっ!
「怒ったって、なんでそんなことがわかりますのよ! 神様が実際に現れたとでもいうのかしら!?」
「ああ、現れただ! うちのじいさまの夢枕に神様が現れて、おまえらは邪悪だから滅ぼすって怒ったそうだ! 間違いねえ!」
やだっ、根拠イズ夢!?
怒りに任せて口を挟んだら、とんでもない珍回答が返ってきましたわっ!
なんて私が呆れていると、そこでさらに村人たちが集まってきて、口々に騒ぎ出したのでした。
「そうだ、そうだ! バーンシュタインは、オラたちを騙して邪悪な行いの手伝いをさせ、この地に大災害を引き起こしただ! 悪魔の手先だ!」
「見たこともねえ奇妙な道具さ使って、オラたちを操り、自然に逆らって富をかき集めたバーンシュタイン! その証拠に、奴を追放したら災害はピタッと収まっただ!」
「ええっ、それはたまたま、タイミングの問題なんじゃ……」
「うるせえうるせえ! それだけでね、オラたちは知っちまっただ! 昔、錬金術を作ったとかいう国は、一夜にして滅びたって! きっと、錬金術なんか使ったから、天罰で滅びただ! やっぱり錬金術は、呪いの力だ!」
と、血走った目で騒ぎまくり、じわじわと私たちを包囲してくる村人たち。
農具を振りかぶっている奴までいて、なんだかやばーい雰囲気ですわ……!
「……お嬢様。先々代当主様が、この地をお捨てになられた理由が、今ハッキリとわかりました。この農民どもは、無知と愚かさにより、錬金術という力を受け入れることができないのでしょう」
「そのようですわね……。それでちょっとずつ不満が高まり、災害を期にそのタガが外れた、といったところかしら……。こやつら、どうしようもないですわ!」
「はい、お嬢様。さすがマルカス村。住んでいる住民まで、まるでカスみたいな奴らでございます」
「……そのネタ擦るの、やめてもらえますぅ!? 緊張感がなくなるでしょう、緊張感が!」
なんて、迫力に押され後ずさりながら、馬鹿なことを言い合う私とクロ。
そうしている間にも村人たちはさらに勢いづき、狂ったように叫んだのでございます。
「オラたちは大地と真面目に付き合ってきたのに、バーンシュタインにそそのかされたせいで、この様だ! この土地がこんなことになったのは、おまえらのせいだ!」
「なのに逆恨みして、オラたちにとどめを刺そうとやってきただな!? 土に毒さ撒いて、今度こそ滅ぼすつもりだ! 復讐のために!」
「許せねえだ、バーンシュタイン! おまえらの思い通りになんてなってたまるかっ!」
「この土地から、出ていけ! オラたちの土地から、出ていけ!」
「でーてーけ! でーてーけ!」
と、ついには出てけコールを大合唱し始める村人たち。
どうやら、恐怖心が逆転して、やたらと攻撃的になっているようですわ。
なんて、余裕があるようなことを考えつつも、ここだけの話……私、今、本気の怒りがこみあげてきてやがりますわ!
ここに来てから、私はおじいさまの遺した手引書をかなり読み込みましたけれど、大災害を引き起こすなんて要素は一つも見当たりませんでしたわ。
むしろ、それは駄目になった大地を蘇らせるための、知恵と努力の結晶のようなものでした。
そうそれは、おじいさまがこの村のために、本当に身を粉にして尽くしていたと、端々から伝わってくる内容でしたの。
それを、この村人どもは~……!
おじいさまを侮辱されてタダで済ませるものか、こうなったら思いっきり言い返してやろう、と身構える私。
ですがそこで、黙って話を聞いていたリタが、キッと周りをにらみつけ。
「みんな、いい加減にしてっ!!」
と、とんでもない声量で叫んだのでございます。
そのあまりの迫力に、調子づいていた村人たち(と私)は驚き、一斉に身を引きました。
そして、リタはそんな彼らをにらみつけながら、さらにすごい剣幕で続けます。
「なによ、黙って聞いてれば言いたい放題……! 大災害は、バーンシュタインのせい!? なによ、そうじゃないことは、自分たちが一番知ってるんでしょ!」
「うっ……」
「陰で言ってたの、知ってるんだからね!? 領主様は良い人だった、自分たちが間違っていたって! 本当は自分たちが悪かったって思ってるから、そんなに復讐が怖いんでしょ! 違う!?」
「……」
リタのその言葉に、気まずそうに視線を逸らす村人たち。
それを一人ずつにらみつけながら、リタは続けました。
「そもそも、領主様に八つ当たりして追い出して、なにか上手くいったの? ただ、どうしようもなく衰退していって、今や村がなくなろうとしているだけじゃない! 何が復讐よ、ほうっておいても勝手に滅びる村に、誰が復讐に来るって言うのよっ!!」
「うっ……ううっ……。うっ、うるさいべ、大災害の時には生まれてもなかったおまえが、なにを偉そうに! 当事者でもないくせに……!」
リタの言葉があまりに胸に刺さったのか、老人の一人が苦し紛れにそんなことを言いました。
ですが私、それにカチンと来てしまい、つい口を挟んでしまいます。
「当事者でもない、ですって……!? ふざけないでちょうだい。いいこと、この子はね、たった一人で私のところに来たのよ。自分は無礼討ちにしてくれてかまわない、だからおまえたちを許してやって欲しいって。そう、たった一人で嘆願に来ましたのよ!」
「なっ……!? ほ、本当か、リタ!? おめえ、一人でそんな無茶を……!?」
「……」
「本当ですわ。だから私、それに胸打たれて、全てを赦すことにしましたの。だけどその間、お前たちは何をしていましたの? ただ家に籠って、ガタガタ震えていたのではなくて? だというのに、おまえらはこの子と私たちが村のためにしていることを、毒だのなんだの、迷信でよくもまあ……! 恥を知りなさい、このバカチンどもがっ!」
そう私が一喝すると、村人たちは目に見えてシュンとし、気まずそうに視線を落としました。
ふんっ、言ってやりましたわっっ!!
そして、そんな憐れな老人どもを見回すと、リタは諭すようにこう声を掛けます。
「ねえみんな。この村があるのは、もともと領主様のおかげだったんでしょう? ならもう一度、信じてみようよ。領主様のなさることを」
「だ、だけんども……。今さら、バーンシュタインや錬金術を信じることなんて、できねえ……! できねえよ! だってそうじゃないとオラたち、とんでもないことを……!」
なんて、この期に及んで、まーだそんなことをいう村人ども。
本当にこいつら、どうしてやろうかしら、なんて思ったその瞬間。
突如、村の広場からゴーン! と大きな鐘の音が響いてきて、私、飛び上がってしまいました。
「ひゃああああっ!? なっ、なに!? 何事ですのっ!?」
「たっ、大変じゃ! こりゃあ、危険を知らせる鐘じゃあ! まっ、まさかっ……!?」
と、動揺し、大慌てし始める村人たち。
するとそこで、広場のほうから別の村人が走ってきて、大声で叫んだのですわっ。
「た、大変じゃー! 魔獣じゃ、魔獣が村に侵入してきおった! みんな、逃げっ……ぎゃあっ!」
「ひいっ!?」
駆けてきた村人が、そこで何かに襲われて、勢いよく倒れ、それを見て悲鳴を上げる私。
な、な、な、なにごと!? と驚き慌てていると、そこで、恐ろしい姿をした何かが、ぬっと姿を現したではありませんか。
それは、四足獣……とりわけ大型の犬に似たフォルムとサイズをしていましたが、その体は影のように黒く、ゆらゆらと揺らめいていて。
頭部には一つだけの真っ赤な目玉がついていて、その口は不自然に大きく、そこには無数の凶悪な牙が並んでいます。
そしてその尻尾は、サソリのような形状で禍々しく反り返り、ゆらゆらと揺れていて。
あまりにも不気味な、醜く、恐ろしい姿をしたなにか。
そう、それは、なんというか……。
人間に恐怖を抱かせるためだけに生まれてきた、とでもいうような、おっそろしい化け物だったのでございます!
「あっ、あれが魔獣とかいうやつですの……!? は、話に聞いていたより、ずっと凶悪そうなんですけどもー!?」
「だっ、駄目じゃ、終わりじゃ! みんな、食われて死んじまう! 村はもう終わりじゃー!」
ざざっと後ずさり、悲鳴を上げる私たち。
するとそこで、魔獣は、獲物を品定めするように私たちを一瞥し。
そして、あろうことか、私を標的に定めたらしく、こちらへとまっすぐに向かってきたのでございます!
「ガルルルォオオ!!」
「ひいいいいいーーーー!?」
牙をむき出しにし、不気味な吠え声と共に勢いよく向かってくる魔獣。
それで私ったら、恐怖のあまり気が動転してしまいまして。
「いっ、いやっ……」
そこで、近くの地面に打ち込まれていた、木の杭にさっと手を伸ばすと。
「来ないでっ……」
それをぐいっと引き抜き、そして。
「来ないでって……言ってるでしょおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
そのまま、それを魔獣の脳天へと、力いっぱい叩きつけてしまったのでございます!
以降は、毎日朝七時更新となります。
最終回まで書き終わり済み、連載は半年以上続く予定です。
よろしければ、どうぞお楽しみください。




